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出馬準備「用意するのは飴と鞭?」
 
 
 
「というわけでこれからしばらくは二人は私の敵よっ!」
 ここはお馴染み薔薇の館。雑談中のひと時。
 いきなり、由乃さまがのたまった。
 指差し確認、一指し指を祐巳さまと志摩子さんに向けて。
「敵? なんで? 私たち、由乃さんになにかしたっけ?」
「いえ。私には心当たりはないわ」
 当然、祐巳さまと志摩子さんは困惑の表情だ。当然、乃梨子にだってわけがわからない。
 視線をさまよわせると、瞳子がなんかラジカセにテープをセットしていた。
 何に使うんだよそれ、とか思っていたら由乃さまが再び大声を出した。
 
「…何? 二人はコレを見ても何も思わないわけ? ……コレよっ!」
 ビシィッ! と音が鳴ったような錯覚を覚えるほどの鋭角さで由乃さまに指されたのはカレンダー。そこの○が書かれた日付を指している。
「もうすぐ薔薇さま信任投票でしょう、それに対しての熱意というものがないの!?」
 ああ、そういえばそんなものがあったっけ。
 と、リリアンの事情に疎い乃梨子はこの間聞いた説明を思い出した。
 
『つまりね、確かに薔薇さまたちの妹はつぼみと言われていて、そのまま持ち上がるんだけど、やっぱりその前に全校生徒に確認をとるわけね』
『ははぁ、それで選挙ですか』
『うん、まあ他にも薔薇さまになりたい生徒の立候補も受け付けているけど…』
『まあ毎年毎年そんなことは起こらないわよ。今年は私たちだけでしょ?』
『たぶん、ね。それに一人はもう薔薇さまだしねぇ』
『あら、だからといって私が安泰なわけないわよ』
 
 …なんてやり取りがあったっけ。
 乃梨子がそんな風にぼんやりと考え事をしているあいだにも、青信号になった由乃さまはトップスピード300キロを超える勢いで突っ走っていた。
「いい? 過去の薔薇さま方を振り返ってみても、全校生徒が完全、完璧、パーフェクトに認められた例はないわけ。それは私たちの知っている人たちも例外ではないわ」
 そうやって演説…もどきをしながら、窓をバックにする位置にゆっくりと歩いていく由乃さま。それにあわせて瞳子が椅子を動かして窓際に置き、それから先ほどのラジカセの位置にスタンバイしていた。
「でもね、私は思ったの。それは私に対する挑戦だと! 不可能だったことを可能にせよ、というマリア様のお導きだと!」
 間違いなく気のせいです。
 ですから、少し落ち着いて周りを見渡してください。
 
「つまり! 私は宣言する! 全校生徒に認められてみせる、ということをっ!」
 
 ババーンッ! とどこからか聞こえてきた効果音と共に、由乃さまは椅子の上に立ちこぶしを振り上げポーズをとった。
 発信源を探ろうと周りを見渡すと、瞳子がラジカセのスイッチを押す場面が見えた。
 …アンタか。さっきの指差しのビシッ、も錯覚ではなさそうだ。
「…でも由乃さん。それと私たちが敵、とどう関係あるの?」
 おお祐巳さま、いい指摘です。
 でも可南子さんに抱きついたままではどことなく、というか全然威厳とかないですね。
 きっと由乃さまの話中の暇つぶしにじゃれていたんでしょうねぇ。
「それよっ! 私がその野望を完遂するためには、祐巳さんと志摩子さんの人気は脅威なのよ!」
 野望て。
 でもまあ、言いたいことはわかるなぁ。
 祐巳さまは親しみやすさで人気者だし、志摩子さんは綺麗だし。
 由乃さまは…由乃さまは…。
 アレ? いいところが思い浮かばないような…。
 つまり乃梨子のイメージでは人気だって思えないってことだろう。いや実際には人気があるんだけれども。
「あら。由乃さんだって人気あるでしょう? なら私たちなんて気にする必要がないんじゃないかしら」
「そーだよー。由乃さん人気者だよー? でしょ、可南子?」
 ああ祐巳さま。可南子さんは只今うっ血(血が一箇所に集まりすぎて、他の部分の血流が悪くなること)症状が進行中ですので喋れないかと。主に顔に集まりすぎて。
「……ええ。よ…しの……さま…は、にん…き者…です」
 うわぁ。可南子さん根性ですなー。
 顔がもろ「祐巳さまの言葉を無視するなんて死よりも重い」って出ているよ。
「あのね。 …そっか、二人は自分のことに疎いってこと、忘れてた」
 がく、と腰砕けな由乃さま。
 ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁ〜ん、ってあのバラエティ番組に使う失敗の時みたいな効果音が鳴る。瞳子、演劇部スキル、無駄なときに駆使しなくてもいいから。
「はぁ。まあいいわ、二人に自覚させることは私の野望より難しいし。瞳子、もういいわ」
「はい、お疲れ様ですお姉さま」
 あ、やっぱり打ち合わせ済みか。でもいきなりでもこの二人なら即興でできそうだ。なんてったって似たもの姉妹。青信号なんて迷惑なものも搭載しているし。
「でもま、野望はさておいて。実際問題あの選挙、いまいち面白味に欠けるのよねぇ」
 いや、選挙に面白味を求めてどーすんですか。
「なにかイベントに仕立て上げるとかどう?」
 その発言を受けて、なんだかとんでもないことをのたまう祐巳さま。まあ青信号をどうにか消灯させようとしてらっしゃるのですね。
 でもリボンを可南子さんに結ばせている中での発言はどうだろう。
 それだと態度がもろやる気無いんです、っていうふうに見えるんですけど。
「でも正式な場である以上、あまり派手には出来ないでしょ? …それに逆効果にもなるんじゃなくて?」
 おお志摩子さん、やはりこの中での良心はあなたです。
 さすがわたしのマリア様。
「どうせやるのだったら面倒が少なくてなおかつ面白いほうがいいわ」
 ……いや、いいけどね。
 そんなお茶目さんな志摩子さんだって大好きさ。
「んー。ならさ、一番信任票が少ないひとは罰ゲームね」
 あ、由乃さまにしては軽めの意見だなぁ。
 でも罰ゲーム、って言葉を聞いた瞬間、祐巳さまと可南子さんがびく、と反応して顔を見合わせていた。
 で、お互い顔を赤らめて見つめあっている…って、何で?
「あーオアツイ人たちはほおっておいて。じゃ、決まりね。 …そうと決まれば負けられないわっ、瞳子、特訓よ!」
「はいお姉さま! 瞳子はどこまでもついていきます!」
 なんだこの熱血ノリは。
 いや、虚空をみつめても何も見えないから。少なくとも天井しか今は見えないんじゃないの?
「あ、そうだ祐巳さんに志摩子さん。罰ゲームなんだけどね…」
 そういうと上級生三人組みは固まってひそひそ話していた。
 内容相談でもしているのかな。
 途中、「えー?」とか「それよっ!」とか「ふふふ」とか聞こえてきた。でも間違いなく最後のは志摩子さんだ。 …一体なんの相談をしているのだか。
 
 どうやら話は一見落着したらしい。
 もうここに仲間入りして大分たつけれど、このノリがたまに慣れないんだよね。
「ね、乃梨子」
 とか考えていたら、志摩子さんが話しかけてきた。
「なに、志摩…お姉さま」
「あのね、乃梨子。あなたは…隠し芸できる?」
「はっ!?」
 何をいきなり言い出すのだか志摩子さんは。
「なら手品は? …ううん、いいわ、ごめんなさい」
 でも、志摩子さんはなにか迷っているふうな顔でいるから。
「いいよ志摩子さん、話して。怒らないから」
「……本当?」
 いやマジで怒らないし呆れないしとにかくマイナス感情もつわけないんで。
 …だから上目遣いで困った顔は反則レッドカードなんでやめてくださいね。
「あのね、罰ゲームなんだけど」
「ああ、さっきの。結局なんだったの?」
 と、軽い気持ちで聞いてみた。
 どうせ由乃さまだし、大したものでもないだろうと腹をくくっていたのだが。
 
「…最下位の人は、姉妹漫才を披露しろ、ですって」
 
 それからの乃梨子が、かつてありえないほど応援活動に力を入れた原因がその一言だったということは、リリアンの生徒には分からないことであった。
 
 そして。
 紅、黄、白、どの薔薇姉妹が漫才したかは、マリア様だけの秘密。
 
 
 
あとがき
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