企画トップに戻る
 
 
「乃梨子!乃梨子!乃梨子!乃梨子!」                   
それは魂の叫びだった。
「わっわたっわたっ…」
激しい嗚咽、声にならない慟哭。
「ゆっ祐巳っ…ゆっみっ様にっ!!」
自らを消し去ったとしても到底償い切れないほどの激しい後悔の念が伝わって来る。
「どっどうっしったらっっ!!!う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
第三者的立場の私ではもうどうしようもない状況になってしまったんだろうか?
いや、まだ諦めてはいけない。
第三者的立場だからこそ出来る「行為」があるのだ。
……とりあえず心の中の志摩子さんに謝っておこう…
(コレハウワキジャナイカラネ?!)
と。
 
 
イツクシム
 
 
チチチ…チュンチュンチュン…
 
(ここは…?)
見慣れない風景の中、瞳子はゆっくりと目を覚ました。
散々泣きはらしたのであろうその両目は清々しい朝の風景には全くと言って馴染まず、あまりにも重く感じていた。
枕元にあるデジタル時計はとっくに朝では無い時間を示していたが、まだそれを認識出来るまで思考は働かない様だった。
かろうじて目覚め始めた神経が「SUN」の文字を見つけ、数分の思考回路の活性化に伴い、ようやく事態を理解しようとする。
そしてフラッシュバックする記憶―
 
勝手に空回りを続けた自分と言う歯車は、自分以外の全てを傷つけようとしたばかりか、その回転の激しさと生じてしまった不適切な形状が故に、歯車たる自分自身すら歪ませてしまった様だ。
それに気付いた時―気付いてしまった時彼女の精神は、ハンマーを打ち付けられ砕け散るガラスの様に激しくしかしながら波浪に削られて行く砂の城の様にゆっくりとそして確実に崩壊の道を歩んでいた。
しかしながら、聖母様は彼女に救いの御手を授けた。
 
それは、まさに「救いの御手」だった。
そして、その御手を差し出した相手の名を強く叫ぶ。
 
「乃梨子!乃梨子!乃梨子!乃梨子!」
 
そして吐き出される想い。後悔なんて言葉では言い表せない激しい痛み。
償いの対価を見いだせない深い闇の様な現状。
でも彼女はまだ救われた。
 
(ところでここはどこだろう…?)
見覚えのある様でない部屋。
少なくとも自分の部屋でない事は確かだ。
次第にクリアになっていく思考能力は徐々にその回転数を上げて行く。
昨日は土曜日。と言う事は今日は日曜…
あの時乃梨子さんに逢って、そして手を引かれるまま歩いていた…
すると…ここは乃梨子さんの部屋?
 
そして唐突に気付く。自らの肌に触れる異変
!!!!!!!
(な、なんで裸なんですの?!)
愕然とする自らの姿―昨日まで身に付けていた衣服は一切無く、代わりに着ているのは淡色系のパジャマの上のみ。
辛うじて付けているショーツも自分の物とは明らかに違う感覚…
冷静になりかけた思考がまた暴走を始めてしまった。
恐らく端から見れば面白い様に表情と顔色が変わっただろう。
そしてそれを見ていたのは―
「の、乃梨子さん!」
『あ、おはよう瞳子。ゴメンね、着替えなかったから私のを着て貰ったから』
「はい?」
『だから、シャワー浴びたのに着替えがないから』
「え?」
『それにしてもさ、髪の毛ぐらいは自分で洗ってよ?まぁ珍しい経験だったけど』
「それって…」
『いやぁ、瞳子って意外な所にほくろとかあるんだねぇ?』
「!!!!!!!!」
『とりあえず着替えも乾いてるし朝食も出来てるから』
「XXXXXXX!」
思わず言葉にならない想いが弾けそうになる。
でも…彼女らしからぬ軽口はさっきまでの思考を冷静に引き戻してくれた。
(ありがとう…)
普段の自分らしからぬ言葉がふと漏れた。きっとそれは包まれている温もりが原因だけではないんだろうけど。
 
 
食卓に着き、乃梨子さんの手料理を頂く。
とは言ってもトーストにボイルドソーセージにスクランブルエッグ、それに紙パックから移した100%のオレンジジュース。
何て事はない、ごく普通の食事。だけど酷く新鮮に見えたのも事実。
普通じゃなかったのはその場の状況。
どちらとも一言も発しなかった。
少なくとも自分からは言える様な性格ではないし、乃梨子さんも無理矢理に首を突っ込む様な性格でもない。
だからこそ私から折れる必要があった。今までの全てを変えるためにも。
「何も…何も聞かれないんですの?」
『何が?』
「何がって…」
『まぁ聞きたい事はたくさんあるけど瞳子が話さない限り無理に聞く気はないよ』
そう返した乃梨子さんはたまたま掛かっていたもの凄い髪型の二人組の変身魔法少女モノ?とか言うアニメに再び視線を返した。
でも真剣な目線ではないので、きっとそれは意図的に視線を交わさないでくれているのだろう。
そうまでしてくれている以上、もう隠し事は出来なかった。昨日の学校内の事といい夕べも何かあった様だし、もうどうでもいいだろう。
「実は…」
 
たどたどしく、所々つっかえたり言い淀んでしまったりしたけど私は全てを吐露した。
全てを話している間、私はずっと下を向いていた。
重苦しい雰囲気が部屋に満ち始めた時、その均衡を打ち破る声が響いた。
『で?』
あまりにも簡略で簡潔な意思表示の言葉に私は思わず顔を上げた。
そこにはいつになく真剣な目をした乃梨子さんが居た。そしてその視線に私は縛られた。
『それで瞳子はどうしたいの?』
ソレデトウコハドウシタイノ?
限りなく簡潔だった。
でも有無を言わせぬ力があった。
故に私は固まった。答えなんか出せそうにもなかった。
『変わらないからね』
『私もそして可南子も変わらないからね』
『少なくとも、私達は瞳子と祐巳様がどうなろうと変わるつもりはないよ』
逡巡を続ける私に次々と撃ち込まれる言葉。それは魔弾の様に正確だった。
「可南子さん…?」
つい何時反応したのはとある名前。
かつては勝手にライバルと決めていた相手。断絶した訳ではないけど仲良しになったつもりはない。けど―
『同じ人を好きになった仲間としてほっとけないらしいね』
衝撃だった。
今までで一番効き目があった。私には沢山の味方が居る事が解ったのだ。
最後の最後でようやく覚悟が決まった。
『うん、いい顔になったね瞳子』
乃梨子さんがそう言って微笑んだ。どうやら心情を読まれていたのか。
いや、それとも表情に出たのだろうか?あの女性の様に。
 
場が和んだ所でもう一つの疑問が湧いた。
「そう言えば…」
『うん?』
「ゆっ夕べの事何ですけどっ!」
『夕べ?』
聞きにくい事のせいで言葉が詰まる。顔は真っ赤になってるだろう。心臓が煩く響いてるし。
でも、これも聞かなければならない。
「夕べ私と乃梨子さんは…」
『別に?』
「はい?」
しかし返しは一言で終わった。
『たいしたことはしてないよ。私には別段珍しい事じゃないし』
「え?」
『女の子同士でお風呂に入ったり一緒の布団で寝たり』
「え、えーと?」
『少なくとも私と志摩子さんとじゃ珍しくないから』
爆弾発言ですわ乃梨子さん…その姿を想像して思わず顔が赤くなってしまう。
『気にしないでよ、うん』
その笑顔がまぶしくて思わず照れそうになる。そしてつい軽口が出る。
「乃梨子さんもマリア様みたいなんですね」
『そうかな?』
「ええ」
『どっちかというと観音様って言って貰えた方が嬉しいかも』
「まっ!?リリアン生にあるまじき事です事!」
照れ隠しのために軽口が戻って来る。
どうやら私のエネルギーも戻りつつある様だ。
 
和やかになった食事も終わり私は自分の制服に着替え帰り支度を始めた。
一緒にエレベータホールへ向かう途中乃梨子さんは携帯でどこかへ話をしていた。
きっと私の自宅へかけていたのだろう。
『大丈夫だよ』
「え?」
そして駅まで送ろうか?と言った乃梨子さんにその申し出を断った後、マンションのエントランスポーチ先でそう言われた。
『瞳子たちは大丈夫だよ』
根拠などどこにもない言葉。でも私の心には強く沁み行った。
晴れ渡る今のこの青空の様に。
 
でも、そうそう世の中ってのは上手くは行かないみたいだった。
遠くから見覚えのある車が近付いて来る。どこでどう連絡を付けたのだろうか?
特徴のある赤い車がやって来る。
そしてそのことを問い詰めようとした時乃梨子さんは今までの全てをぶち壊すかの様な最大級の爆弾発言をした。
『あ、そうそう思い出した。さっきの続きだけどさ。
 とりあえず、『初めて』は祐巳様にとって置いてあげたから』
はい?
『うん、抱きしめた方が良いって言っても私と志摩子さんの様に恋人同士の様には慰められないしね』
ちょ、一寸乃梨子さん?
『まぁ…可愛い仕草の瞳子が存分に見れて味わえた事だけは役得よね、うん』
な、何を仰ってますか?
『知ってる?イツクシムって言葉は慈悲の慈って漢字と愛って漢字両方が当たるんだ』
いきなりなんですの?
『だから、夕べの行為は浮気じゃないから。愛はあったけどね』
!!!!!
『全ては慈愛の心のままに。好きだよ瞳子、なんてね♪
 うん、気にしないでちょうだい。じゃ、私また寝るから。夕べは寝かせて貰えなかったしね』
○△◎□×▽+÷?!
『ごきげんよう瞳子、また月曜に』
エレベーターの閉まり際そう言い残し乃梨子さんは消えた。
さっきまでの優しげな笑みがいたずらっ子のイヤな笑みに変わった。
追い掛ける事も出来ずへたり込んだ私を見下ろすのは複雑な表情の優お兄様。
 
…私の波乱はまだ終わらない様だ…
 
恨みますわよ?乃梨子さん…!
 
 
 
 
 
fin…?
 
 
 
 
 
ごきげんようYHKHと申します物体です。
えと…とりあえず謝ります。乃梨子FUNの方々済みませんですorz
当方の(裏)脳内設定では志摩乃梨はとっくにそう言う関係なんです。ええ、ガチですよ。
で、その設定を流用しました。
 
指定がなければ綺麗な話だったんだけどなぁ(言い訳)
 
ではYHKHは逃げます。因果地平の彼方へと。  
 
 
 
企画トップに戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送