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籠目
 
 
 
 
――かごめ、かごめ、かごのなかののとりは、いつ いつであう。
――よあけのばんに、つるとかめがすべった。
――うしろのしょうめん、だぁれ?
 
 
 
『うしろのしょーめん、だーれ?』
学校からの帰り道、その童歌を久しぶりに聞いた、気がした。
(まえはよく山梨のお祖母ちゃんのうちで遊んだなぁ)
 懐かしい気分になってくる。思わず口ずさむ。
「かーごめ、かーごめ・・・」
 中央の一人が目を隠して屈み、その他の子供それを囲んで周り、止まったところで、中の子が真後ろの人を当てる、そんな遊び。
(そういえば・・・)
 歌いながら。ふと不思議に思った。
(私、誰と遊んでいたんだろう?)
 従兄弟の敬くんや阿佐美ちゃんじゃないような・・・。誰だっけ?うーん。
「うしろのしょうめん、だぁれ?」
 何度か繰り返し歌い終えたけど、誰と遊んでいた派霧がかかったようにまったく思い出せなかった。
 
 
「かごめ?」
 次の日、薔薇の館でそのことを話すと、志摩子さんと由乃さんに不思議そうな顔をされた。
「しらないの?」
「しらないわ」
「ごめん、私もしらない」
 由乃さんも志摩子さんも首を傾げた。最初はからかっているのかと思ったけど、様子が違う。どうも、本当に知らないらしい。
(メジャーじゃないのかなぁ?)
 自分が常識と思っていても、じつは全然そんなことはなかった、ってことはよくあることだし。でも、・・・うーん・・・。
「どんな遊びなの?」
 由乃さんが片手間程度の好奇心で訊ねてきた。中身のないカップを指で転がしながら、暇そうにしているところだったのだ。祥子さまと令さまはおらず、乃梨子ちゃんもまだ来ていない。
 そこで、私は二人に歌詞を教えてあげると、二人は感心したように声をあげる。
「へぇ・・・おもしろいわね」
「不思議な感じのする歌ね」
「でしょう?」
 私も前々から、不思議な歌詞だと思っていた。なんというか、つながりのないというか。それを二人に伝えると、二人とも同じように同意してくれた。
 私はそこで、
(・・・・・あれ?)
と、妙なひっかかりを覚えたが、それはよくわからないまま霧散した。なんだろう?なにか違うような。
 そんな私を置いて、由乃さんと志摩子さんは話を進めていた。そのまま続いて、「かごめ」の話のようだが、由乃さんが白い紙を取り出して何やら字を書いている。
「これじゃない?」
 そう言って志摩子さんに見せた紙に書かれたのは『籠目』。すると志摩子さんはその紙に『籠女』と書いて、由乃さんに見せ返した。
 どうやら「かごめ」に字を当てているらしい。
「『籠目』に『籠女』・・・」
「どちらにしても、不思議・・・よね」
 不思議?たしかに不思議だけど・・・。
「籠の目・・・そうね、こういう話を知っているかしら?」
 志摩子さんが目を細めて、笑う。唐突に私に向かって話し始めたので、少し驚いてしまった。
「仕切られた空間・・・たとえば、この部屋、と外では別の世界という話」
「ど、どういうこと?」
「そのままの意味。そうね・・・今、私達はこの、壁と扉と窓で小さく隔離された世界にいるの。扉を開ければ、少しそれが広がる・・・ううん、繋がって同じなる。薔薇の館の扉を開ければ、さらに・・・」
 志摩子さんが何を言いたいのか、私にはわからなかった。難しくて、それに何故「籠目」に繋がるのか。
「別に区切るモノは物理的なモノじゃなくてもいいの、概念などでも・・・仏教で言う結界もそれに当たるわね。きっちりとした囲いと扉さえあれば、一つの世界ができるのよ。じゃあ、その扉が半開きならどうかしら?世界は繋がっているのかしら?」
「繋がって・・・・」
 私がそう言いかけると、志摩子さんの話の間、今までそこに居なかったように黙っていた由乃さんが口を挟んだ。まるで私がそこにいないかのように。
「繋がってはいないのね?見えているだけで」
「ええ、そうよ・・・見えているだけなの、そういう意味では窓も同じ・・・でも窓のほうが隔絶性は低いかもしれない。隙間や格子もその類ね。私達は罪人を自分たちとは違う世界に置きたい、でも監視しなくちゃいけない・・・それが牢の格子。籠目も捕らえておくモノ・・・。そして、その状態はとても不安定なの、同じにならず混ざり合うから」
 志摩子さんが薄笑いを浮かべていた。
 異様だ・・・異様としか思えない。志摩子さんがおかしい、ううん、由乃さんも。まるで、そこにいるのが志摩子さんでも、由乃さんでもないように。
 私は立ち上がる。が、志摩子さんは消し忘れたテレビのようにその私の行動を意に関せず、言葉を続ける。その様子になにか寒いモノを感じる。
「そうね・・・籠目、籠女、かこめ・・・何にしろ「結界」を作り、それに閉じこめる遊び」
 志摩子さんがニッコリと笑う。いつもと同じ笑みでも・・・場違いな笑み、と私は思った。
 私は怖くなって、扉の外へ出ようとする。が、手首を、がしっと、掴まれた。その先で由乃さんが微笑んでいた。
「どこにいくの?」
 一瞬、その顔からマネキンを思いだした。
「だって、二人ともなんかへんなだもん、だから祥子さまと令さまを・・・」
「探すの?無理よ」
「無理?」
「だって・・・そんな人達・・・いないもの」
「え・・・?」
 由乃さんが何を言っているの?いないって、帰ったってこと?
 しかし、由乃さんは私が今、考えたことを読みとったように言う。
「そんな人達、存在しないもの。だって、あなただって、さっき『祥子さまと令さまはおらず』って思った、でしょ?」
と・・・。
「え・・・?」
 何?一体?何?
「それにあなた誰なのかしら?」
「あなたは私達を異様と言ったけど、異様なのはあなたよ、この『世界』で」
 私?私は・・・だって・・・
「福沢祐巳?ならそこにいるわ」
 私はもうどちらが喋っているのか、ここがどこなのかわからなくなっていた。
 理解できたのは、そこにいる、と言う言葉。でも、私が・・・なんで・・・?
 私は視線を感じて、振り返る・・・――
 
私の鼻先で・・・・
私の顔が・・・笑っていた。
私が・・・・・・・・・笑っていた―――
 
「あ・・・・え?」
 私は何なんだか、わからず、それでも言いしれぬ恐怖に背中を襲われ、無我夢中で、扉に向かう。
 が、開かない。何度も、何度も、何度も開けようとするが、開かない。
“ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ” 
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
 後ろから近づく気配を感じた、その時。
 “ガチャ”
と、開いた。開いて、その先・・・・
 
 半開きなった扉の向こうから、私が覗いていた・・・・・・。
 
 
 
 ハッとすると、私は道の上にいた。いつもの帰り道・・・かごめを聞いた。その場所だった。時間を腕時計で確認する、やはり昨日のかごめを聞いたあの時間。
 白昼夢・・・?
 通学鞄を持つ手は濡れて、全身に冷や汗をかいていた。
(いやなモノ見ちゃったなぁ・・・・)
 でも、どうしてあんなものを?
 うーん・・・・でも夢は夢・・・・怖い夢だったけど。
 そこで、道の先でかごめをしている六、七人の子供がいることに気がついた。一、二、三、四、五、六人が手を繋いでグルグルグルグル周り、一人の女の子が中央にしゃがんでいた。
(あんなところで、危ないなぁ・・・注意した方が・・・・!・・・・・あ・・・あ)
 その光景を見て、私は唐突に思い出した。昔、誰とかごめをしていたのか・・・・・。
 そして、その目の前は光景は、その記憶と同じ光景・・・まったく同じ・・・・
 
 七人のこども、中にいるのは私・・・
 そして・・・・囲む六人の子供・・・それは・・・
  私と
  私と
  私と
  私と
  私と
  私。
 ・・・・私は六人の私・・・私と同じ顔をした何かとかごめをしていた。
 
『後ろの正面だーれ?』
 
 私から見てまっすぐ後ろも・・・
 私の後ろから見た正面も・・・どっちも・・・
 
「私・・・・・?」
 
 振り返ると・・・・・・・・・・・・まったく同じ姿をした私が笑って――――
 
 
 
 そのまま、私と私は黄昏の中に姿を消した・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
「どう怖かった?」
 祐巳はテーブルをはさんで向かいに座っていた志摩子と由乃に、身を投げ出すように感想を訊いた。凄く満足げだ。
「怖かった・・・・って、訊かれても、ねー。オチとかありがちだし、つながりもイマイチ」
「祐巳さん、申し訳ないけど、少しわかりにくかったわ」
 と、そんな祐巳に対して、二人は酷評した。
「えー・・・・」
 祐巳はがっくりと肩を落として、テーブルに崩れ落ちた。
 なぜ三人でこんな話をしていたかというと、学園祭も終わり大した仕事もなく、祥子は家の用事で、令も道場の用事で来ておらず、乃梨子は半ば強制的に瞳子に誘われて一緒に帰ったので、必然的に二年生三人になってしまい、ただ帰るのも何なので、薔薇の館でお茶をしようかということになったのだ。そこで、由乃さんが怖い話をはじめたので、一人ずつ話して、三人目の祐巳の番だったのだ。
 そして、得意げに話して・・・撃沈したのだ。
 そんな祐巳に対して、由乃は容赦がない。
「それに、最後のは余計よ。『そのまま、私と私は黄昏の中に姿を消した・・・・』って、祐巳さんが喋っているんだから説得力がないじゃない」
 由乃がそう言うと、テーブルに額をつけて、いじけていた祐巳の動きがぴたりと止まった。
「祐巳さん・・・?」
 志摩子が心配そうに祐巳に声をかける。
 すると、祐巳の顔がゆっくりあがって・・・・・ニッコリ笑っていた。
 その笑顔で何故か由乃と志摩子はごくりと息をのんだ。
 その時、ばたん、と突然扉が開いて、二人は飛び上がりそうになる。
「ごめん、教室でついつい居眠りして・・・・?二人ともどうしたの?」
 扉を開けて入ってきたのは・・・・・祐巳だった。
「え・・・・・あれ?」
 ぞっとしながら、部屋の中にいた二人が確認すると、『祐巳』の座っていた場所には誰もいなかった。
 二人は顔を見合わせた後・・・・・・・・・卒倒した・・・・・・。
 
「ちょ、ちょ、ちょっと、由乃さん?!志摩子さん?!どう、どうしたの?!!!!」
 乙女の庭に祐巳の叫び声が木霊した。
 
 
 
――うしろのしょうめん・・・・・だぁれ?――
 
 
 
 
 
 
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