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私、幸せです
 
 
 
 あれから七年。
 私は今でも、当時のことを昨日のことのように思い出すことができる。
 色々な人と衝突もしたけれど、それでも後から考えればとても楽しかった高校時代。
 そう。私にとっては、あの人に会えたのが最高の収穫であり、思い出になっている。
 だけど、高校生だった私は、最後まで自分の気持ちが言い出せなかった……。
 そして、あの人と別れて過ごした大学時代。
 それでもあの人は特別な人だった。学外であの人と出会うことがあると、二人はすぐに高校時代の関係に戻ることができる。 もっとも、大学での私は忙しすぎて、滅多に会うことはできなかったのだけど。
 だけど、出会うたびにあの人は、高校時代とはうってかわって女らしくなった私に驚いていた。
 あまりいつも驚くから、いい加減に慣れてよ、と言ってみたことがある。
 そうするとあの人は笑って、高校時代の私を知っている人ならみんな驚くはずだ、なんて意地悪なことを言う。
 確かに、高校時代の私はちょっと異質な存在だった。だけど、それだからあの人と巡り会うこともできたんだと思ってる。
 
 大学を卒業して、私はあの人に告白した。振られてもいい。それならそれですっぱりと諦めよう。
 第一、あの人は私の気持ちに気付いていないだろう。どう考えても、私はあの人の恋愛対象じゃない。
 だけど、あの人は即答しなかった。
 少し考えさせて欲しい。自分も私のことが気になっていなかったと言えば嘘になる、と。
 
 そして卒業から三年後、私たちは一緒に住んでいる。
 共通の知り合いはみんな驚くけれど、驚いた後は祝福してくれる。
「久しぶり、元気だった?」
 お義姉さんが訪ねてきてくれる。お義姉さんは他の誰でもない。リリアンの元紅薔薇さま福沢祐巳。
 私と祐麒の仲を知ったときは、まず驚いて、そして少し困って、最後には納得してくれた人。
 まだ複雑な顔をするときもあるけれど、高校時代と違って、今の彼女は私のお義姉さん。
「祐麒は?」
「祐麒はアルバイトに行ってるの」
「あ、そう」
 祐巳さんは私をまじまじと見る。
「でも、何度見ても本当に変わったね…」
 溜息一つ。
「ねえ、可南子…」
 私は何も言わず、微笑んだ。
 高校時代の私は、今の私よりも私らしくなかったのかもしれない。
 今の私が、本当の私。そう言いきれるのは、祐麒のおかげでもあるけれど。
「…ごめんなさい…って言うべきかもしれません。私なんかが祐麒と…」
「そう言う意味じゃないよ。確かに、驚いたよ。ビックリした。初めてあった頃から考えると、本当に変わったと思うけれど、でもそれが駄目って訳じゃないだろうし。何より、祐麒が貴方を選んだって言うことが大きいの」
 祐巳さんは心の底からそう言ってくれるように見えて、私は嬉しかった。
「そうだよね、可南子」
「…あ、玄関に立たせたままでごめんなさい。中へどうぞ。お茶でも煎れます」
「ありがとう。祐麒が来るまでお話でもしようか」
「高校時代の?」
「勿論。あの頃の、リリアンと花寺のお話」
 私は人数分のお茶を煎れて、とっておきのクッキーを用意した。
「ところで可南子…」
 しばらくすると祐巳さんが、さっきから黙ったままの連れに向き直った。
「驚いているのはわかるけど、そろそろ何か言ったら? 私が何か言っても黙ったままじゃないの、可南子」
「え……。は、はい…。でも、その…なんというか…驚いてしまって…」
「可南子さんは卒業してから私と会うのは初めてだものね」
「はい。…えっと…なんと呼べば」
「祐麒はアリスって呼んでくれてるけど」
 
 私、有栖川金太郎はにっこりと笑って答える。
 
 
 
 
あとがき
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