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蛙薔薇さま(ロサ・ケロン)誕生
「後編」
であります!
 
「あの…すいません、ていうか、質疑応答?」
「はい?」
 桂さんは妙な問いかけに首を傾げる。
「あの、薔薇の舘はどちらでしょうか?」
 リリアンの制服を着てはいるが、全く知らない顔。そのうえ志摩子さんによく似た声。
 なんとなく、ほっとけないタイプ。
 新入生だろうか?
「薔薇の舘はね…」
 懇切丁寧に教える桂さん。
「ご親切にありがとうございました…ていうか、特別出演?」
 微妙にむかつく台詞を残して去っていく少女。
「……なに、あれ…」
(おじさま、大丈夫かなぁ…)
 アンゴルモアは、薔薇の舘へと向かう。
 
「大変だよっ! みんなっ!」
 令さまが息せき切って駆け込んできたとき、祐巳はお茶の準備をしていた。
「どうしたの、令。そんなに慌てて。はしたなくてよ」
「祥子、悠長にしている場合じゃないんだ…よ…」
 声を失う令さま。
「なに…これ」
 砕けたテーブル。
「なにかあったの?」
「あの、令さま、実は…」
「ごめんなさいですぅ」
「部下のしたこととはいえ、我が輩のせいではないとはいえ…」
 タママとケロロが後かたづけに勤しんでいる。
 二人(二匹?)を監督しているのは瞳子ちゃん。
「はい。その破片はこっちに固めて下さいな。それから、タママさんの持っているのはこちらに」
 美少女二人と仲良くしているケロロの姿に、思わずタママインパクトを放ってしまったのが原因である。
「ああ、それであんな怪我を?」
 ケロロとタママの包帯は、二人の巻き添えに(祐巳が)なりかけて怒った可南子ちゃんと瞳子ちゃんの仕業だが、とりあえずその説明を省く祐巳。
「…貴方達、ギロロの部下?」
「誰がじゃーーーー」
 いきなりキレるケロロ。
「我が輩はギロロの上司であります! この軍曹を捕まえて部下扱いとは、我が輩、我慢の限界であります」
「可南子ちゃん」
 静かに言う祥子さま。無言でケロロをむんずと掴む可南子ちゃん。
 可南子、スーパーダンクシュート。
「きぃーーーやぁああああああっ!!!!」
 驚異! 宇宙人虐待の真実!
 と、テロップが出そうなほどの見事なコンビネーション。
「ううううう、ここはリリアンのレイヤー(領域)、いわば集○社サイド。我が輩たち角○組は、通常の半分以下の力しか出ないのでありますか…」
 嘆くケロロに投げかけられる非情の声。
「なんなんだ貴様らは…」
 由乃を警護しながら、令に遅れて姿を見せるギロロ。
「ケロロにタママ、アンチバリアーがありながらこのていたらく。どうせ、くだらん事で見つかったんだろう」
「ひどいですぅ、伍長さん。僕は見つかったんじゃなくて自分から話しかけたんです」
「余計悪いわっ!!」
「そういうギロロさんはどうして見つかったの?」
 祐巳は素直な疑問を口にした。
「ギロロさんはね、私と令ちゃんを助けてくれたの」
 由乃さんは、その時の状況を語る。
「ほほぉ。さすがギロロ、かっこいいでありますな」
「憎いですぅ、伍長さん。女泣かせですぅ」
「貴様らは黙ってろ!」
 赤い体表をさらに赤くして叫ぶギロロ。
「俺は、こいつを守るそいつの姿に感動したから手を貸したまでだ! いわば、戦士としての共感だ! 男だの女だのは関係ないっ!」
「まあまあ、熱くなるって事は図星って事だぜ、ダンナ。クーックックックッ」
「クルル!」
 クルルが真美さんと蔦子さんに挟まれるようにして入ってくる。
 ケロロはその姿を見ていて、冬樹の部屋で見かけた、「FBIに捕まった宇宙人の写真」を思い出していた。
「ゲロッ。クルルもここにたどり着いたでありますか。やはりここはリリアンの中心地、聖地とも言える場所でありますな」
「じゃ、早速インタビューを…」
「ゲロッ?」
「済まないな、隊長。どうもこいつには逆らいにくくて、インタビューの約束までさせられちまった…」
 にっこり笑ってマイクを向ける真美さん。
「さあ、独占インタビューよ。宇宙人との単独インタビューなんて、リリアンどころか世界の歴史に残るわよ」
「ゲロッ。それは困るであります。我々の存在は極秘でありまして…」
「逆らうの?」
 ビクッと無動きを止めるケロロ。
「な、何かおかしいであります。なぜか逆らえないこの声…」
「だろ、隊長。この声、誰かにそっくりだからな…」
 クルルは興味なさそうに言った。
「な、夏美殿でありますか…」
「そう。それ」
「なんだかわからないけれど、インタビューは受けてもらえるのよね」
「ゲロ〜、仕方ないであります…」
 
 インタビュー結果をまとめると……
 敵性宇宙人がこの辺りに潜伏しているので調査に来た。
 どこにいるのかわからないので手分けして探していた。
 ケロロは可南子ちゃんに踏まれて発見された。
 ギロロは思わず令さまと由乃さんを助けた。
 ドロロは乃梨子ちゃんと志摩子さんを助けた。
 クルルは蔦子さんに発見された。
 タママは見たことのあるポコペン人(祥子さまと瞳子ちゃん)がいたので思わず話しかけた。
 
「…全然隠密でもなんでもないわね」
「…面目ないであります」
「それで、敵性宇宙人は見つかったの?」
「それが…まだなのであります、祥子殿」
「その話、場合によっては協力してもよくてよ」
「え、祥子。相手は宇宙人だよ?」
 驚く令さま。
「慌てないで、令。宇宙人であろうとなんであろうと、リリアンに無関係の者が入り込んでいることに違いはないのよ」
「それはそうだけど…」
「探すのを手伝うくらいなら大丈夫でしょう」
「面白そう」
 さっきまで怯えていた由乃が率先して手をあげる。
「はい、探すだけなら私にもできるかも」
「危ないよ、由乃」
「由乃っちなら大丈夫なような気がするですぅ」
 タママがすとんと立ち上がると、由乃の足下に駆け寄った。
「確かにな…裏人格の一つくらい持ってそうな声質だからな」
 頷くギロロに、祐巳さんも思わず頷く。
「裏人格というか、一旦暴走すると止まらないのが由乃さんなんだけどね」
「クッークックックッ、俺にはこの姉ちゃんのほうが、色々と裏がありそうな気がするぜぃ…」
 志摩子さんを指さすクルル。すかさず蹴り飛ばす乃梨子。
「それで、その敵性宇宙人というのはどんな姿をしてらっしゃるのですか?」
 瞳子の質問に答えたのはドロロ。
「それが、はっきりとした姿はわからないのでござる。いくつかの敵性種族に絞ったのでござるが、そのうちどの種族がやってきたかまでは、まだわかっていないのでござる」
「それでは、せめてその候補だけでも聞かせていただけるなら、ヒントになるかもしれなくてよ」
 てきぱきと話を進める祥子さま。
「それはそうだ。クルル、データがあったな」
「クッークックック、あいよ…まずは、異常に背が高くて髪の長いノッポ星人」
「ここにいますわ」
「なにか言いました、瞳子さん」
「いえ、別に」
「クックックッ、つぎは、頭にドリルを付けたドリル星人、地球の仏像を狙ってやってきた美術品窃盗専門のトザマ星人、ギンナン星人、ヘタレ星人、おさげ星人、カメラ星人、七三星人、ヒステリー星人、タヌキ星人…」
「う、宇宙人だらけですわ!」
「…瞳子ちゃん、後でゆっくりお話ししましょうね」
「祥子、私もその話し合いに混ぜてもらえるかな。勿論由乃も参加するよね」
「紅薔薇さま、私と、それから乃梨子も一緒にお話がしたいと思います」
「写真部と、それから新聞部からも話があるわよ、瞳子ちゃん……」
 きょろきょろと辺りを見回すケロロ。
「な、なにやら物騒な雲行きでありますな」
 そう言ったとき、なにやら外からどやどやと騒がしい声が聞こえる。
「男!?」
 真っ先に反応したのは可南子ちゃん。眉を上げて、片頬が引きつっている。
「ん? ケロボールに反応が…敵性宇宙人接近中であります!」
「嘘!」
 慌てる一同。可南子と瞳子と祥子、三人が咄嗟に祐巳を庇うように前に立つ。
 狙ったわけではないが、三人は見事な防備体型を取っていた。
 三人の目が合い、にっこりと笑う。
「祐巳さまは」
「命に代えても」
「守ってみせてよ!」
 由乃を抱きしめるように抱え、自ら盾となる令。
「令ちゃん!」
「由乃動かないで!」
 志摩子と乃梨子はお互いを庇うようにしてテーブルの陰に隠れる。
「志摩子さん」
「一緒にいるのよ、乃梨子」
 突撃銃を構えるギロロ、拳を構えるタママ、音波発生準備を整えるクルルに刀を握るドロロ。
 ケロボールを抱えて走り回っているケロロ。
「お前が落ち着かんでどうするっ!!!」
 ギロロの雷。
 扉が開いた。
「来たでありますっ!」
 平凡なタヌキ顔。
「あのー。祐巳、いますか?」
「…祐麒?」
「あ、この子が薔薇の舘の場所がわからないって言うから、ちょっと案内を…」
「ごめんなさい。あ、おじさま…ていうか再会歓喜?」
「モア殿?」
 驚くケロロに呆れるギロロ。
「ケロロ…貴様、モアのこと忘れてなかったか?」
「ゲロッ、失敬な。モア殿ならリリアンにいても何ら怪しまれることはないという我が輩の冷静な判断でありますっ」
「祐巳…なんだ、そのカエルもどき…」
「あ。こちら、ケロロ軍曹さんとギロロ伍長さん。ケロロさん、ギロロさん、あれが私の弟の祐麒です」
「いや、そうあっさり紹介されても困る。というか、なんでそんなに冷静なんだ。明らかに異質な生命体がいるだろ…」
「こんにちはーー、あ、皆さんいらっしゃる」
「小林、黙ってろ、お前は!」
 背後の声に向かって裏拳を放つ祐麒。
「あ、ごめん。俺一人でいいって言ったのに、結局みんなついてきて」
 みんなと言うからには、今日打ち合わせに来ていた一同。
「男どもか。信頼できるのなら、手を借りてはどうだ? 兵は多い方がいい」
 ギロロの言葉に頷く祐巳。信頼できると言えば信頼できる。何しろ実の弟とその仲間だ。
 祐麒、日光月光先輩、小林君、アリス、高田鉄、パンダ…
 …パンダ?
 一番最後に入ってきたパンダに全員の視線が集まった。
「あ、これ、文化祭のときのアレだよ。紅薔薇のつぼみの入った着ぐるみだって事でオークションにかけられそうになったから、没収して生徒会の備品にしたんだ」
 弟よ、それはいいとして、何故ここに?
「…祐巳殿、その着ぐるみから微弱な洗脳電波と敵性宇宙人反応がっ!」
「へ?」
「え、アレが宇宙人なの!?」
「瞳子は、てっきり優お兄様が入っているものとばかり思ってましたわ」
「私もよ、瞳子ちゃん。優さんならそれぐらいやりかねないと…」
 小笠原家、松平家も相当のものだが、やはり柏木家も同じ血筋のようだ。
「クークックックッ、着ぐるみ星人とは珍しいな。こいつは周囲の人間も着ぐるみに放り込むって厄介な奴だぜ」
 ぽん。
 パンダの姿が消える。
「消えた?」
「そこでござる!」
 ドロロの手裏剣を辛うじて避けるパンダ。
 次の瞬間、パンダが二つになる。
 そして、祐巳さんの姿が消える。
「攻撃中止であります、どちらが祐巳殿か、さっぱりわからないであります…」
「祐巳さん、合図して!」
 由乃さんの声に反応はない。
「クークックックッ。無理だね。着ぐるみの中の人間は軽い催眠状態だ。どっちが祐巳でどっちが着ぐるみ星人か、この近距離じゃ探知機も役立たずだねぇ」
「卑怯ですわ!」
「卑怯者…」
 歯ぎしりする瞳子ちゃんと可南子ちゃん。
 祥子さまがさっとドロロの後ろにしゃがみ込み、ギロロを手招きする。
「お二人とも、私が合図した方に攻撃して下さい」
「なに?」
「わかるのでござるか?」
 祥子はすっくと立った。
「私を誰だと思っていらして? 福沢祐巳の姉、小笠原祥子でしてよ」
 祥子さまの手が上がる。
「偽者は貴方」
 ギロロの突撃銃、ドロロの手裏剣が唸りをあげた。
 
「一時はどうなることかと…」
 祥子さまにしっかりと抱きしめられている祐巳さん。
 瞳子ちゃんと可南子ちゃんは悔しそうにその姿を見ている。けれど、二人には区別が付かなかったこともまた確かなのだ。
「前にも言ったはずよ。私は祐巳がどんな姿になっても見分けてみせる。そうでしょう?」
「はい、お姉さま」
「あー、それでは我が輩たちはそろそろ帰るであります」
 お茶とお菓子を堪能したケロロ小隊一同は、帰り支度を始めていた。
 花寺一行は洗脳の効果を消したことで記憶も失い、今日のことは覚えていないだろう。
「今回は協力感謝であります」
「いいえ。助けて頂いたのは私たちですから」
「地球征服の暁には、リリアンは特別自治区として保存させてもらうであります」
 ちなみに、リリアン側の誰一人として、ケロロ達の地球侵略を本気にしている者はいない。
 由乃、令、蔦子、真美、祐巳、乃梨子、瞳子の意見。
「宇宙人には違いないけれど、ウルトラマンとかみたいに地球の平和を守っているいい宇宙人に違いない。兵士と言うよりファンシーで、ちょっと頼りなさそうだけど」
 志摩子、祥子、可南子の意見。
「その性格で地球征服なんて無理。ちょっとその装備私に貸してみない?」
 
 翌日の日向家。
「ごきげんようであります、タママ二等」
「ごきげんようですぅ、蛙薔薇さま(ロサ・ケロン)」
 またなにか妙な遊びを開発してるな、と思いつつ、なま暖かい目で二人(二匹?)を眺める夏美。
「モアにおじさまのロザリオを下さい……ていうか姉妹制度?」
「つくづく、モアちゃんもつき合いがいいわね」
「そうですか?」
 そこへ、爆音と共に現れたのは裏桃華。
「タママーーーー! てめぇ、性懲りもなく勝手に出歩きやがってぇ!!」
「ひぃいいいい、ももっち、どうしたですかぁ」
「ついさっき、松平家の娘からメールが来たんだよ! てめえ、いつの間にリリアンに出入りしてやがったぁ!!」
「そ、それは軍曹さんの命令で…」
 その声が終わるか終わらぬかのうちに、むんずと捕まれるケロロ。
「あ、あれ、夏美殿。我が輩、浮いているでありますよ?」
「あんた…リリアンって言えば名門中の名門じゃない。そんな所に何しに行ったのよ…」
「我が輩はリリアンになんぞ…ん? 声だけ聞いていると由乃殿と志摩子殿と真美殿がいるみたいでありますな」
「誰よ、それ」
「あ、我が輩何も言ってないであります。ましてや、リリアン山百合会や新聞部の名前など」
「言ってるじゃない」
「きぃいいーーーーーーゃぁあああああ!!!!」
 
 
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あとがき
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