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祐巳さんと可南子ちゃん
 
「頑張れ黄薔薇姉妹」
 
 
 薔薇の館は今日も静か…なはず。
 
「あら、お熱いこと」
「これでは仕事になりませんわ、白薔薇さま」
「紅薔薇さま? いつまで可南子ちゃんといちゃいちゃしてるの?」
「可南子さんにも困ったものね」
「乃梨子ちゃん、そうやって白薔薇さまばかり庇うことはないんじゃない?」
「山百合会は生徒会組織ではありませんの?」
「あんたたち、ベタつきたいなら家でしなさいっ!」
 これが、つい一年前まで当時黄薔薇さまの支倉令さまと二人の世界を作りまくっていた者の言うことだろうか?
 そして、その横で同じようにまくし立てているのはその妹、黄薔薇のつぼみ松平瞳子。
 この二人が、ここまでの攻撃力を持つ最強コンビになろうとは誰が想像できただろうか。二人合わせての攻撃力は歴代薔薇さまの中でもトップクラスに位置するだろう。
 もっとも、無敵の守備力を誇る紅薔薇姉妹と、華麗な回避性能を持った白薔薇姉妹にはその攻撃力もあまり意味がないのだけど。
「黄薔薇さま、文句言い過ぎ」
 ぶうっと膨れる祐巳さま。ま、お姉さまには失礼ですけど、なんて可愛らしい。
 その可愛らしさに一瞬、う、とひるむ由乃さまだが、すぐに私に矛先を向けてくる。
「可南子ちゃん。もー少し、一年の時みたいなクールに戻ってくれないかなぁ?」
「失礼なお言葉ですこと。私はいつでも冷静ですわ。現に仕事は進んでいますもの」
 一昨年がどうだったかは知らないが、少なくとも今年は去年よりも仕事の能率はアップしている。
 それはそうだろう。乃梨子さんは成績が学年トップで品行方正、教師陣の覚えもめでたい。瞳子は小さいときから社交界に慣れていて外面は最高にいい…中身は保証しないが…。そして私は規則の徹底にかけては誰にも負けないつもりだ。
 スペックだけを問題にするなら、まさに最強の布陣なのだ、今年のつぼみは。
 でも数字に表れない部分で、私はお姉さまには決して勝てないと思っている。というよりも、数字による勝ち負けにはなんの意味もないことが、お姉さまと一緒にいるとよくわかる。
「あまり言いたくなかったんだけど…」
 乃梨子さんが椅子をくるりと回して瞳子に向き直る。
「瞳子。もしかしてヤキモチ?」
「乃梨子さん、何をいきなり」
「そうじゃないの? 可南子と紅薔薇さまはおいといて、どうみても健全なおつきあいの私とお姉さまにまで文句をつけてくるなんて異常よ」
 お待ちなさい、乃梨子さん。今、さらっと聞き捨てならないことを。
「私たちって不健全?」
 私に尋ねられても、お姉さま…。
「いえ。そういうわけではないと思いますが…確かに白薔薇さまと乃梨子さんに比べると、なんというか…愛情表現が激しいかもしれません」
「可南子は嫌?」
「いえ、全然、というか、もっともっと…いえ、何でもありません」
 何か口走った様な気がする。
「うふふ、可南子がその気なら、もうちょっと考えてみようかなぁ」
 そんな可愛いお顔で過激なことを…。意地悪なお姉さま。
 
 
 その翌日。
 私、お姉さま、乃梨子さんは薔薇の館の一階の物置に隠れていた。白薔薇さまは乃梨子さんの「お姉さまにそんなことさせられない」の一言で除外。ちなみに私のお姉さまは「したい」の一言で参加。お姉さま…あなたの妹はときどきあなたの行動力が怖くなります。
 隠れている理由は一つ。
 「黄薔薇姉妹のいちゃついている所を取り押さえて、二度と文句を言わせない作戦」(命名・福沢祐巳)だ。
 温厚に見える白薔薇さまも、毎度毎度の黄薔薇さまの文句にはやや辟易気味らしい。
 計画を練っているときも、
「別に乃梨子といちゃついている訳じゃないわ」
「乃梨子と見つめ合うくらいなのに…」
「乃梨子と手を握る位なのに…」
「乃梨子ともたれ合っているだけなのに…」
「乃梨子とお話しているだけなのに…」
 白薔薇さま、それは世間一般ではいちゃつきと呼ばれるものです。
 とにかく、私たちは、今日は用事で薔薇の館に来ないことになっている。ここに来るのは黄薔薇姉妹だけ。
「来ました」乃梨子さんの声。
 私たちはかすかに開いた扉から様子を見る。
 二人は何か話していて…手を握っている!
「お手手つないできましたね」乃梨子さんが冷静に報告している。
「黄薔薇さまはまずは軽いスキンシップからなのね」
「紅薔薇さま、どうします?」
「少し待ちなさい。お茶でも飲んで一服して落ち着いて、さあこれから…、と言う所まで待つのよ」 
「詳しいですね、紅薔薇さま」
「うん。私と可南子のパターンだから」
「……」
 乃梨子が私を唖然とした目で見ている。ああ、お姉さま、正直すぎです。
 
 時間を計って、階段をゆっくり上がる。
 ビスケット扉は完全に閉まっていて、中を覗くことはできない。
 しかし、今日は秘密兵器がある。
 紙コップを扉に三つあてるお姉さま。私たちはそれぞれ紙コップに耳をつける。
(それらしき音が聞こえたら飛び込むんですね)
(違うわ、乃梨子ちゃん。それらしき音が聞こえて少ししてから飛び込むのよ。序盤じゃなくて真っ最中を狙うの、真っ最中を。言い訳できない瞬間を狙うのよ)
 お姉さま、暴走してませんか?
 が、聞こえてくるのはまさに私たちの想像を絶していた。
 
「お姉さま…」
「んー。いいのいいの。祐巳や志摩子がいるとこんな事できないからね」
「恥ずかしいですわ」
「嫌なの? 瞳子」
「嫌じゃないですわ、お姉さまのものなら…。でも…」
「じゃあ、瞳子、これ入れてみてもいい?」
「え? …はい。お姉さまなら、瞳子は平気です」
「そう。それじゃあお言葉に甘えて…。じっとしててよ、瞳子」
「くすぐったいですわ…」
「ほら、動くと抜けちゃうから」
「うん…くすぐったいの我慢します」
「一本入っちゃったよ」
「はい…なんか不思議な感じですわ…」
「まだ動いちゃ駄目。二本目行くわよ」
「え? 二本、そんなに入りませんわ」
「大丈夫、二本目はこっちに入れるの」
「ええっ。両方ともですの?」
「動かないの」
「はい…」
「なんだかんだ言っても瞳子も楽しんでるじゃない。前はあんなに嫌がってたのに」
「お姉さまが喜ぶのなら、瞳子は我慢できますもの」
「ふーん。瞳子も楽しんでいるように見えるけどなあ」
「お姉さまの意地悪…」
 
 扉を開けることができない。さすがにこれはできない。
 顔を上げると、お姉さまも乃梨子さんも真っ赤な顔になっている。
 あああ、素敵、お姉さまのほてった顔…。
 いや、そうじゃなくて。
(お姉さま、さすがにこれはマズイのではないでしょうか)
(う、うん。まさかここまでとは思わなかったよ…)
(くぅ、ぬかった。先を越されたわ。私と志摩子さんが一番乗りする予定だったのに!)
(乃梨子ちゃん、怖いこと言ってないで)
「終わりましたか?」
 突然の声に振り向くと、そこには白薔薇さま。
(し、志摩子、駄目。開けちゃ駄目)
(お姉さま、駄目です、逃げてーーー(??)
(白薔薇さま、もしかして判っててやってませんか?)
 白薔薇さまが扉を開ける。
 
 
 そこには、瞳子の縦ロールに自分のおさげを入れて遊んでいる黄薔薇さまがいた。
「…何やってんの? あんたたち」
 
 
 薔薇の館は今日も平和。
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
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