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祐巳さんと可南子ちゃん
 
「リバース!」
 
 
 
「お姉さま、私を拒むのですか?」
「駄目、駄目よ。こんなところで」
「ふふっ。でもお姉さまのここはそんなこと言ってなくてよ」
「駄目よ。私の言うことを聞きなさい、私はあなたのお姉さまなのよ」
「ええ。そうですわ。小さくて可愛いお姉さま」
「ああ、そんなところ…」
「私を妹にしたのは、可愛がって欲しいからではないのですか?」
「違うわ…ああっ」
 
 そこまで読んで、可南子は本を投げ捨てた。
「わ、私がお姉さまにこんな事やあんな事を…」
 顔が真っ赤に染まっている。
「誰です、こんな恥知らずな本を作ったのは」
「漫究(漫画研究部)の一年生が作った同人誌らしいんだけど…」
 由乃が本を拾った。
「名前とかは全く書いていないけれど、この身長差の姉妹って、リリアンひろしといえど、祐巳と可南子ちゃんしかいないよね」
「馬鹿にするにもほどがあります」
 可南子の怒りは収まる気配もない。
「まったく、酷いですわ」
 誌面から全く顔を上げずに唸る瞳子。
「こんなもの、一般生徒に見せるわけには参りませんわ。この本は瞳子が責任持って処分いたします」
 カバンの中に入れてしまう。
「あ、あの、黄薔薇さま?」
「ん、なに? 乃梨子ちゃん」
「こういうものは、一つ見つけたからと言って一つしかないとは限らないと思うんです」
「ふんふん」
「他にも探せば出てくるかもしれませんよ」
「ふんふん」
「仏像マニアと銀杏マニアの姉妹の許されぬ愛の物語とか、リリアン高校デビュー娘とお寺生まれで敬虔なクリスチャンの娘との禁断の愛とか」
 志摩子が首を傾げた。
「乃梨子はそういうのが見たいのね…」
「え、いや、志摩子さん。決してそういうわけでは…」
「なにかどこかで聞いたような姉妹なのだけれども、どういう事かしら? 乃梨子」
「あ、あの」
「それならそうと言ってくれれば私だって覚悟を……あ、いえ、なんでもないわ」
「し、し、し、し、志摩子さんっっっっっ!?!?」
「乃梨子、取りあえず鼻血を拭きなさいね」
「とにかく」
 立ち上がる可南子。
「このままにしておくわけには参りません、私、漫究に一言言ってきます!」
 そこへ、遅れていた祐巳が現れる。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、祐巳、あれ、お客さん?」
「薔薇の館の取材をしたいって言うから、一緒に来てみたんだけど…」
 祐巳の後ろに従ってきた一年生は、どう見ても極度の緊張に震えている。
「取材というと、新聞部の方かしら? 真美さんからは何も聞いていないわ」
 困惑する志摩子に、祐巳が言う。
「ああ、この子達、漫究の一年生よ」
 乃梨子が叫ぶ。
「ちょっと貴方達、白薔薇編はないのっ?」
 スコーンと殴り飛ばされる乃梨子。変わって立ちはだかる瞳子。
「カップリングを変えてみる気はございませんの? このノッポの代わりに縦ロールの可憐な美少女とか」
 ドガシャアッと放り投げられる瞳子。そこにはいつの間にか可南子が立っている。
「貴方達、この本は何っ! どう見ても私とお姉さまがモデルではありませんか!」 
 可南子の差し出した本を手に取り、中身をパラパラと見る祐巳。
「あー。これはちょっと酷いなぁ…」
「そうでしょう、お姉さま」
 溜息をつき、首を振る祐巳。
「貴方達が勘違いする気持ちもわかるけど…」
 薔薇の館はそんな場所ではなく、山百合会はそんな会ではない。
 …とは祐巳は言わない。
 
「このカップリングだと可南子はだよ?」
 
 
 漫究の二人がその後、新刊を出したかどうかは定かではない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
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