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祐巳さんと可南子ちゃん
 
「お弁当」
 
 
 
 薔薇の館でお弁当。
 紅薔薇姉妹、黄薔薇姉妹、白薔薇姉妹、それぞれが隣に座って仲良くお弁当を食べている。
 ぱくぱく
 もぎゅもぎゅ
 はぐはぐ
 もむもむ
 はふはふ
 あぐあぐ
「あ、お姉さま、ご飯粒が」
 つと手を伸ばす可南子ちゃん。
 祐巳の唇の横についたご飯粒をひょいと指で摘むと、そのままパクリ。
「あ、恥ずかしいよ可南子」
「私は平気ですから」
 じーーーーっとその様子を見ている由乃。
 ご飯粒をホッペタにくっつけてみる。
 瞳子と目があった。
「……」
「……」
 由乃は、ご飯粒のついたホッペタを瞳子によく見えるように首を傾げる。
「……」
「……」
 瞳子の縦ロールが揺れる。
 首を傾げる瞳子。由乃と同じ角度で視線が重なる。
「……」
「……」
 指を立て、ご飯粒を示す由乃。
 手を伸ばす瞳子。
 と、その時、                 
「あ、乃梨子、ホッペタにご飯粒が」
「え、お姉さま」
 ひょい。パクリ。
「お姉さま?」
 真っ赤になる乃梨子と、「うふふ」と笑う志摩子。
 由乃と瞳子は思わず二人の様子を観察する。
「……」
「……」
 伸ばした手を瞳子は引っ込めた。
「お姉さま。瞳子は、黄薔薇のつぼみとして乃梨子さんや可南子さんに負けるわけには参りませんの」
 瞳子は立ち上がり、手を使わずにそのままパクリ。
 平たく言えば、キス。
「!?!?」
 言葉にならない叫びの可南子。
「…やるわね、由乃」
 祐巳は冷静に微笑んでいる。
「…………」
 当の由乃は、あまりのショックに魂が抜けていた。
 腐っても支倉令の従妹である。嬉しいことがおこると魂が抜けてしまう部分は共通していたようだった。
「瞳子…いつの間にそんな所まで…」
 乃梨子の目がやや据わっている。
「こうなったら志摩子さん、私たちだって負けるわけには…」
「薔薇さまともあろう者が、ご飯粒をホッペタに付けるなんて、お行儀が悪いと思わない? 乃梨子」
 志摩子の言葉に、お弁当箱の底のほうに残ったご飯粒をこそげ取ろうとしていた祐巳の動きが止まる。
「あ、やっぱり?」
 うすうすとは感づいていたのだが、可南子の行為の前に雲散霧消していたのである。
「お姉さまを喜ばせたいのなら、そうね、手作りのお弁当を作って来るというのはどうかしら。可南子ちゃんも瞳子ちゃんもそれぞれ祐巳と由乃のためにお弁当を持ってくるの。勿論、私は乃梨子のお弁当を期待するわ」 
 志摩子の言葉に賛成する一同。そして、翌日のお弁当大会が決定された。
 
 翌日、可南子はお弁当を作ってきた。
「お姉さまの分も作ってきたんです。どうぞ食べてください」
 むう、オーソドックスな手できましたか、という目で見ている瞳子と乃梨子。可南子の次の行為で、その二人の顎ががくんと落ちる。
「お姉さま、私としたことが、お箸を一つしか持ってこなかったんです。でも、お箸一つでも一緒に食べることができますわ」
 祐巳をいつものように膝に載せる可南子。そしてお弁当を広げて箸を持つ。
「祐巳さま、どれが食べたいですか?」
「んー。ウィンナー」
「はい。どうぞ」
 パクリ
「では、私も」
 パクリ
 乃梨子と瞳子はわなわなと震えていた。
 一つの箸で二人で食べる。つまり、これは間接キス。
(その手があったかぁっ!)
(志摩子さんと一つの布団で枕が二つ……じゃなかった、一つのお箸でお弁当が二つ…)
(お姉さまと…でも、可南子さんと同じ手を使うのは癪ですわ。でも、これならお弁当自体には対抗できるはず)
 瞳子はお弁当、というよりお重を二つ取り出す。
「お姉さま、これが松平家の総力を尽くしたお弁当です。勿論、作ったのは瞳子ですわ。材料集めの段階で、家の力を使わせていただきました」
 高級食材をふんだんに使ったお弁当。
「瞳子、いいの? こんな凄いの?」
「勿論ですわ、他ならぬお姉さまのためですもの」
 乃梨子は冷静にその様子を見ていた。
「くっくっくっ……あーはっはっはっはっはっ! 甘い、甘いわ、可南子も瞳子も! 私が本当のもてなしのお弁当というモノを見せてあげるわ!」
「乃梨子さん一体何を…そういえば乃梨子さん、なんで今日は寒くもないのにコートを着ているんですか? しかも室内で」
「これが今日のスペシャル食材の秘密なのよ!」
 コートのボタンに手をかける乃梨子。
「志摩子さん、私は一晩考えたの。志摩子さんが好きなのは和食、和食の帝王と言えばお刺身」
 どん、と出されるクーラーBOX。
「でも、ただお刺身を出しただけじゃ勝負にならない。私には可南子ほどの料理の腕も瞳子ほどの財力もないから」
 クーラーBOXを開くと、そこにはスーパーのパック詰めのお刺身が並んでいる。
「たとえスーパーのごくごく普通のお刺身でも、一瞬にして別物にする魔法があるの!」
 パックの刺身を取り出す乃梨子。
「ただそれだけで、料理の値段が数十倍は跳ね上がるという代物」
 コートを脱ぎ去る乃梨子。
 全員が目を疑った。
「乃梨子さん!?」×2
「乃梨子ちゃん!?」×2
 乃梨子のコートが宙を舞う。
「さあ、志摩子さん、女体盛りよ!」
 パッコーン
 クーラーBOXで乃梨子の頭を殴打する志摩子。
「…乃梨子、そんな格好でいると風邪をひくわよ?」
 コートを着せかけながら、志摩子は乃梨子の耳元でそっと呟く。
「乃梨子、そういうことは家に帰ってゆっくりと。ね?」
 こくん、とうなずく乃梨子だった。
 
 
 
 
 
 
あとがき
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