SS置き場トップに戻る
 
 
 
よつばと薔薇
 
 
 
 竹田隆(通称ジャンボ)は説得に努めていた。
「つまり、今日はいろんな所に配達に行く。その配達の途中だったわけだ」
「わかった!」
「お、本当にわかったのか」
「ジャンボははいたつにいく。よつばはついていく」
「いや、わかってねえだろっ!」
 配達途中、昔からの腐れ縁の友人、小岩井の娘にばったり出会った。
 小岩井よつば。面白い子だし、基本的には可愛げのある素直ないい子なのだけれど、時々妙に意固地になる。
 もっとも、意固地になったところで他人に迷惑をかけたりするような子ではないのだけれど。
「あー、仕方ねえな」
 なんだかんだ言って、よつばは既に配達用トラックの助手席に乗っている。いつもは荷台に載せるのだけれど、今日は花を積んでいるので助手席だ。
「ま、よつばがそこにいたって、別に配達先が嫌がることはないだろうけど…」
「よつばはへーきだ!」
「うん。おまえはそうだろ」
 ま、いいか。
 ジャンボはよつばを載せたまま配達先に向かうことにした。
 ふと、荷台の包みからこぼれている一輪をよつばの髪を留めているゴムにつけてみる。
「じゃあ、行くか」
 配達先…リリアン女学園。
「どこいくんだ?」
「最初は学校。それから細かいところちょこちょこ回って、最後は大金持ちの家だぞ」
「おかねもち? おっきいいえな?」
「おお、大きいぞ」
「ジャンボよりおおきいのか!」
「まあ…そりゃそうだな」
「すげえなっ!」
「おう。凄いぞ」
 そうこうしているうちに、車はリリアンへ。
「お、見えてきた」
「おおおっ! おっきいいえな!」
「いや、これは学校だ」
「がっこう!?」
「そうだ。学校だ」
「ふうかや、あさぎやえながいるのか?」
「いや、それは違うと思う」
「がっこうもたいしたことないな」
「うむ。あさぎさんいないしな」
 外来者駐車場に車を止める。
「よつば、ここで待ってろよ。すぐに戻るから」
「おー」
「本当にわかったのか?」
「お、おお?」
 少し考えたが、まあここは学校。それも、地元でも超有名で通っているお嬢様学校だ。よつばがフラフラと出て行ったところで危険な目に遭うわけもない。
「…じっとしてろよ?」
「ジャンボはしんぱいしょうだなあ」
「うわっ、お前、そんな言葉どこで覚えた!」
 ジャンボが事務室へ向かって一分後、ゴロンタを見かけたよつばは追いかけ始めた。
「ねこっ! ねこっ!」
 
 
 誕生パーティ。
 勿論大袈裟なものが校内でできるわけもないけれど、山百合会の中でのささやかなパーティ。いや、パーティというのも大袈裟かも知れない、ちょっとしたイベント。
 けれど祐巳は、中庭で頭を抱えていた。
 忘れていた訳じゃない。きちんと覚えていた。それどころか、きちんとプレゼントを買った。
 そして昨日の夜、きちんと確かめた。
 そして今朝、きちんと確かめた。
 学校できちんと確かめ……られなかった。
 学校に着いたら、その荷物はなくなっていた。
 結論は一つ。途中で落としてしまったのだ。
 祐巳のおこずかいでは簡単に買い直すことができない高価なもの。いや、この際、金額は問題ではない。金額ならば、お母さんとお父さんに頭を下げておこずかいを前借りしてでも、毎年のお年玉を貯めている貯金を崩してでも、何とかする。
 金額の問題ではなかった。
 今日この日に渡すべきプレゼントがない、それが問題なのだ。
 よりによって、お姉さまの誕生日だというのに。
 お姉さまの誕生日に、妹の自分がプレゼントを忘れてしまった。こんな情けない話はない。いや、忘れたのではなく落としてしまったのだけれども、プレゼントがないという事態になんら違いはない。
 どうしよう……。
 教室にいると、由乃さんに薔薇の館行きを誘われる。だから祐巳は、一人で密かに中庭に来ていた。
 今から新しいプレゼントを用意するのは論外だ。ここからすぐに行ける場所にあるのはコンビニくらい。一体コンビニで何を買うというのか。変な物を買えば、何もないよりさらに悪い事態だと言うことくらいは想像できる。それになによりも、資金がない。ポケットにあるのは、定期券を落としてしまった時のためのバス代と電車賃くらいだ。
 一つ、大きな溜息。
 どうしよう。このままいるわけにもいかないし、だからといって何も持たずに薔薇の館へ行くのも気が重い。
 ととと、と目の前をゴロンタが横切った。
「あれ?」
 ふと祐巳が目をやると、ゴロンタの出てきた茂みがさらに大きく揺れている。
「あれ? え? え?」
 がさがさと揺れる茂みから出てくる女の子。
「ねこーっ!」
「ええーっ!」
 思わず叫んだ祐巳の存在に気付くよつば。
「お?」
 よつばの興味が猫から祐巳に移ったようだ。
「こんなところでなにしてる?」
「何って…貴方こそ何してたの?」
「よつばはねことるの!」
「ええ、ゴロンタ取っちゃ駄目だよ」
「ゴロンタ……?」
 首を傾げるよつば。 
「そう。あの猫の名前だからね。ゴロンタ。あと、メリーさんとランチも」
「ねこのなまえはゴロンタ」
 嬉しそうによつばが頷いた。
「よつばのなまえはよつばだよっ!」
「あ、うん。それは何となくわかった。えーと、私は福沢祐巳」
「ふくざ…わゆみ? ながいなまえな?」
「あはは、そうかなあ。それじゃあ、祐巳でいいよ?」
「おー、みじかいな。ゆみはなにしてる?」
「え、私は考え事…」
「かんがえ……よつばはそれにがてだ、ゆみはえらいなっ!」
 苦笑する祐巳の肩に、ポンと手が置かれる。
「何やってるの、祐巳さん。こんなところで。早く行かないと祥子さまが心配するわよ」
 声をかけられる前のシャッター音で、祐巳には相手がわかっていた。
「蔦子さん、どうして?」
「どうしてって…。祐巳さんがここにいることが何故わかったか? それとも、祥子さまの誕生日イベントのことを何故知っているかって事? それとも、今日購買でパンを買わなかった理由?」
「あ、最後のは知ってる。笙子ちゃんがお弁当を作ってくれたんだよね」
 気勢をそがれた、というにはやや大袈裟に、蔦子はうっと唸る。
「どうして祐巳さんがそのことを…」
「日出実ちゃんが真美さんに報告しに来た時、私もその場に一緒にいたから」
「そうか、日出実ちゃん……。ぬかったわ……」
 ぽかん、と二人のやりとりを見ているよつば。
「そういえば、この子は? 見たところ、幼稚舎の生徒でもないみたいだけれど」
「ああ、この子はよつばちゃん…えーっと…誰だろう?」
 首を傾げる蔦子によつばは言う。
「よつばは、ジャンボといっしょにきた!」
「…だって」
「いや、祐巳さん、それじゃあ何もわからないのと一緒だって…」
 苦笑する蔦子に相槌を打つ祐巳。
「それはそうだけど、私もこれしか知らないし…」
「あ、いたいた!」
 令の声。
「あ、黄薔薇さま。ごきげんよう」
 蔦子さんが挨拶する。
「もしかして、祐巳さんを捜しているんですか?」
「そうよ。ああ、ごきげんよう、蔦子ちゃん」
 よつばが新しい登場人物をじっと眺めている。
「……ろさ…へちま」
「違う違う、よつばちゃん、ロサフェティダ」
「へちだ」
「あー、別にいいよ、名前で。この子は誰かの妹?」
 祐巳が手短に顛末を話した。
「ふーん。近所の子かな」
「こんにちわ。よつばだよ!」
「ごきげんよう、よつばちゃん。私は支倉令」
「れいかー。おぼえた」
「はい、ありがとう。で…祐巳ちゃん?」
 祐巳には、令の来た理由がすぐに想像できた。
「あの、黄薔薇さま…実は…」
「どうしたの?」
 令が首を傾げる。令にとって、祥子のイベントに祐巳がいないことほど不思議なことはない。
 祐巳のことだから何か訳があるのだろうとは思うけれど。
「まさか、今日がなんの日か知らないなんて言わないよね」
「そ、それは…勿論知ってますけれど…あ、…って、蔦子さん!」
 祐巳が思い出して叫ぶ。
「蔦子さん、どうして祥子さまのこと知っているのよ!」
 蔦子は肩をすくめた。
「あのね、小笠原祥子さまの誕生日ならいざ知らず、紅薔薇さまの誕生日なら毎年リリアンかわら版で紹介されているじゃないの。祐巳さんが何かしそうだと思っていたら、終礼が終わってすぐに消えるじゃない。探していたのよ」
「あ…」
「それでここにいたわけだ。それで、にもかかわらず祐巳さんがここにいると言うことは、何か不手際があった訳ね?」
 令が言うと、今度は、祐巳がうっと唸る番だった。
「実は……」
 プレゼントを準備していたこと。
 薔薇の館へ行く直前に確認したらなくなっていたこと。
 手ぶらでは行くに行けないので困っていること。
 そこまで話したところで、よつばがポツリと言った。
「プレゼントないのはおこまりだな?」
「うん」
「ゆみはこまるな」
「うん」
「うーん」
 よつばが頭を抱えている。
「あ、とーちゃんがプレゼントないのは、いいっていった!」
「え? とーちゃんって、よつばちゃんのお父様?」
「…のーとーさま?」
「よつばちゃんのお父さんのことだよ」
「とーちゃんか! とーちゃんは、よつばがげんきしたら、いらないっていった!」
 蔦子がニッコリと笑って頷く。
「いいお父さんね」
 令も頷いていた。
「うん。とーちゃんはちょーつよいからなっ」
 祐巳がきょとんとした目で二人を見ている。
「あれ、蔦子さん、黄薔薇さまも。今のよつばちゃんの言ったこと、わかったの?」
 令が肩をすくめる。
「つまり、よつばちゃんのお父さまは、プレゼントなんかより、元気なよつばちゃんが一番だって言いたかったのよ」
「それだー。れいはあたまいいなぁ」
 ニコニコと手を叩くよつば。
「ゆみはだめだなー」
 うう、と呻く祐巳。
「それじゃあ、結論は出たわね」
 蔦子が祐巳の肩を叩く。
「プレゼントはどうでもいい。祐巳さんがその場にいること、姿を見せることが大切なの。よつばちゃんのお父さまの言ったこと、聞いたでしょう? 祥子さまだって、プレゼントのことぐらいで落ち込んでいる祐巳さんは見たくないと思う」
「そうだよ。私だって、由乃が同じようなことしたら、落ち込んで欠席するよりも元気で出席してくれる方が嬉しいもの」
「そうそう。それこそ、『プレゼントは私です』って言い切るくらいの強気で行きなさい」
「ええっ!」
 慌てる祐巳に、蔦子は苦笑。
「別に額面通りに受け取らなくても…」
 よし、と手を叩きながら、令は二人に言う。
「それじゃあ、私は先に行っているからね。志摩子と由乃が、祐巳ちゃんがいないことを何とかして誤魔化しているところだから、早く伝えてあげないと」
「れい、どっかいくのか?」
 よつばが三人を見上げていた。
「あ……よし、よつばちゃん、一緒に行く?」
「いいんですか? 黄薔薇さま」
「小さい子を放っておく訳にもいかないし。なにより、祐巳ちゃんの恩人じゃない」
 令はよつばの頭に手を置く。
「よつばちゃん、美味しいお菓子とお茶があるわよ」
「アイス?」
「それは…ない。でもケーキなら」
「ケーキ! ホントか! きょうなんかのひか!?」
 ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶ姿に、蔦子と祐巳も思わず相好を崩す。
「じゃあ、行こうか」
「おー!」
 
 
 ジャンボは、注文の花を届けるとトラックに戻っていた。あと、ここで待っていれば花束を一つ受け取りに来ることになっている。
 その注文のおかげで、今日はここに大口の注文が取れたのだから、多少の待ち時間はサービスしよう、とジャンボは考えていたのだが。
 よつばがいない。
 ある意味、予想通りだった。
 まあ、校内にいる限り適当に遊んで、或いは大冒険をして、もしかしたら友達の数人も作って戻って来るに違いない。
 最悪の場合は校内放送でもかけてもらおう。呼ばれればよつばはきちんと来るはずだ。
「もしもし、フラワーショップの方ですか?」
 運転席に座って考えていると、声がかけられた。
「あ、はいはい」
 よっこらしょっと車を降りる。
「うわ」
 思わず呟いたいかにもお嬢様といった髪型〜縦ロールの女子高生がジャンボを見上げている。
「まあ」
 その隣には、無論ジャンボほどではないが平均的女子高生のよりかなり高い身長の、黒い長髪の美少女。
 縦ロールがキョロキョロと、ジャンボと長身少女を見比べている。
「…可南子さん、お知り合い?」
「どうして、長身だと私の知り合いなんですか。いいから早く受け取って下さい、瞳子さん」
 瞳子と呼ばれた方が、伝票の半券を二枚差し出す。
「柏木さんと松平さんね」
「ええ」
 実際は誰であろうと、半券があれば渡すしかない。
 ジャンボは素直に二つの花束を渡して二枚の半券を受け取った。
「はい、それじゃあ確かに」
 花束を抱えた二人が去っていく。
「あ、あの…」
「はい?」
 長身の方が振り向いた。
「一緒に来た小さな女の子が、校内をうろついているみたいなんだ。見かけたら戻って来いって言ってくれるかな。いや、あんまり時間が経つようだと校内放送をお願いするつもりだけど」
「お名前は?」
「小岩井よつば」
「気には留めておきます」
 可南子は軽く頭を下げると、再び歩き始めた。
 すぐに瞳子に追いつく。
「今の、聞こえていましたよね、瞳子さん」
「ええ。わかったわ。瞳子も気にしておきます。……ところで、可南子さん」
「なに?」
「荷物持ちのお手伝い、感謝しますわ。それから……。もしかして、背の高い殿方が好みですの?」
「まさか。お父さんとどっちが背が高いかなと思っていただけです」
「さすがはファザコンですわ」
「貴方に言われたくありません。ブラコン」
「……」
「ところで、対象が従兄でも、呼び方はブラコンだと思う?」
「存じ上げませんわっ!」
 
 
 ロサキネンシス、ロサフェティダ、ロサギガンティアは、よつばには難しすぎたので、とりあえず言葉の意味だけを教えて、それぞれを名前で呼ばせる事にした。
 のはずが、
「なーなー、べにばらさま?」
 なぜか日本語で覚えてしまった。
「なにかしら、よつばちゃん?」
 祥子はどうやらよつばを気に入ったらしい。素直な、下手をすると度を超した物言いも、祥子にはあまり気にならない、というよりそこに見える馬鹿正直とも言える素直さが気に入ったようなのだ。
 最初は、予期せぬ可愛らしいお客さんをみんな大喜びで歓迎していたのだが、乃梨子がリタイアした。
「あー、のりこ、しろばらさまみてるな」
 由乃が堪えきれずプッと吹いた。
「しろばらさま、きれいだな? のりこ、きれいなものすきか!?」
 これで令も笑い始めた。
 乃梨子は真っ赤になって何か口走ろうとして、結局よつばの前にお菓子を積み上げた。
「よつばちゃん、食べて。食べて食べて!」
 どうやら、口封じのつもりだったらしい。
 乃梨子は少しよつばを避け気味になって、逆に由乃は気に入ったようで一緒に遊び始める。
「よしのは、れいがすきなのか?」
「ええ、大好きよ」
 あっさり答えられる二人の関係に乃梨子は少し嫉妬。
「チューした?」
「……したわよ」
「由乃!?」
 得意気に胸を張る由乃に、悲鳴を上げる令。
「何言い出すのよ、こんなところで」
「別にいいじゃない。それとも、令ちゃんは私としたことが恥ずかしいの?」
「そういう問題じゃないでしょう…由乃」
「大丈夫ですよ、黄薔薇さま」
 志摩子がニコニコと笑っている。
「今さらお二人がキスしたと言われても、納得こそすれ、驚きはしませんから、誰も」
 この言葉で由乃は却って恥ずかしくなったらしく、その後は静かになった。
 そしてよつばも、祥子には懐いてる様子。
「ただいま戻りました」
 何かを取りに行くと言って最初に出て行った瞳子と可南子が戻ってきた。
 二人とも、手には大きな花束を抱えている。
「でっけえな!」
 一番喜んでいるよつば。
「これは瞳子から、紅薔薇さまへ。そして可南子さんに持って頂いているのは、優お兄さまからですわ」
「優さんが?」
「ええ。瞳子がささやかにお祝いするのだとお話ししたら、自分にも贈らせて欲しいとお兄さまが」
 実は、学園の体育館前の花壇の植え替えのために花屋(ジャンボ)を呼んでいることを知った瞳子が、それならばとついでに花屋に注文を出していたのだが、それを知った柏木がさらについでの注文を出したのだ。
 しかも、このあとトラックに積んでいる残りの花を、全て小笠原邸に届けることになっている。
「さすがね、そつがないと言うかなんというか…」
 呆れるように令は言う。
「花束のプレゼントなんて、ね」
 ん? とよつばが首を傾げる。
「なーなーべにばらさま?」
「なにかしら、よつばちゃん?」
「ゆみも、べにばらさまにプレゼントがあるって、いってた」
「まあ。よつばちゃんも祐巳に会ったの?」
 祥子が驚いて令を見ると、令は頷いて言う。
「ああ、祐巳ちゃんのことは後で驚かせようと思ってたんだけれど、よつばちゃんに先に言われちゃったね」
 よつばが祥子の手を引いた。
「ゆみなー、いってた。『プレゼントはわたし』」
 乃梨子から受け取った紅茶を飲みかけていた瞳子と可南子が、ゲホッとむせる。
「な、な、な…」
「なんですって!」
 令はとりあえず笑いを噛み殺して可南子と瞳子に、違う違うと手を振ってみせる。ただし、祥子には見えないように。
「…祐巳さん、なんか様子がおかしいと思っていたら…思い切ったわね」
 由乃が呟く。様子がおかしいのはプレゼントをなくしたせいだったのだけれど。
「ゆ、祐巳が……?」
「うん!」
 そういって、よつばは新しいお菓子を取るために手を伸ばした。そこで、テーブルの上に置かれた花束をようやくきちんと目に留めた。
「ジャンボのはな!」
 その言葉の意味に気付く瞳子と可南子。
「ジャンボってもしかして…花屋さんかしら?」
「なんでしってんだ?」
「駐車場で待っているわよ。早く戻らないと心配しているわ」
「あージャンボなーしんぱい……」
 よつばはくるりと振り向いた。
「よつばはかえらないと!」
「うん、ああ、それじゃあ…」
 祥子が言う前に、可南子と瞳子は顔を見合わせる。
「紅薔薇さま、私たちがよつばちゃんを送っていきますわ」
「そう、それじゃあ、お願いね」
 花束を受け取り、よつばを引き渡す。
「じゃーなー! またなー!」
 手を振り別れる一同。
「元気な子ね」
 と、扉向こうからまだ聞こえるよつばの元気な声。
「ゆみ! またなー!」
 令は、祥子に目配せる。
「お待たせ、祥子。ようやく真打ちの登場だよ」
 『プレゼントは私』がどんな波紋をうむのか。わくわくとその後の展開を待つ自分も、やっぱり黄薔薇の系譜なんだな、と令は心の中で苦笑していた。
 
 
「ただいまー、とーちゃん!」
 ジャンボに連れられて帰ってくるよつば。
 夕方前に電話連絡があったの心配はしていなかったが、それでも姿を見ると安心する。
「おう、どうだった、よつば、学校は」
「とーちゃんなんでしってる!?」
「とーちゃん、超凄いからな、よつばの行ったところなら全部わかるんだ」
「はー」
 よつばの後ろでジャンボが声を殺して笑っている。
「ジャンボがはなたくさんもっていってーーー」
「うんうん」
 小岩井は、部屋に入りながら続きを聞く。
「何が一番きれいだった?」
「きれいなのはーー、あー、バラな」
「バラ?」
 ジャンボが首を捻った。
「いや、薔薇なんか持って行ってないぞ、今日は」
 小岩井も首を捻る。
「よつば、薔薇なのか?」
「うん。ばらさまはきれいだぞ、とーちゃん」
 ばらさま?
 何故、様付け?
 首を傾げる、二人の大人だった。
 
 
 
 
あとがき
SS置き場トップに戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送