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追跡、誘拐犯
 
 
 
「来週の予定だけど…」
 令さまがそういうと、志摩子さんが手をあげた。
「あの、黄薔薇さま、来週の水曜日は特別文化講演会の日ではなかったかと…」
 え? と令さまは驚いて、薔薇の館備え付けのカレンダーをめくった。
「ああ、本当だ…忘れてたよ。ありがとう、志摩子」
「しっかりしてよね、お姉さま」
 由乃さんがやれやれといった風に肩をすくめる。
「来週の講演会は、私たちも準備を手伝うことになっているんだから」
「あれ、そういえば…誰が来るんだっけ?」
 祐巳の言葉に再び由乃さんが肩をすくめた。
「考古学界では名を知られた教授で、イギリスに招かれて客員教授をなさっていると聞いているわ」
 祥子さまの助け船。
「面白い講演をすることでも有名な方よ。名前は確か…そう、高嶺教授」
「あ、そうでした。高嶺教授」
「祐巳、その日は私は家の用事でどうしても欠席しなければならないの。私の分までしっかり聞いておくのよ」
「はい、お姉さま」
 お姉さまがお休みになるのは残念。けれども、お姉さまの代わりに役割を果たすというのはとても誇らしい。
 祐巳は胸を張って拳を振り上げた。
「任せてください」
 
 
 清麿がキレた。
「落ち着け、落ち着くのだ、清麿!」
「やかましい! これが落ち着いていられるか!!! なんで俺がこんな大荷物抱えて女子校に行かなきゃならんのだっ!」
「そ、それは、父上殿の講演の資料を会場に運んでくれと…」
「だったら直接会場に搬入させりゃあいいじゃねえかっ! なんでわざわざ家に送りつけてきて、俺に運ばせるんだよっ!」
「きっと父上殿には父上殿の考えがあるのだぞ、清麿」
 しかし、キレてみたところで他に方法はない。
 仕方なく、清麿は荷物を運ぶことにする。
 幸い、ガッシュがいれば、大八車に乗せた大荷物も簡単に運ぶことができる。
 しかし、すこし計算が狂った。
 大八車をガッシュに牽かせて、会場となる学校に入ろうとした。
 近づくにつれて増えていく女生徒達。その冷たい視線。
 そう。知らない人から見れば、小さな子供に重い荷物を運ばせているとんでもない男となる。
 清麿本人は中学生だが、これだけの経験の持ち主、年相応にはまず見られない。
 中には、「へえ、力持ちなんだぁ」と感心して、隣の眼鏡をかけた娘に「祐巳さん何能天気なこと言ってるの」とたしなめられているのもいたが、それはごくごく少数派。
 リリアンに一番近いバス停前で、清麿はとうとう大八車から降りた。
「くそっ…」
 大八車を牽き始める清麿。
 まず、門で止められるが、父親から預かった証明書をみせて通る。
 いきなり周囲が女だらけ。
(これは…恥ずかしい…)
 リリアンと言えばお嬢様学校として並ぶもののない超名門である。格調高い雰囲気と、ややレトロだが学内にぴったりと合うデザインの制服。
「清麿…」
「なんだ、ガッシュ」
「なんでここには女の人しかいないのだ?」
「女子校だからだ」
「女子校…なるほど。そんなものがあったのか……」
「珍しいからってうろうろするなよ…」
 返事はない。
 既にガッシュの姿は消えていた。
「……」
 清麿は「見つけたらぶん殴る」と心に決めて歩き続ける。
「あ、もしかして高嶺清麿さんですか?」
 おさげの女の子が声をかけてきた。
 どきっ、と清麿は歩みを止める。
 美少女。
 恵、シェリー、リィエン、ビッグボイン(え?)、と、いろんなタイプの美人美少女と知り合った清麿だが、今目の前にいるのはそのどれともタイプが違う。
 純粋培養の可憐な美少女。
「は、はい」
 声が少しうわずった。
「お待ちしてました。こちらにどうぞ」
 おさげの少女は清麿の先に立つと歩き始める。
「あ、私、島津由乃と言います。案内役になりましたので、よろしくお願いします」
「あ、は、はい」
 と、余所行きバージョンの由乃に騙され切っている清麿であった。
 
 
 要はお付き合い。
 父が来るはずだったが、どうしても都合がつかない。そこでシェリーが代わりに来ることになった。
 見ると、招いた側の関係者にも似たような娘が二人いる。
 三人は、自然に集まり始めていた。
 一人は、シェリーも何度か会ったことがある。お互いに共通の知り合いが多いようだ。もっとも、どちらにしろそれは自分ではなく家柄の知り合いなのだが。
「お久しぶりです、祥子さん」
「こちらこそ。シェリーさん。…足はどうされたのですか?」
「スキーでの事故ですわ」
「まあ、それは…」
「大したことはありません。少なくとも、退屈なパーティに参加できる程度には平気ですわ」
 二人は笑う。互いに、嫌々つき合いで出ているパーティなのだ。
「どなたですの? 祥子さま」
 祥子は、シェリーと瞳子を互いに紹介する。
 二人は、やはり似たような立場同士で親しくなった。
「ところで、あの御方は?」
 瞳子の質問の先には、辺りを威嚇するように視線を投げかけているブラゴの姿が。
「私のボディガードです」
「なんだか、守るというより好んで争いを起こしそうな御方ですのね」
 瞳子の感想に、シェリーは思わず笑ってしまう。
「私は、あの方のほうが気になりますけど」
 シェリーの視線を追う二人。
 妙な動物と、外国人らしい男がいる。
「はっはっはっ、ウマゴン。これが私の働いている会社で作った最新鋭の車だ。計算上はシュドルクよりも早いぞ」
「メルメルメー!?」
「もしかするとゴウシュドルクより早いかもしれないなぁ」
「メルッ!?」
「はっはっはっ。冗談だよ。グルービーなウマゴンの走りに勝てる車など存在しないとも」
 瞳子は、動物に興味を引かれて近づいていく。
 馬? 犬?
「メルメルメー」
 羊?
「ごきげんよう」
「…ん? ああ、こんにちわ。美しいお嬢さん」
「松平瞳子と申します」
「私はカフカ・サンビームという者だ。ふむ…どうやら、君もあまりこのパーティを楽しんでいないようだね」
「そ、そんなことはありませんわ」
「隠さなくても判るよ。別に誰かに言いつけるつもりもない。私も似たようなものだしね」
 人を見透かしたような不思議な雰囲気を持った男。それでいて、どこか愉快そうなものを漂わせている。
「こちらへは、どのようなご関係でいらしたのですか?」
「私は見ての通りの外国人だ。このパーティの主催者である方の会社で働いていてね。正確には、技術を学びに国からやってきたのだが。今日ここで披露される試作車を是非見に来いと誘われたのさ。だから今日はこの子と一緒に来たというわけだ」
 サンビームはウマゴンを示した。
「メル〜」
 ウマゴンの挨拶に、瞳子は微笑む。
「変わった動物ですのね」
「メル?」
 ウマゴンは、瞳子の縦ロールを珍しいもののように見る。
 縦ロールの向こうには、もう一つの縦ロール。
 そこでようやく、ウマゴンはシェリーに気付いた。
 見覚えのある姿。千年魔物の本拠地で見かけた姿。そう、あのブラゴのパートナーだ。
 慌てて辺りを見回すウマゴンは、ブラゴの姿を確認する。
「メルッメルッ!!!」
「どうしたのかしら?」
「どうした、ウマゴン」
 サンビームはウマゴンの視線を追った。
「!? …あれが…清麿やナゾナゾ博士の話していたブラゴなのか…」
 ブラゴはゆっくりと三人に近づいた。
「ふん…お前がこいつのパートナーか」
 身構えるサンビーム。
「安心しろ。今は戦う気などない。もっとも、貴様ら程度ならいつでも消せそうだがな」
 
 瞳子を見送ると、残された二人は世間話に戻る。
 祥子もシェリーも、機会があればさっさとここから離れたいと思っているのが共通しているためか、意外に話は弾んでいた。
 しかし、やはり三人はどうでもいい。
 だが、そうも言ってられない事態が起こってしまう。
 
 
 一瞬の出来事だった。
「是非ニューモデルを見てください」
 その声に渋々車に近づいた三人。
 次の瞬間、車に押し込まれる三人。
 シェリー一人ならどうにでもなった。相手は所詮人間、魔物相手に戦ったことを考えればどうということはない。
 しかし、祥子と瞳子の存在は一瞬シェリーを躊躇させた。
 その隙にクスリをかがされ、なんとか瞳子一人を車外に蹴飛ばすのが精一杯だったのだ。
 計画されていた誘拐らしく、ニューモデルはいつでも動けるように準備されていた。
 気絶した祥子とシェリーを載せたまま、車は動き出す。
 何事か判らず慌てる客達。
 
 
「なんだとっ!」
 ブラゴが異常な気配に振り向いたとき、既に車は動き出していた。
「ウマゴン!」
 サンビームが魔本を開く。
「ゴウシュドルク!」
「メルメルメー!」
 呪文で大きくなったウマゴンに飛び乗るサンビーム。その背後に座るブラゴ。
「なにっ?」
「いいから急げ、奴を追うんだろうがっ!」
「ああ、そのつもりだ。行くぞ、ウマゴン!」
「待ってくださいっ!」
 走り出したウマゴンの尻尾を掴むようにして、ブラゴの背に捕まる一人。
 振り向いたブラゴの視界に入ったのは瞳子の姿。
「祥子さまが連れて行かれたのに、黙ってみているわけには参りませんっ!」
「ふん、振り落とされるなよっ!」
「ご迷惑はおかけしませんわ!」
 唖然とした顔のサンビームとウマゴン。
 ブラゴと瞳子は同時に叫んだ。
「「早く」」
「行けッ!!」
「行ってくださいっ!」
 
 
「おお、おぬし、学校の外でもあったのお」
 足下からの突然の声に祐巳が見下ろすと、先ほど学校の外で大八車を引いていた子供だった。
「…ああ、貴方、さっき大八車牽いていた子。力持ちなんだね」
「うぬ。清麿と一緒に鍛えておるからなっ」
「凄いね」
「そうか? でも、清麿はもっと凄いのだぞ!」
「ふーん。でも、その清麿って言う人はどこ?」
「う…ぬ?」
 辺りを見回すガッシュ。当たり前だが清麿はいない。
「…清麿は迷子になってしまったようだの。済まぬがおぬし、探すのを手伝ってもらえぬか? 私はこの女子校とやらへ来るのは初めてなのだ」
「いいよ。貴方、名前は?」
「うぬ。ガッシュ・ベルと言う。おぬしは?」
「福沢祐巳」
「祐巳殿か、判ったぞ」
 二人は歩き始めた。
「ところで、ガッシュくんと清麿さんは今日はどうしてリリアンに来たの?」
「えー……そ、そうだ。確か清麿の父上殿がここで光線を出すというのだ」
「こ、光線を出す? …こうやって?」
 手を十字に合わせて突き出す祐巳。
「…何か違うのお…光線…公転…応援……桃園…ああ、講演であった」
「ふーん。講演…って、もしかして、清麿さんっていう人の名字は?」
「高嶺清麿というのだが…」
「高嶺教授の息子さんなの?」
「父上殿を知っているのか?」
「知っているというか…今日私たちがお出迎えするんだよ」
「おお。と言うことは祐巳殿は山鰤会のメンバーなのだな」
「山…鰤?」
「清麿が言っていたのだ。父上をリリアンの山鰤会がお迎えすると…きっと、山鰤会と言うからには山のような鰤を持ってきてくれるのだ。今から楽しみで楽しみで…」
「えっと…あの…ガッシュくん?」
「んぬ?」
「山鰤会じゃないの…」
「ん?」
「だからね、山鰤会じゃなくて、山百合会。鰤はないの」
「なっなっななななななな……」
 滂沱として涙を流しながら落胆するガッシュ。
「私は…私は鰤を楽しみに今日まで頑張ってきたというのに……鰤が…鰤……」
 祐巳は可哀想だと思ったけれど、鰤はどうしようもない。
「えっとね、ガッシュくん…そんなに落ち込まないで…お茶とお菓子くらいなら薔薇の館に来ればあるから、ね」
「お茶とお菓子…?」
「うん。美味しいよ」
「美味しいお茶とお菓子…!」
 ガッシュはニッコリと微笑む。
「おお、それは楽しみだのう」
「じゃあ、行こうか」
「うぬ!」
 
 
「メルメルメー!」
 懸命に走るウマゴンだが、車に離されないようについていくのが精一杯だ。
「この方向は…」
「どうかしたのか?」
「リリアンの方向ですわ」
 サンビームは清麿に今日の講演会の話を聞いたことを思いだしていた。
 荷物運びにウマゴンを駆り出そうとして、ウマゴン本人(?)に断られていたのだ。
「清麿と…ガッシュがいるはずだ…、君、携帯電話は持っているか?」
「え、ええ…ポーチの中に…」
「学校の誰かにかけて、今日講演予定の高嶺教授の息子に替わってもらうんだ。今日リリアンを訪れているはずだからね」
「高嶺教授の関係者の方でしたら、今日は山百合会の皆さんが案内をなさっているはずですわ」
 瞳子は携帯電話を出した。
 メモリに登録されているのは…祥子。今は意味がない。
 そうなると、残るは二人。祐巳と乃梨子。
 瞳子は迷わず祐巳の番号を選んだ。
 
 
 薬の効果は切れたが、シェリーには現在位置が判らない。頭から袋を被せられていて、周りが見えないどころか、満足に動くこともできないのだ。
 しかし、身体の震動からするとまだ車の中。すると、肩の辺りに触れているのは祥子の頭か?
「気付いてらして?」
 くぐもってはいるがはっきりとした小声。
 祥子の声だ。
 口調からすると、慌てている様子はない。
 さすが、と言ったところか。
「ええ」
 互いの声に落ち着きを感じる二人。
「助けが来るまでは、無駄に体力を消耗しない方がいいわ」
「心当たりがあって?」
「ええ。あの子なら、どんな手段を使ってでも駆けつけてくるわ」
「心強い味方をお持ちのようね」
「ええ。その時までは、おとなしくておきましょう」
 
 
 少しずつ、ウマゴンは車に近づいていた。
「もう少し近づけ。そうすれば俺が飛び乗る」
「本を受け取って呪文を使うのか?」
「ふん、あんなくだらん連中に呪文を使うまでもないが、無駄に被害を広げる必要もないだろう。呪文であの車と連中だけを確実にしとめる」
 このブラゴという魔物、噂に聞いているほどの無頼ではない。サンビームはそう判断した。
「わかった。だが、左右のどちらから近づく? ミスシェリーは左右どちら側に乗せられているんだ?」
「…左側から近づけ」
「! 判るのか?」
「なんとなく…な」
「お待ちになって。祥子さまはどうされるんですか?」
 瞳子の問いを一蹴するブラゴ。
「安心しろ。命は救ってやる」
「そんな乱暴な…」
「いや、二人とも救える」
 サンビームが示した先、そこには、小さな姿が遠く見えていた。
 清麿、ガッシュ、そして祐巳。
「ガッシュと清麿が待っている、大丈夫だ。ミスシェリーが左なら、ミス祥子は右側だろう。携帯で伝えて…」
「悔しいけど、その必要はありませんわ」
「なんだって?」
「祐巳さまがいらっしゃいますもの。あの方がいらっしゃるのなら、祥子さまが左右どちらにいらっしゃるか、一目瞭然ですわ」
「ふん、奴がいるのか…なら、ちまちまとやることもないな」
 ブラゴの呟きをサンビームと瞳子が耳に留める。
「おい」
「何をする気ですの?」
「黙ってみていろ」
 立ち上がるブラゴ。
「おい、貴様。あと五秒、全速で走れ。スタミナを使い切るつもりでな」
「メルっ?」
「ウマゴン、ここはブラゴの言うとおりにしてみるんだ!」
「メルメルメー!」
 
 
「ぬう、清麿! ウマゴンなのだ! ウマゴンの匂いがするのだ」
「え、見えないよ」
「ああ、福沢さん、こいつの鼻は半端じゃないから」
「そうなの…?」
「清麿、祐巳殿、もう見えてくるぞ。ウマゴンにはサンビーム殿とドリルを頭に付けた知らない女の人とブラゴが乗っているのだ」
「それ瞳子ちゃんだと思うよ…」
「よし、ガッシュ、準備はいいか」
「うむ!」
「あ、あの、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫。俺とガッシュに任せてくれ。貴方のお姉さんは必ず無事に助け出す」
 ちなみに清麿はまだ今ひとつスール制度を理解していない。祥子を本当に祐巳の姉だと思っている。
「行くぞ、ガッシュ!」
「うぬ!」
「ラウザルク!」
 光り輝くガッシュの姿。あらゆる能力を増幅されたガッシュが地を蹴って、向かってきた自動車へと走る。
 自動車を中心に、ブラゴはガッシュと同時にウマゴンの背を蹴った。
「シェリー!!! 俺はここだっ!!!」
 
 
 男の声がシェリーを呼ぶのが聞こえる。
「私の身体にできるだけ寄り添って!」
 犯人に聞かれる心配を無視したシェリーの叫びに、祥子は即座に従った。
 袋越しにも判る、何かの輝き。
「アイアン・グラビレイ!」
 衝撃と共に投げ出される身体。感じていたシェリーの身体の重みから離れていく自分の身体。
 宙に浮いた身体はコントロールできない。
 祥子は、車から投げ出されて地に叩きつけられる自分を想像した。
「ガッシュくん! 右の袋!」
 今のは!?
 紛れもない祐巳の声。
 誰かの小さな腕に抱き留められる自分の身体。
「うぬ。助けたのだ、清麿、祐巳殿!」
 甲高い子供の声。
 剥がされる袋。そこにいたのは金髪の子供。
 そして、その後から駆け寄る祐巳。
「…祐巳」
「お姉さま!」
 
 
 無茶だ。
 アイアングラビレイによる重力で地面に縫いつけられる車。
 凄まじい力でちぎれた屋根から、二つの袋が反動で投げ出される。
 シェリーと祥子さん!? どっちだ!?
 疑問を意志に乗せた瞬間、祐巳が叫ぶ。
「ガッシュくん! 右の袋!」
 ラウザルク状態のガッシュがその声に応えて右へと飛ぶ。一方ブラゴは、最初から判っていたかのように左の袋へと飛びついていた。
 
 
 講演会も無事終わり、学長室へ招かれた父を見送ると、清麿は薔薇の舘へガッシュを引き取りに向かった。
 ついでに講演を聴いていたサンビームも合流する。
「メルメルメー」
「わかったわ、貴方の名前はウマゴンね」
 巻き毛の驚くほどの美少女が、なにやらウマゴンを落胆させている。
「落ち込んじゃったね」
 おかっぱの少女が巻き毛の美少女に寄り添うように立っている。
 ガッシュは少女に囲まれてお茶とお菓子ご馳走になっていた。
「帰るぞ、ガッシュ」
「おお、清麿。父上殿はどうしたのだ?」
「ここの学長と話して、そのままイギリスにとんぼ返りだと。家にくらいゆっくり寄ればいいのにな、親父も」
「ご苦労様」
 いつの間にか制服に着替えていた祥子がニッコリと微笑んだ。
「今日はありがとう。感謝いたしますわ。ガッシュ君と清麿君」
「あ、いえ…」
 清麿は頬が赤くなるのを感じて、慌てて首を振った。
「いや、大したことは…追いかけたのはウマゴンで、車を破壊したのはブラゴだから…」
「充分凄いよ。ガッシュ君も。あの力凄かったもの。瞳子ちゃんとお姉さまは見たよね」
「今日は色々見過ぎて、瞳子はつかれましたわ…」
「祐巳、私は袋の中にいたのよ。見えるわけなくてよ」
「あ…」
「ねえ、それって今は見せてもらえないのかな?」
「由乃」
「いいじゃない、お姉さま。別に無理強いはしないもの。乃梨子ちゃんと志摩子さんも見たいよね?」
 清麿もなんだかんだ言って男の子。
 祐巳、由乃、そして乃梨子、志摩子に迫られて否を言えるわけがない。
「えっと…それじゃあ一番、害のなさそうなやつを…」
 ジケルドとラシルドを披露する清麿とガッシュ。
 好評のうちに、薔薇の舘を去ることに。
 来るときとはうってかわってご機嫌の二人。
「清麿。この学校は清麿の学校とは違うのだな」
「ああ。天下の名門だからな。女しか入れない学校だし」
「そうすると、恵殿やスズメなら入れるのだな」
「うーん…恵さんはいいけれど…スズメじゃちょっとイメージが…」
 
 
 その大海恵。そして今日、薔薇の館にいなかった一人。
 その二人の死闘を清麿は知らない。
 
 
 【「金色のガッシュ・マリア様がみてる」クロスオーバーPART3「最後の千年魔物」に続く】
 
 
 
 
 
 
あとがき
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