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注文の多い花粉症
 
 
 
 お姉さまがお休みした。
 祐巳がそれを知ったのは、お昼休みの薔薇の館。
「どうも、花粉症らしいのよ。それも酷いらしくて、家から一歩も出られないって言ってたわ」
 令さまがそう教えてくれた。
 花粉症。日本でもっともポピュラーかつ罹患数の多い病。
 流行物には興味のないお姉さまも、この手の流行には勝てなかったらしい。
 お見舞いに行く、と決意するけれど、そもそも花粉症にはなにがいいのかよくわからない。
「さあ? でも、祐巳ちゃんがお見舞いに行くのが、祥子には一番の薬だと思うよ」
 令さまが嬉しいことを言ってくれる。
「うん。私もそう思う。私、一年生の途中まで身体弱かったじゃない?」
 今となってはかつての繊細虚弱な姿など全く想像できない、イケイケな由乃さんが言う。
「あの頃の私、本当なら毎日が憂鬱だったと思うの。みんなと同じことができなくて、旅行にも行けなくて、体を動かして遊ぶことも無理で、令ちゃんにちょっかい出してくるおでこにも対抗できなくて…」
 由乃さん、何か最後にちらっと不穏なこと言ったよ? 祐巳は言葉を飲み込んで続きを聞く。
 確かに、一年生のときの由乃さんはとてもおとなしかったらしい。祐巳は別のクラスだったのであまりよくわからないが、当時のクラスメートに聞いてみると、いつも教室でひっそりとおとなしく座っていたらしい。
 もっとも、身体を激しく動かさずに済むこと以外では、既にイケイケの兆候はあったらしい。当時はそれが身体の弱い反動だとみんな理解していたのだけれど、今考えるとそれは単なる由乃さんの本性だったわけで。
「だけど、私の場合は寂しいとか悲しいとかはあんまり思わなかった」
 由乃さんが令さまにしなだれかかる。
「私には、お姉さまがいたから」
 令さま、真っ赤になったかと思うと今度はニコニコして、しなだれかかった由乃さんの頭に頬を載せる。
「もう、由乃ったら」
「だって、本当のことだもん。お姉さまが毎日のようにお見舞いしてくれたから、私全然悲しいとか寂しいなんて思わなかったもの」
「私だって、由乃の顔を見ないと寂しいから。お見舞いされていたのは私も一緒だよ」
 令さまが由乃さんの頬を人差し指でつく。
 由乃さんはその指を、猫みたいにくいっと曲げた拳でちょんちょんとつついてみせる。
 わかった。
 とりあえず、この二人がいつでもどこでも誰の前でも唐突にいちゃつき始めることのできるバカップルだということだけは十二分に理解できた。
 あと、姉妹のお見舞いがおそらく絶大な治癒効果をもたらすのだろうな、と言うことも。
「アロマテラピーも有効らしいですね」
 乃梨子ちゃんが会話に参加した。
「ユーカリとペパーミントがいいらしいです。マスクに垂らしておくと鼻が楽になるそうですよ。それから、入浴時にはラベンダーを浴槽に数滴落とすんです。そしてお風呂上がりには、ローマンカモミールを混ぜたマッサージオイルでマッサージ。くわえて、ローズヒップのハーブティーで完璧ですね」
「詳しいのね。乃梨子」
「父が軽い花粉症だったので」
「乃梨子ちゃん、お父さんにマッサージしてあげるの?」
 ウチのお父さんにそんなことしたら真っ赤になって逃げまどうだろうな。と祐巳は思う。
 けれども、祐巳の問いに乃梨子ちゃんは首を振る。
「いえ。そんなことしたら父は照れちゃって大変ですよ。父がやってみたのはユーカリとペパーミントだけです。あとは調べただけで実際にやった訳じゃありません」
「乃梨子ちゃん耳年増なんだ」
 由乃さんの言葉はなんだか他意があるような気もする。
「乃梨子、詳しいのね」
 志摩子さんがニコニコと言う。
 言われた乃梨子ちゃんは本気で照れている。
 まだまだこの二人は、出来立てほやほやの姉妹の熱々状態のままだ。
「そんなことないよ。ほとんどがネットで仕入れた知識だもの」
「それじゃあ、私はいつ花粉症になっても安心ね」
「私、志摩子さんなら喜んで看病するよ」
「それじゃあ、お風呂上がりのマッサージをお願いしようかしら」
「え…お風呂上がり…マッサージ……」
 満面を朱に染めて倒れる乃梨子ちゃん。
「うわ、乃梨子ちゃん!」
 慌てて駆け寄る令さまと志摩子さん。
「志摩子。乃梨子ちゃんを刺激しちゃ駄目じゃないの」
「え…そんな…私はただ…花粉症の対症療法を…」
 志摩子さんは自分の問題発言に気付いていない様子。
「乃梨子、しっかりして! 乃梨子」
「し、しみゃきょしゃん……」
 カーッと上気して、呂律が回っていない乃梨子ちゃん。
 
 乃梨子ちゃんを保健室に運ぶのを手伝ってから教室に戻ると、深刻そうな顔で真美さんが待っていた。
「あ、祐巳さん。実はお願いがあるんだけど」
「どうしたの? 真美さん。あ、取材なら今日は駄目だよ。今日は薔薇の館は色々と建て込んでいるから」
「そうじゃないのよ。祐巳さん、今日は紅薔薇さまの所へお見舞いに行くんじゃないの?」
 どうやら取材とは違うみたいだけれども、それでもさすがの情報収集力。祐巳がお見舞いに行こうとしていることまでいつの間にか知っている。
「うん。どうして真美さんが知ってるの?」
「花粉症でお休みなんでしょう? お見舞いに行くことくらいは想像できるわよ」
 花粉症だと言うことまで知っている。恐るべし、リリアン新聞部。
 まさか令さまが話すとは思えないし…、あ、三奈子さまが三年生同士のことで聞き出したのか。
「実はお見舞いに、私も連れて行って欲しいのよ」
 自宅に突撃取材は駄目だよ、といいかけて祐巳は真美さんの表情に気付いた。
 ひたすら真面目。勿論新聞作りに関して真美さんはとても真面目なのだけれど、その真面目とはなんだか違う。
 どこかひたむきな所も感じてしまう真面目さ。
「…理由によるけれど?」
 だからといって、お姉さまの自宅へホイホイと友達を連れて行くわけにも行かない。普通に遊びに行くのでもそれはどうかと思うのに、今回はよりによってお見舞いなのだ。
「歴とした理由があるのよ」
 真美さんは真面目だ。
「私のお姉さまが、紅薔薇さまのご自宅にいるらしいのよ」
 へ? 自分でも間抜けの顔をしてしまったと気づき、慌てて祐巳は表情を真面目な物にする。
「どうして三奈子さまが?」
 今時は真美さんは困ったような顔。
「それが…」
 由乃さんも興味津々な顔で真美さんを見つめている。
「…お姉さまも花粉症に悩んでいてたのだけれど、紅薔薇さまがご自宅に、花粉症の療養室を作ったと聞いて、そこにいるらしいのよ」
「三奈子さまが?」
「どうも、実は紅薔薇さまとお姉さまって、結構仲がいいみたいで」
 衝撃の事実。お姉さまと三奈子さまが仲良しさんだったなんて。
「だから、私もお姉さまのお見舞いに行きたいのだけれども、さすがに紅薔薇さまのお宅にお邪魔するのはどうかなと思っていた所なのよ」
「それなら、一緒に行きましょう、真美さん」
 断る理由は何もないし、真美さんが三奈子さまのことを心配する気持ちは祐巳にもとてもよくわかる。それに、お姉さまの御自宅とはいえ、実はあの大邸宅を一人で訪問するのはちょっと緊張する。
 真美さんが一緒にいると、何となく心強いのだ。
「ありがとう。祐巳さんなら、そう言ってくれると思ったわ」
 ニッコリと笑う真美さん。なんだかうまく運ばれてしまったような気もするけれど、真美さんが三奈子さまを思う気持ちは本当だと思うから。
 
 小笠原邸前。
 一度来たことはあるけれど、やっぱり大きい。
「うあ…」
 真美さんなんて、呆然と突っ立ってしまうくらい。
「……あの、祐巳さん?」
「なに?」
「ここ、紅薔薇さまのお宅? あ、もしかして、病院にいるとか? ここは病院?」
「ううん。正真正銘、お姉さまの家だよ。ほら、表札もある」
 真美さんは呆然とした表情のまま、大きな門と祐巳の顔を見比べている。
「…お金持ちとは聞いていたけれど…リリアンにはお金持ちの家が多いけれど…これは…完全に別格だわ…療養室の一つや二つ、いいえ、病院の一つや二つ敷地にあっても不思議がないわね」
「うん。私も最初はそう思った」
 祐巳はあっさりと答えると、真美さんに向かって微笑む。
「でも、家が大きくても小さくても、お金があってもなくても、小笠原祥子さまが私のお姉さまであって、とても素敵なお姉さまだって言うことに変わりはないもの」
「…ごちそうさま」
 複雑な表情で軽く頭を下げる真美さん。
 さらに何か続けようとした所で、門が開く。
「お久しぶりです、福沢さま。お待ちしておりました」
 運転手の松井さんだった。
「あ、こんにちは」
 祐巳が頭を下げて挨拶すると、真美さんも釣られて頭を下げる。
 あれ、でもどうして松井さん?
「福沢さまは、以前来られたときはどなたかの車で来られたのではありませんか?」
 確かに。そう言えば聖さまの車で来たのが初めてだったはず。その後は瞳子ちゃんの家の車や、松井さんの運転する車。とにかく純粋に歩いて…バスや電車で来たのは始めてかも知れない。
 でも、松井さんの出てくる理由がわからない。
「門から母屋までは、歩くと結構な距離がありますので、迎えに参りました。お電話を戴いてすぐに、祥子さまが私に命じられましたので」
 なるほど。確かに。
 真美さんは再び呆然な表情に戻っている。
「さあ、お乗り下さい」
 開いた門の向こう側には、見覚えのある小笠原家の車。
「はい。わざわざすいません」
 祐巳はそそくさと乗り込もうするけれど、真美さんは動かない。
「どうしたの、真美さん?」
「いや、あの…驚いちゃって…」
「ああ。私は運転手さんとは何度か会ったことがあるから」
「そうじゃなくて」
 祐巳が車内から手招きすると、真美さんは仕方ないという様子で乗り込む。
 勿論、敷地内なのでそれほど時間をかけずに車は止まる。
「祥子さまがお待ちかねです」
 祐巳と真美さんは礼を言って車を降りる。
 玄関では、待ち受けていたかのように清子さまが立っていた。
「祐巳ちゃん、お久しぶりね」
「お久しぶりです、清子小母さま」
 そちらは? と清子小母さまが尋ねると、真美さんは自ら自己紹介。
「まあ、三奈子さんの妹なのね。ええ、祥子さんと一緒にいるわよ。それじゃあ祐巳ちゃんと一緒に会ってちょうだい」
 
 奥の方への道を教えてくれると、清子小母さまはお茶の用意をさせてくると言ってどこかへ行ってしまった。
 道自体は一本道、というか廊下の突き当たりだと言われたので迷う心配はない。
 真美さんはようやくカルチャーギャップから復活し始めたようだった。
「さすがは小笠原家ね。普通のお金持ちが一般庶民に見えるわ」
「うーん。なんだか私は慣れちゃった」
 あまりにも世間とかけ離れすぎていて、お金があるとかないではなくて、ああそういうものなんだなと納得するしかない世界があるのだ。
 
 廊下の突き当たりには、インターホンが備えられていた。
 押すと、即座に返事が返ってくる。
「祐巳なの?」
 紛れもない、お姉さまの声。
「はい。お姉さま」
 三奈子さまを驚かせてあげようと思って、お姉さまには口止めをお願いしている。だから真美さんは何も喋らない。
 ところが…
 インターホンの向こうから聞こえてくるのは、
「真美、いるんでしょ?」
 真美さんは驚いて祐巳を見る。慌てて首を振る祐巳。
 向こうから今度はお姉さまの声が聞こえる。
「三奈子さん、どうしておわかりになったの?」
「私のお見舞いに真美が来ないわけないじゃない。紅薔薇さま、逆の立場だったら、貴方がどこにいても祐巳ちゃんはお見舞いに来ると言える?」
「愚問ですわね。来ないわけがありませんわ」
「そういうことよ」
 あらあら。祐巳は真美さんをそっと見た。
 真美さん、顔が真っ赤になってる。
「それじゃあ、二人とも良く聞いてね」
 三奈子さまがインターホンの向こうから言う。
「そこの扉は自動ロック式で、外からは合言葉を言わないと開かないのよ」
(三奈子さん!?)
(紅薔薇さま、いいからここは任せてください)
 なんだか、そんなひそひそ声が聞こえたような気もする。
「自動ロックですか?」
「さすが小笠原家のセキュリティね」
 療養室にするためにセキュリティを付けたのか、それとも元からセキュリティがついていた場所を療養室にしたのか、どちらにしてもとんでもない家である。
「わかりました」
 祐巳が素直に尋ねると、三奈子さまもやはり素直に合言葉を教えてくれる。
 けれども、祐巳はつい真美さんと顔を見合わせてしまう。
「…どちらにしろ、言わなきゃドアを開けてくれないと思うわ」
 渋々、と言った様子で真美さんは肩をすくめていた。
「祐巳さん。お任せするわ」
 言葉に詰まる祐巳。確かに三奈子さまが教えてくれた合言葉は難しい物ではない。それどころか、言葉自体には全く問題はない。
 けれど…。
「祐巳、言わないとドアが開かないわよ」
「わ、わかりました…言いますよ…」
 こほんこほんと咳をして喉を整える祐巳。
「では…言いますよ…」
 意を決して、
「お姉さま、大好きです」
「おっけー、これでドアは」
「駄目よ!」
 三奈子さまの声を消すような大声でお姉さまが言う。
「駄目、駄目よ、祐巳。声が小さいわ、もっと大きな声で言わなきゃ駄目よ」
「え、そうなんですか? それじゃあ」
「お待ちなさい。今ICレコーダーを準備…いえ、セキュリティを確認するから…………準備でき…いえ、確認したわ。さあ、合言葉を言いなさい、祐巳」
「あ、はい」
 大きく息を吸って、
「お姉さま! 大好きですっ!!」
 くぁああ、感極まったようなうめき声が聞こえてくる。
「…祐巳、それでよくてよ」
「じゃあ、入りますね」
「まだよ」
 今度は三奈子さま。
「今のだと入ってこれるのは祐巳さんだけよ。真美は入れないわ。真美もちゃんと合言葉を言わなきゃ駄目よ」
「ええっ!? 私も?」
「当たり前じゃない。真美の声紋もチェックしなきゃあ」
「…あの、まさかセキュリティ話を私たちが真に受けているとでも?」
「え、違うの?」
 祐巳は驚いた。
「あのね、祐巳さん。明らかにおかしいと思わなかったの?」
「ぜ…全然。お姉さまの家のセキュリティって凄いなと…」
「…」
「とにかく!」
 インターホンからは開き直ったかのような三奈子さまの声。
「どっちにしても真美が合言葉を言わなきゃ扉は開けないわよ!」
 真美さんはムッとした顔でドアを見つめていた。
 やがて、根負けしたように肩をすくめると、インターホンに向かう。
「わかりました。そのかわり絶対開けてくださいよ」
「勿論よ」
「…………お姉さま、大好きです」
「合格よ! 真美!!!」
「はあ…どうも…それじゃあ、今度こそ入りますよ」
「駄目」
「…………お姉さま?」
「いや、今度は真面目に駄目なのよ」
「今度って…」
 
 花粉症は、簡単に言ってしまえば花粉のアレルギーだ。
 花粉だけでなく、室内の埃も症状悪化の一因となる。
 だから、二人はクリーンルームにいた。
 室外からの花粉はもとより、埃の類も全て室内に持ち込むことはできないのだ。
 だからまず、外から入ってきた祐巳と真美さんは服に付いた埃を除去しなければならない。
 パタパタとはたくが、そんなものでは埃は取れないと言われる。
「しょうがないわね。祐巳、貴方、服を脱ぎなさい」
「へっ?」
 いきなりの、そして予想外のお姉さまの言葉に固まる祐巳。
「服に花粉や埃が付いているかも知れないのよ。それは除去のしようがないのよ」
 奈美さんのほうを見ると、真美さんは頷いている。
「祐巳さん。今度の話は嘘じゃないわ…ただちょっと大袈裟のような気もするけれど。さすがに脱ぐ必要はないわよ」
「服に花粉が付いているかもしれないって言うのは本当のことなの?」
「ええ、まあね。だけど現実問題として…」
「脱ぐわ」
「え。ちょっと、祐巳さん!」
「だって花粉症のお姉さまの所に花粉を運ぶわけにはいかないもの!」
「それはそうなんだけれども…」
「真美さんも脱いで!」
「ええっ!」
 祐巳の目の色に冗談はない。
「三奈子さまに花粉を運んでもいいの!?」
 有無を言わせぬ口調に、思わず真美さんは頷く。
 テキパキと制服を脱ぎ始める祐巳。脱ぎながら、真美さんにも早く脱ぐように指示を出していく。
「真美さん。脱がないと入れないよ」
「あの…祐巳さん…もしかして、本気?」
 ん? と顔を上げた祐巳の顔には邪気の欠片もなくて。
「ごめん、祐巳さん、私が悪かったわ…」
 真美さんは謝るしかなかったわけで。
「さあさあ、真美さん脱いで脱いで」
 そう言って急かす祐巳の表情、そこにはただ一言、「お姉さまに早く会いたい♪」と書かれている。
「ちょっ、ちょっと祐巳さん!」
 何故か妙に手慣れた祐巳に、するすると脱がされる真美さん
 下着姿になった所で祐巳はもう一度インターホンに向かう。
「お姉さま。準備できました」
 返事がない。
「お姉さま?」
「………」
 なんだか荒い息づかいが聞こえる。
「…お姉さま?」
「は、あ、あ、ご、ごめんなさい」
 慌てたようなお姉さまの声。
「そ、そうね。それじゃあ」
「まって祥子さん」
 またもや三奈子さまのストップがかかる。
「お姉さま!」
 さすがに慌てる真美さん。今が下着姿と言うことは、このあとはもう全裸しか残ってない。
「まだ脱ぐべき物が残っているわよ」
 さすがに「え!?」と叫ぶ祐巳。真美さんも頷いて、
「お姉さま。調子に乗るのもいい加減にしてください」
 なんとなくインターホンの向こうで、一瞬呆れながらもすぐに真顔に戻り、三奈子さまに親指を立てて「グッジョブ!」と讃えている祥子さまの姿が見えたような気が。
「いいえ。真美さん。三奈子さんの言う通りよ」
「紅薔薇さままで!」
 祐巳はとたんにブラのホックに手をかける。
「祐巳さん。もう本気にしないで」
「でも……実際花粉症にかかっているのはお姉さまと三奈子さまな訳だし…私たちには花粉症になった人のつらさはわからないもの」
 ええ子や、あんたええ子や!!!!
 真美さんは心の中で絶叫する。
「さあ。真美さんも脱いで。一人で裸は恥ずかしいよ」
 溜息。
 でも、こんなに信じている人を裏切るのもなんだか申し訳ない。
 真美さんは意を決してフロントホックに手をかけた。
(それに…見られると言っても、祐巳さんと紅薔薇さまと…お姉さまだけだもの…)
 全裸の少女二人がインターホンに向く。
「お姉さま、準備できましたよ?」
 返事はない。
「お姉さま? 三奈子さま?」
 やはり返事はない。
「紅薔薇さま? お姉さま?」
 
 
「それで、どうなったの?」
 翌日の薔薇の館。見舞いの顛末を話している祐巳、それを聞き出しているのは今日もお休みの祥子さまを除いた一同。
「はい。それが…その後もしばらく返事がないので、もう一度服を着て清子小母さまの所に行ったんです。小母さまが部屋に入ってみると…」
 血の海で二人が倒れていた。
 正確には、鼻血まみれの二人が。
「花粉症って重傷になると、出血多量にまでなるんですね」
 どんな花粉症だ、それは。
 
 
 
 
あとがき
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