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リリあん
 
月刊アフタヌーン連載「ラブやん」を
知らない人にはナンノコッチャ、だと思います
 
 
 ハイ、私、愛の天使ラブやん。一言でいうとキューピッドって奴ね。
 愛にまみれた連中をカップルにするのが私の使命。
 やや、片思いの強力な電波を感じるわ。場所は東京…武蔵野ね。
 それじゃあ、行くわよ!
 
「愛の天使、ラブやん見参!!」
 ………
 なんか、やったら背の高いのがパソコンの前に座って画像見てる。
 ああ、なんだか隠し撮り画像の閲覧っぽいデスヨ?
「なによ、貴方。人の部屋に勝手に、しかも変な所から現れて…って宙に浮いてるじゃない! 貴方何者ーーー!!」
「えーっと、愛の天使!」
 人の話を聞かずに悲鳴を上げるのっぽさん。
 まあ、私は任意の相手にしか見えないという能力を発動できるから別にいいんだけどね。
「どうしたの可南子?」
「お母さん、見てよ、この人」
「何も見えないけど?」
「え? 部屋の真ん中に、宙に浮いた女の人が…」
 可南子の母はそっと目頭を拭いた。
「可南子…お父さんがいなくて寂しいのね…。大丈夫よ、そんな風にして気を引かなくても、私は貴方を絶対に見捨てたりしないから…」
「いや、あの、お母さん…」
「今日の晩ご飯は可南子の大好きな広東風味噌もやし炒め作るからね」
 部屋のドアを閉め、母親は去っていく。
「…まさか、本当に?」
「まあね、私は貴方の思いに呼ばれてきたのだから、貴方にだけは姿が見えるのよ」
「私の思い?」
「そう」
 私は地に降りるといきなり胸を張る。
「私は愛の天使。貴方のその片思いを成就させてあげようじゃないの!」
「う、嘘」
「本当よ。貴方の愛の力が私を呼んだのだからして」
「…そ、それじゃあ、もうひっそりとストーカー行為なんてしなくていいんですね!」
 ストーカーなのか、お前は。
「…まあ、行為の是非はおいといて、ぶっちゃけそういうこと」
「愛しの人と…」
「ええ。私に任せなさい!」
「頼もしい天使ですね!」
「ふふふ、もっと褒めなさい。さあ、それじゃあここで、貴方が片思いの相手を確認に行きましょうか!」
「はいっ!」
 
 と、ここはリリアン女学園。
 あれ? 確かここって女子校。
「あー、えーと。…その、なんだ……貴方の片思いの相手って学校の先生か何かだよネ?」
「しぃっ、静かに、出てきましたわ!」
 出てきたのは、ツインテールの女の子。
 どことなく子狸ッぽいけれど、この場合は愛らしいという意味の褒め言葉。
 って女の子?
 えーっと…
「福沢祐巳。紅薔薇のつぼみ。二年松組。お姉さまは小笠原祥子。家族構成は父、母、弟。一年時の成績は…。好きな食べ物は…。スリーサイズは…、靴のサイズは…で服のサイズは…。そして大の甘い物好きで清純を絵に描いたような品行方正容姿端麗な無垢の御方ですわ」
「あの…えっと……同性愛嗜好?」
「な、何を失礼な、愛に性別の差は関係ないでしょう!」
 いや、確実に同性愛だし。
「ああ…祐巳さま、今日も可愛らしい」
 だめだ。完全に同性愛に走るどころかぶっちぎりだよ、今なら新幹線にも余裕で勝てる加速性能だよ。
「同性愛でストーカー。終わってるよ貴方」
「ちょっと、貴方、私の片思い成就のために来たって言ったのは嘘? それともその実力もない癖に法螺ふいてたの?」
 う、痛い所を。
 たしかに、私は知る人ぞ知る、と言われるまであと少し? って感じの愛の天使ラブやん。その程度でめげるわけにもいかない。
「言ってくれるわねレズ。それじゃあ貴方、どういったわけであの人のことが好きになったのよ」
「一目見て判らない?」
「何がデスか?」
「祐巳さまは私と結ばれる運命なのよ」
 なんか電波受信してますか?
「わ、わかったわ、とりあえず、一旦家に戻って作戦会議よ」
 可南子の部屋に戻って作戦会議。
「それじゃあ始めましょう。ストーカー電波娘、先輩とラブラブ計画」
「名前は嫌ですが、作戦内容は気に入りました」
「とにかく、このままじゃ告白したってつきあうどころかいい関係すらかなり無理。つーか完全無理。少しでも可能性を高めるために、まずは自分の欠点から見つめ直してみなさい」
「欠点? いきなり言われても…」
 考える可南子。
「…女にしては身長が高すぎる…ぐらいしか」
 オッケー判った、ストーカー。
「いや、いっぱいあると思うわよ」
「失敬な」
「とにかく、少しでも彼女に近づくために、これらの課題をクリアーすること!」
 壁に張り出すスローガン。
「まずその1、トークの楽しさ、あるいは格好良さよ。貴方のとっておきの決め台詞、私が祐巳さんだと思って、言ってみなさい!」
「そんなこと言われても、第一、祐巳さまはそんな不細工じゃありません」
「やかましゃああああああ!!! いいから練習してみろ!!!」
 私の剣幕に一瞬たじろぐと、可南子は息を整えて口を開いた。
「男なんて最低です」
 は?
「大嫌いです。最低の生き物だと思います」
 ぐはっ
「…あ、アンタねえ…そんな台詞一体日常生活のどこに使うシーンがあるというのよ…」
「え、駄目ですか? 男の最低さ加減について三昼夜ほど語り合って一気に意気投合するという私の計画が…」
「そんな72時間耐久喋り場はいらないから」
「そうかしら…」
「じゃ、じゃあ次、勝負服よ。これだと思うものを来て見せて」
 可南子はリリアンの制服を着始めた。
「どうです?」
「うん。まあそれなりに似合ってる。だけどデートの時に着る気?」
「可愛くありません?」
「可愛いというか、マニアのツボにはメテオストライク並みの破壊力だと思うけれど、相手も同じ服を持っている、どころか普段も着ているのよ?」
「…まあ、それは判っているんです。同じ服だって事は…」
 替えの制服らしきものを取り出して抱きしめる。
 あ、なんかおかしい。替えの制服、可南子のものにしてはちょっとサイズが小さいような気がしますよ?
「あの、可南子…」
「なに?」
「まさかと思うけれど、祐巳さんの制服パクったりしてないよね、それ」
「……」
「もしもーし」
「イエ、コレハチガウデスヨ?」
 嘘バレバレだーーー!!! 
「…ストーカーで電波で犯罪者…おお神よ、救いようがありません、マジヤバです……」
「さっきから聞いていれば失礼な、そもそも貴方、ここに何をしに来たの?」
「え?」
「貴方、私の恋の成就に来たんでしょう? それが貴方の存在意義じゃないの!? それでも天使? 笑わせないでよっ!」
 そ、そこまで言うかっ!??
「判ったわよ。そこまで言うならやってやろうじゃない! まずは少しでも祐巳さんに近づくのよ!」
 計画その1、薔薇の館で祐巳さんのお手伝い。
「話に聞くと、祐巳さんの所属している山百合会って言うのはぶっちゃけ生徒会なわけね、しかも普通の学校からは考えられないくらい自治意識高まりまくりの学校だから、生徒会の権限も仕事内容もそれなりに大きい。つまり、お手伝いは大歓迎ではないだろうかという訳よ」
「な、なるほど!」
「しかも、祐巳さんは同級生の島津由乃と共に、二年生といえども妹を持たない身、つまりは一年生の二条乃梨子と立場は同じ。パシられる側なのよ!」
「パシられ側!?」
「そこでどこからともなく現れてお手伝いを始めるノッポ娘!」
「いちいち癇に障る言い方だけど大意は伝わります!」
「手伝ってくれる娘への感謝の念はいつしかフォーリンラブへと!!」
「フォ、フォーリンラブ!?」
 ガッと手握る可南子。
「GOOD! GOODよ! ラブやん!!! 今なら貴方を天使と呼べるわ!!」
「うふふふふ。思うさま褒め称えなさい?」
「それじゃあ、早速、明日から薔薇の館の手伝いを始めるわ!」
「その意気よ!」
 
 そして数週間。
【「涼風さつさつ」P47〜P148】
 
「…………」
「……今夜は飲もうか」
 未成年だけど。
 
 
 
あとがき
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