SS置き場トップに戻る
 
 
男の甲斐性!?
(後編)
 
 
「したんですか?」
「はい?」
 いきなりの問いに戸惑う祐麒。
「ですから、したんですか? と聞いています」
「何を」
「はぐらかさないでください」
「いや、そう言われても」
「隠す必要はありません、こう見えても私は口が堅いですし、姉さんとの同意の上なら私が文句を言う筋でもないと思っていますから」
 乃梨子の妹の問いはちょっとしつこかった。
「だから、何を」
「ですから、姉さんとしたのか、と聞いているのです」
「だから、何を」
「貴方は、花も恥じらう中学生にそんな事言わせて喜ぶ変態ですか?」
 花も恥じらう中学生はそんなこと聞きません。
「姉さんももう高校生ですし、していたとしても驚きはしませんが…」
「あのね…してないですよ」
「それは、姉さんに魅力がないという解釈でいいのでしょうか」
「え、いや、そうじゃなくて」
「仕方ないですね。妹の私が言うのも何ですけれど、愛想はない色気はない胸はないの三ない運動。そのうえあの性格あの趣味あの髪型、彼氏どころか友達すらいないんじゃないかと思わせるあの物腰」
 さすがにそこまではどうかと祐麒が思っていると、妹はその態度をどう勘違いしたか、
「違うとおっしゃりたいんですか?」
「いや、というか、さすがにちょっと言い過ぎじゃないかなぁと」
「でも、。貴方は姉さんとはしていないんでしょう」
「それはそうですけれど…」
「高校生にしては遅れているんですね」
「そういうわけでもないと思うけど…」
「だって、高校生にもなってデートの一つもしていないなんて」
「は?」
「は、じゃありません。高校生の割には奥手だと言っています」
 あわてる祐麒、何と勘違いしていたかなんて言うわけにはいかない。
 いや、そもそもわざとじゃないのか?
「ちょ、ちょっと待って。デートくらいならしてますよ」
「そうなんですか?」
「もちろんですよ。さすがにデートくらいは」
「してるんですか」
「もちろん」
「たくさんしたの?」
「ええ。たくさんしたよ」
「ふーん。たくさん、姉さんとしたんだ」
「うん」
 かたん。
「あら、姉さん」
 振り向く祐麒。そこには、にっこり笑った乃梨子の姿が。
「祐麒さん、何を言っているのかしら?」
「あ、今、妹さんが」
「祐麒さんがね、姉さんといっぱいしたって教えてくれたの」
「何をよ」
「そんなこと、まだ中学生の私の口から言えるわけないじゃない」
 待て、と言いかけた祐麒は、乃梨子の形相に思わず絶句する。
「えーと、多分何か大きな誤解があると…」
「この状況を都合良く誤解している人がここに一人いるような気がします」
 さらに反論を続けようとして、祐麒はとても珍しいものを見た。
 静かな怒りにぶすぶすと燃える市松人形。はっきり言って薄気味悪くて怖い。
「ちょっと祐麒さん、こちらに」
「いや、あの、ちょっと用を思い出したから今日の所は…」
「いいから来なさい」
 次期完璧超人の名前を欲しいままにしている乃梨子に逆らえるわけもなく、祐麒は別室へ。
 そしてみっちりとお説教。
 
 
 柏木は面白そうに言った。
「つまりユキチが二股をかけていたと」
「そういうことになりますわね」
 他人事のように冷静に答えるのは瞳子。
「それでも瞳子は平気なのかい?」
「平気も何も、瞳子はそういう殿方ばかりを見て育ったのですわ、今更珍しがったり立腹したりするようなことでもありませんもの」
「しかし、信じられないな。ユキチが二股を…しかも瞳子とさっちゃんを両天秤にかけていたなんて」
 祥子が手をあげる。
「信じようが信じまいが、事実は変わりませんわ、優さん。第一、瞳子ちゃんと私という二人の被害者が祐麒さまの二股を証言しているんですのよ。これ以上の証拠はございませんわ」
「しかし…」
 なぜか柏木はにやりと笑う。
「やっぱり二股は信じられないね」
「優お兄さま!」
「優さん?」
「だって、そうじゃないか?」
 柏木の合図とともに、部屋の一方のドアが開く。
 なぜこの部屋に通されたのか、最初から瞳子と祥子はいぶかっていたのだけれど、今その謎が解ける。
 ドアの向こうには見たことのある人と見たことのない人。
 瞳子と祥子は素直に驚き、祐麒は唖然としている。
「貴様!! 令さんだけに飽きたらずその親友、そして後輩にまで手を出すとは何事だー! 天が許してもこの俺が許さん! その性根、叩き直してくれる!!!」
 令に交際を申し込んでいた道場生だ。
 そしてその横には、よよよと泣き崩れる女の人。
「あああ、可南子ちゃん、貴方の男運の悪さは私に似たのね…また捨てられるのね」
 女の人を慰めるように肩を優しくたたきながら、小寓寺の和尚が祐麒をにらみつける。
「確か…花寺の理事長とは古いつきあいだったな…」
「やっぱり、そういうことでしたか。姉さんに彼氏ができたなんて、おかしいと思ったのよ」
 乃梨子の妹がしたり顔にうなずく横には、おさげ髪のいけいけ青信号がうれしそうに仁王立ち。
「祐麒君、私というものがありながら祥子さまどころか瞳子ちゃんにまで手を出すなんて……」
 何やってんだ由乃さん! と叫ぼうとした祐麒は、さらにその隣に人物に頭を抱えた。
「ユキチってば…ボクというものがありながら…」
「アリス! お前もかいっ!!」
「だって、由乃さんが急用だって呼び出すから来てみたら、こんな面白そうなことが…」
「よ、由乃さん! これはどういう事なんですか!」
 友人達の奇妙な行動の裏に祐麒の存在があることを突き止めた名探偵由乃。由乃は祐麒に出会って自分の推理を確認するとこう言った。
「日曜日までは我慢しなさい。そこから先は私が何とかしてあげるから。さもないと、まだまだ同じようなことが続いちゃうわよ」
 可南子と志摩子のところで懲りた祐麒は、一も二もなくその言葉を頼っていたのだが…。
 その結果がこれである。
「どういう事と言われても、私は事実を告げただけよ。祐麒君が複数の女性と落ち合っていると」
「そんな、誰が本気に…」
 言いかけて由乃の回りのメンバーを見る。少なくともそこの人たちは本気にしているようだ。
「…少なくとも、由乃さんとつきあっているなんてデマは…」
「由乃ーーーーーーー!!!!」
 絶叫に振り向くと、竹刀を握って血相を変えた令の姿が。
「祐麒くん! 今のは本当!? 本当に貴方、由乃と…!!」
 デマを信じている人発見。
「あああああ、もぉなんなんだ…。し、しかし、いくらなんでもアリスとつきあっているなんて…」
「祐麒!」
 祐巳の声。心の底から頭を抱えたくなった祐麒。次の言葉は簡単に予想ができる。
「祐麒が、柏木さんと同じ趣味だったなんて…」
 我が姉までか。
 いやそれどころか。令、祐巳、志摩子、乃梨子、可南子と全員揃っている。
「祐麒くんが由乃とつきあっていたなんて…」
「祐麒がアリスとできていたなんて…」
「もうバレたんですか…役立たずですね」
「余計なことばっかり言って結局これですか」
「写真、返してくださいね」
 回りは全て誤解とブーイングの嵐。
(神様、俺、なんか悪いことしました?)
 祐麒はただ、神に祈るだけだったという……。
 
 
「あのさ祐麒、ちょっと…」
「何か用、祐巳? まだ身体中が痛いんだけど」
「大丈夫? 打撲と擦り傷、打ち身に捻挫、しめて全治二週間だっけ?」
「ああ。それで、何か用事?」
「うん、あのね…」
 
 水野蓉子談
 合コンに誘われてばかりで困っている。こうなったら嘘でも彼氏がいることにして、誘われないようにしたいのだが、あいにく適当な男の知り合いがいない。ついては……
 
 佐藤聖談
 どうも最近景さんが警戒していて近づきにくい。こうなったら嘘でも彼氏がいることにして、景さんの警戒心を解きたいのだが、あいにく適当な男の知り合いがいない。ついては……
 
 鳥居江利子談
 どうも最近山辺さんの心が判らない。こうなったら嘘でも彼氏がいることにして、山辺さんの嫉妬心をたきつけたいのだが、あいにく適当な男の知り合いがいない。ついては……
 
「と、いうことなんだけど…」
「断固断る」
 
 
   −終−
   −戻−
 
 
SS置き場トップに戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送