卒業
長い間この世界にいたような気がする。
だけど、考えてみると短かったのかも。
いつまでもここにいたいけれど、それは許されない。最初からわかっていた、いずれはここを出て行かなければならないことなんて。
考えたくはなかった。そして今までも考えたことはなかった。
だけど、出て行かなければならない。
守ってくれた人がいる。
白薔薇さま。いや、今は白薔薇さまではないのだけど、今も懐かしい白薔薇さま。
守ってくれた人。あの人がいたからここまでやっていくことができたのだ。
あの人がいなければ、とうにリリアンから消えていただろうと思う。
勿論、聖さまだけじゃない。沢山の人間にお世話になった。一人一人の顔も匂いも、しっかりと覚えている。
最後に、もう一度見て回ろう。
ゆっくりと歩きながら、思い出を確かめる。
ご飯を食べた場所。
聖さまに始めて会った場所。
いつも温かい、寒い日の日向ぼっこには最高の所。
涼しい木陰、暑い日にはいつもここに逃げ込んでいた。
ここから出てしまえば、今までの生活とは違う生活が待っている。
これからは、今までよりも厳しい生活が待っているのだと思う。
いつまでもここにいたい。
だけど、外の世界を知らなくちゃいけない。外の世界から何かが呼んでいる。それは、外の世界へ向かおうとする本能、向上心というものなのかも知れない。
考えながら歩いていると、正門の前にたどり着いていた。
…ここから出れば、もうさよならだ。
立ち止まりかけて、やめる。
脅えるのはやめよう。
もう、悩むことはない。これで、お別れなのだ。
ゴロンタは力強く前足を踏み出した。
そして三日後、やっぱり帰ってきた。