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妹リハーサル
 
 
「えっと、それじゃあね、まあとにかく適当に座っていてよ」
「はあ……」
 二人ともどことなくぎこちない。
「何か飲む? あ、そうだ、確かお菓子もあったはずだし」
「あ、いえ、おかまいなく」
 由乃さまの問いに、乃梨子は慌てて首を振る。
「いいのよ。それくらいのおもてなしは、姉として当然だもの」
「姉として、ですか」
 そう言われると弱い。否定できない。リリアンの流儀と言われてしまえばそうなのかと納得するしかない自分がいる。なにしろ、自分はリリアンではまだ一年も過ごしていない新参者。翻って向こうは、通算十年を超えるリリアンッ子なのだ。流儀に通じているのがどちらかという問題の答は、おのずと明らかだ。と、乃梨子は考えた。
「そう。今日は私たちは姉妹でしょう? だからおとなしく座って待ってなさい」
 確かにそうだけど、どうしてこんなことに。
「は、はあ」
「紅茶でいいかな?」
「はい」
 ちょっと待っててね、と言い残して部屋の主、由乃さまは出て行く。
 一人残され、乃梨子は部屋をぐるりと見回した。
 殺風景、は言い過ぎだとしても、かなりシンプル。乃梨子自身の部屋も人のことは言えないほどシンプルだけれども、それでもカーテンやベッドカバー、その他諸々が全て無地単色というのはすごいと思う。
「はあ、なんでまた、こんなことに……」
 口に出して呟いてみても、状況が変わるわけはないのだけれど。
 
 それは昨日の薔薇の館でのこと。
 
「由乃の妹のことがね、不安なのよ」
「強引に決めさせることもないと思いますけれど」
 志摩子さんの言葉に、黄薔薇さまは笑って首を振った。
「ああ、違うのよ志摩子」
 志摩子さんは首を傾げ、乃梨子も釣られて首を傾げる。
「由乃の妹が誰になるのか不安、という意味で言った訳じゃないのよ」
「それでは一体?」
 志摩子さんの首は傾げられたまま。
「妹が誰であろうと、由乃がきちんとしたお姉さまになれるかどうか、それがちょっと心配で」
「きちんとした、お姉さまですか?」
 きちんとしたお姉さまとは、どんなお姉さまを指すのだろう。
 乃梨子は知っている限りのお姉さまを思い返してみる。
 まずは目の前にいる令さま。そして、祥子さま。山百合会を出れば三奈子さま、真美さま。
 少し考えるけれど、結論は言うまでもなかった。
 どう考えても、きちんとしたお姉さまとは志摩子さん以外の誰でもない。つまり令さまは、由乃さまに志摩子さんのようになって欲しいと言うことか。
 ………。
 ごめん。無理。
 乃梨子は心の中で合掌した。無理だ。どう考えても無理。
「別に、志摩子や祥子のようになれとまでは言わないけれどね」
 令さまは笑って言った。
「だけど、私は由乃にとってはいいお手本じゃなかったと思うのよ」
 乃梨子は微かに頷いた。確かにそうかもしれない。
 この二人の関係は第三者である乃梨子から見ていても、リリアンの姉妹関係とは異質だなと言うことがよくわかる。姉妹である以前に、二人は離れがたいほど仲のいい幼馴染みであり従姉妹なのだ。
「だから、由乃がちゃんとしたお姉さまになれるかどうか。お姉さまみたいになってくれればいいんだけど」
「黄薔薇さまは、どなたのお姉さまが理想なのですか?」
「何言ってるの、志摩子。私がお姉さまと言えば、江利子さまに決まっているじゃないの」
「ええ?」
 志摩子さんがおかしな声を出して固まってしまった。
「どうかした? 志摩子?」
「あ、いえ、なんでもありません」
 黄薔薇さまは、まだちょっと驚いている志摩子さんを置いて、またもや悩み始めた。
「せめて、私がいる間に妹を決めてくれるのなら、傍で見ていることもできるんだけど」
「大丈夫ですよ。由乃さんは、ちゃんとしたお姉さまになれますわ」
「うーん。志摩子がそう言ってくれるのは嬉しいけれど」
 そう話しているうちに、当の由乃さまがやってきた。話の流れから、志摩子さんが由乃さんに尋ねる。
 由乃さまは、どんなお姉さまになるつもりなのか?
「理想とするお姉さまなんているの?」
 由乃さまは志摩子さんの問いにしばらく頭を捻っていた。
「そうね。理想とは違うけれど、一つだけは言えるわね」
「なに?」
「江利子さまみたいには絶対になりたくないわ」
 黄薔薇さまは絶句して、志摩子さんはなんだか複雑な表情。
「それに、私は私。誰かの真似をしてお姉さまぶっても仕方ないし、私の妹なんだから、私らしいお姉さまでいいはずよ」
「そうね。由乃さんの言うとおりだわ。私だって、乃梨子とは自然にこういう関係になったのだもの。妹ができれば、由乃さんだって自然とお姉さまになっていくと思うわ」
「ええ。そうよ」
 乃梨子は、二人の会話が一段落したのを見て取るとお茶の用意を始める。
 さすが志摩子さん、いいことを言う。と、少し誇らしげな気持ちになっていた。
 なのに、お茶の支度をして戻ってみると、
「でも、確かに不安と言えば不安、自信がある訳じゃないのよ」
 由乃さまは妙に弱々しいことを言っている。
「当たり前の話だけれど、妹なんて持ったことないし……でも、みんなそうなのよねぇ。妹がいる人なんて……あ、お姉さまには私がいたか。それに、考えてみれば祥子さまには瞳子ちゃんがいたのよね」
「あら、私と祐巳さんにはいないわよ」
「そっか。二年生組は条件が一緒なのよね」
 由乃さまは大きくため息をつくと、ありがとう、と言いながら乃梨子が煎れたお茶を受け取った。
「ねえねえ、志摩子さん。妹を持つってどんな感じ?」
「どんな感じと言われても」
 志摩子さんはこちらを見るけれど、乃梨子だって答えようがない質問だ。
「私と乃梨子の最初の出会いは、妹候補と言うよりもお友達だったから。今でも、妹というよりはお友達としての感覚が残っているのかも知れないから、由乃さんの参考にはならないと思うの」
「なるほど。そうよね、確かに志摩子さんは、積極的に乃梨子ちゃんを妹にしようとしていた訳じゃないものね」
 そうだ。乃梨子は思いだしていた。
 志摩子さんは逆に、乃梨子を妹にすることで白薔薇さまという重荷を与えてしまうことを躊躇していたのだから。自分たちの場合は、姉妹という立場を二人で一緒にいるために利用しているのだと言えないこともない。当然、これでは由乃さまの参考にはならないだろう。
「ええ。だけど、参考になるのなら、何でも聞いてね? できるだけ答えるし、協力するわ」
「ああ、だったら、一つお願いがあるんだけど?」
「なにかしら?」
「乃梨子ちゃんを二三日貸して?」
「ええ、それくらいなら……え? 乃梨子を?」
「うん。乃梨子ちゃん」
 乃梨子は唖然とした顔で由乃さまを見た。
 なんで私を?
「どうして乃梨子を?」
「練習よ。姉妹になるための練習。乃梨子ちゃんには、少しの間だけ私の妹になってもらうの」
 得意そうな由乃さまの顔。もしかすると、これって単なる嫌がらせじゃないんだろうか、と乃梨子は勘ぐってしまう。
「そうね、乃梨子さえよければ、私に断るつもりはないわ」
 志摩子さんもとんでもないことを言う。
「そんなの変ですよ、由乃さま。お姉さまになる練習なんて」
「いいじゃない。乃梨子ちゃんなら、いつも志摩子さんを見ているんだから、目が肥えているでしょう?」
 それはそうだ。志摩子さんの傍にずっといれば、理想のお姉さま像というのは嫌でも焼き付けられる。目が肥えているという由乃さまの指摘はまったく正しい。乃梨子は頷いた。
「それは、そうですけれど」
「じゃあ、決まりね」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
 結局、暴走を始めた由乃さまの怒濤の押し切りには誰も勝てず、いつの間にやら乃梨子はしばらくの間、「黄薔薇のつぼみの妹代理」を務めることになっていた。
「じゃあ、今日はもうこんな時間だから、早速明日からね」
「明日って、明日は学校お休みですよ?」
「うちに遊びに来なさい。お姉さまが妹を自宅に招待する。自然な流れよね?」
「え、明日ですか?」
「都合があるのなら無理にとは言わないけれど」
「いえ、別に都合はないですけれど……」
 言いながら乃梨子は、なんで自分はこんな時まで正直者なんだろうとごちていた。
「じゃあ、明日、うちに来てもらえる?」
 と言われても、乃梨子は由乃さまの家の場所など知らない。
「ああ、駅前までは迎えに行くわ」
 
 そして今日。乃梨子は由乃さまの家にいる。
 由乃さまはお茶を煎れると言って階下へ行ってしまった。
 乃梨子は失礼かな、と思いながら室内を眺め回す。見れば見るほどシンプルな部屋。
 きちんと片づいていて、整理整頓されている状態というのは見ていて気持ちいいし、シンプルな感じも乃梨子は嫌いではない。
 本棚に並んでいるのは「池波正太郎」に「藤沢周平」。なかなかに渋い本棚だった。実家の父の本棚にも確か沢山並んでいたなぁ、と乃梨子は思い出している。
 ベッド、机、クローゼットも見た目よりも機能を考えて選ばれている。逆にそれが、部屋にシャープな印象を与えていた。
 結論として、やっぱり女子校生の部屋っぽくない。イメージからすると、少しお堅い男の人の部屋、と言った感じ。けれど、小物類はまぎれもなく女の子の部屋を示しているのだ。
 キョロキョロしていると、由乃さまが戻ってきた。
「令ちゃんも呼ぼうと思ったんだけど、いなかったのよ。乃梨子ちゃ……乃梨子を迎えに行くまではいたはずなんだけれど、どこかに出かけたのかしら」
「令さまを呼ぶんですか?」
「そうよ。だって、私に妹ができたら、まずは令ちゃんに紹介しなきゃ」
「でも、私はもう令さまと知り合いで……」
「だから、練習じゃない。私に本当に妹ができたときのための」
 そうだった。由乃さまは、きちんと練習をするつもりらしい。
 だったら、自分もきちんとつきあおう、乃梨子はそう思った。
「あの、どこからどこまで練習するんですか」
 つきあうと言っても、さすがにロザリオの授受の真似事はやりすぎだと思う。それは、やっぱり本当の姉妹間だけでやるべきことのような気がするから。もし由乃さまがそこまで練習をすると言うのなら、それだけは辞退するつもりだった。
「そうね。ロザリオはもう渡してあることにしましょう。練習とは言え、私が乃梨子ちゃ……乃梨子にロザリオを渡すのは、志摩子さんに失礼じゃないかって思うのよ」
 その言葉で乃梨子は安心した。
「ええ、私もそう思います、由乃さ……あ、えーと……お姉さま?」
 乃梨子が言い直すと、由乃さまは何を思ったか突然上半身をベッドに投げ出して枕を抱えた。
「お姉さま?」
 驚いた乃梨子が立ち上がって近寄ると、由乃さまは枕を抱きかかえたまま、イヤイヤをするようにかぶりを振っている。
「ちょっ……の、乃梨子ちゃん……じゅなくて乃梨子、それは」
「どうしたんですか? お姉さま」
 尋ねてみてはいるものの、乃梨子は理由にピンと来た。
 由乃さまは、照れている。
「お姉さま?」
 乃梨子は意地悪く、顔を近づけた。
「……結構、照れるわ、こんなに恥ずかしいとは思わなかったわよ……」
 由乃さまの呟きにニヤニヤとしたいのを堪えて、乃梨子は耳元で囁く。
「まあ、お姉さまってば」
 わざとらしく甘えた声を出してみる。
「の、乃梨子ちゃん!?」
「あれ? 乃梨子って呼び捨てるんじゃないんですか?」
 ピタリ、と由乃さまの動きが止まる。
「の〜り〜こ〜?」
 ゆっくりと枕から顔を上げる由乃さま。その目が不敵に輝いている。
 からかっていることに気付かれた。乃梨子は咄嗟に離れようとする。
「お待ちなさい」
 むんずと手を掴まれる。さすがは初心者とは言っても剣道部、そう簡単には外れそうにない握力だ。
「乃梨子、よくも弄んでくれたわね」
 弄ぶって、そんな、過激な。と乃梨子が言う間もなく、
「仕返しよ!」
 由乃さまが乃梨子をベッドの上に引きずりこむ。
 ええっ、と驚く間もなく、由乃さまの手が乃梨子の脇に伸びた。
 直後、巻き起こる乃梨子の爆笑。
「くす、くす、く、くすぐったい、やめてぇっ!! 由乃さま!」
「えーい、こうなったら祐巳さん直伝くすぐりの刑よ!」
 と、そこへ、
「やめて由乃さん! 乃梨子に何をする気!」
「ちょっ、ちょっと、志摩子!」
 由乃さまの動きが止まった。
 見たことないような微妙な、ちょっと面白い顔で二人の闖入者を見つめている。
 乃梨子も二人を見た。
 令さまと志摩子さん。
 それはいい。
 でも、二人はどうして由乃さまのクローゼットから出てきたの?
 そのうえ、どうして志摩子さんは体操服姿なの?
 
 
 どうしてこんなことになってしまったのか。
 そう考えたのは乃梨子だけではなかった。
 どうしたものかと令が考えていると、志摩子が日曜日にお邪魔してもいいですか、と尋ねてきた。
 その瞬間、計画は決まったのだ。
 
「失礼します」
「志摩子、早く上がって。由乃が乃梨子ちゃんを連れて帰ってこないうちに行くよ」
「はい。あ、ちょっと待ってください」
 言うが早いか服を脱ぎ出す志摩子。
 驚いている令に、
「クローゼットの中に隠れるのなら、身軽な方がいいと思いまして、服の下に体操服を着込んできました」
 令はジーンズにシャツのラフな姿なので、これ以上身軽になる必要はない。
 志摩子の言葉に令が納得すると、二人は由乃の部屋に侵入する。
 そっとクローゼットを開けて、中の衣服を少し外に出す。外に出した衣服はきちんと畳んで見えないところに。
「さあ、入って」
「失礼します」
 服を少し出したくらいでは、二人が入るには狭い。かといってこれ以上衣服を外に出すとばれてしまうかも知れない。
 頑張って窮屈な体勢になる二人。
 階下から由乃と乃梨子ちゃんの声がして、慌てて令はクローゼットを閉める。
 蝶番の隙間から、二人には部屋の中が不十分ながら見えている。声は衣服が頭にまとわりつくせいで聞こえにくいけれど、これで何とか室内の様子はわかるのだ。
「志摩子?」
 ひそひそ声で令は尋ねた。
「ここまでする必要あるのかな?」
「令さまは、由乃さんのことが心配ではないのですか?」
 少し怒ったような言い方に、令は苦笑した。志摩子自身が乃梨子ちゃんのことを心配しているのに。
「わかった。さ、二人が上がってくるよ」
 二人が見ていると、即席姉妹は当たり前だけどぎこちなかった。
 しょうがない。自分と由乃は例外として、姉妹なんて最初はあんなものだ。特にこの場合は実際の姉妹ではないのだからよりぎこちないだろう。と令は納得していた。
 しばらく見ていると、由乃がベッドに寝転がって何か言い始めた。すると、乃梨子ちゃんが近寄っていく。
「乃梨子……?」
 志摩子の呟きに、令は慌てるけれど、室内の二人には気付かれていない。
 由乃の手が乃梨子ちゃんに伸びた。そして、ベッドに引きずりこむ。
 思わず、志摩子の肩を掴む令。
「志摩子、落ち着いて」
 志摩子の耳に令の言葉は届かなかったらしい。
 クローゼットを開けて飛び出す志摩子。
「やめて由乃さん! 乃梨子に何をする気!」
「ちょっ、ちょっと、志摩子!」
 きょとんとした目でこちらを見ている由乃。そして乃梨子ちゃん。
「……どうして、そこから出てくるわけ?」
 由乃の問いに、志摩子は答えない。
「由乃さん、乃梨子を押し倒してどうするつもりだったの?」
「え? 押し倒す? 私が? 乃梨子ちゃんを?」
 きょとんとしていた由乃がさらにきょとん。
「乃梨子、もう大丈夫よ。安心して」
「あ、あの、志摩子さん、もしかして、勘違い……?」
 乃梨子ちゃんの言葉でようやく志摩子は落ち着き始めた。
「とにかく、みんな落ち着いて。状況を整理しよう」
 令は、全員を座るように促すと、自分もその場に座った。
 乃梨子ちゃんは、まだ気が立っているような志摩子の横に座る。
 由乃はベッドの上に座ったまま動く様子はない。
「よし。それじゃあ、まずはどこから話そうか」
「私たちのことが心配で、クローゼットに隠れて覗き見してた。それ以外のなんだというの?」
 冷たく由乃が言う。
「まあ、令ちゃんがこそこそ覗きに来ることは予想できなかったわけでもないんだけれど……」
 ひどい言われようだけれど、除いていたのは事実だから令は何も言えない。
 ここで由乃、大きくため息。
「まさか、志摩子さんまでとは」
「志摩子さん、私のこと心配してくれたんだ」
「だって、乃梨子のことが心配だったのよ」
 二人のやりとりに由乃は苦笑していた。
「ねえ、乃梨子ちゃん、私ってそんなに恐い?」
「いえ、恐いというわけではないんですけれど、予想がつかないと言うか」
 令は頷いた。
「うん。予想がつかないところは私のお姉さまそっくりだよ」
 ぽかん、と由乃の口が開く。
「……私、江利子さまとそっくりなの?」
「そうね。先代と現在の薔薇さまの中で、一番由乃さんが似ているのは江利子さまだと、私も思うわ」
「志摩子さんまでっ!」
 
 ショックに打ちひしがれる由乃を後に、三人は部屋を出た。
「えーと、もう、終わりと思っていいんですよね?」
「うん。そうだね、由乃ももう続ける気がないみたいだし」
「それじゃあ、私たちはこれで失礼します。乃梨子、一緒に帰りましょう?」
「うん。それじゃあ、黄薔薇さま、失礼します」
 志摩子は乃梨子と島津家を後にした。
「ところで志摩子さん」
「なあに? 乃梨子」
「志摩子さん、私が由乃さまに引っ張られたとき、何か勘違いしてなかった?」
「そ、それは」
 志摩子は自分の顔が赤くなるのを感じた。
 言われてみれば、どうしてそんな恥ずかしい勘違いをしてしまったのか。
「志摩子さんが勘違いするってことは、中にはああいう姉妹もいるのかなって思って」
 志摩子が努めて冷静に、乃梨子の言葉に応える言葉を頭の中で探していると、
「……」
 乃梨子は何か小さく素早く呟いた。
「え? 今、なんて言ったの? 乃梨子」
「なんでもないよ、志摩子さん。ねえ、時間が余っちゃったから、駅前でも行かない?」
「そうね。いい考えだわ」
 志摩子は微笑んで頷いた。
 手を繋いで歩き始める二人。
(私は、志摩子さんなら……)
 そんな言葉が、二人の間に流れたような気がしていた。
 
 
 
 
あとがき
 
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