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彼女の理由
 
 
 
「蔦子さんの好み?」
 突然過ぎたのか、祐巳さまは首をかしげる
「ええっと……うーん。そうだね…。蔦子さんの好みは、写真写りのいい娘かな」
 いや、そういう好みじゃなくて。
 笙子がそう訴えると、祐巳さまはわかったというように頷いた。
「ああ、そうか。今の蔦子さんの好みは笙子ちゃんだよ」
 うん。わかってはいましたけれど、そう面と向かって言われると照れてしまいます。
 いや、だからそうじゃなくて。
「あ、食べ物ね」
 当たり前です。
 なんで好みのタイプを聞かなきゃならないんですか。
「蔦子さんの好みのタイプに変身するつもりかと思って」
 変身する必要なんてありませんから。
「笙子ちゃん、凄い自信だね」
 だから、そういう話じゃないですってば。
「ゴメンゴメン。でも、言われてみると蔦子さんの好みってよくわからない。好き嫌いがあるって話は聞いたこと無いしむ。何でも食べていたと思うわよ。うん、ああ、ヴァレンタインね。うん、甘い物が嫌いっていうことはないよ。それは大丈夫。がんばってね、笙子ちゃん」
 
 
「知らない」
 由乃さまはあっさりと答える。
「蔦子さんだって女の子なんだから、甘い物は普通に好きだと思うわよ。少なくとも、甘い物が駄目なんて話は聞いたこと無いもの」
 うーん。あんまり由乃さまは役に立たない。
「何か言った? 笙子ちゃん」
 いえ。なんでもありません。
「あ、蔦子さんの好みのタイプなら一目瞭然よ」
 だから、そういうのはいいですって。
 あ、でも、せっかくですから、念のため…
「なによ。結局聞きたいんじゃない」
 由乃さまは勿体をつけている。
「蔦子さんは基本的に女子高生大好きよ。その辺りはとってもおじさん臭いは。聖さまとタメを張るでしょうね」
 聖さまって誰ですか。聞いたことあるような……。
 ああ、鳥居江利子さまと同期の白薔薇さま。
「私の前でおでこオバケの名前を出すなーーーー」
 ご、ごめんなさい。
 でも、おでこオバケって……今度お姉ちゃんに聞いてみよう。
「聞くなッ!」
 ごめんなさい。
 あの…蔦子さまの好みって…
「ああ、祐巳さんでしょ」
 あっさりととんでもない名前が。
 祐巳って。福沢祐巳さま? 紅薔薇のつぼみの。
「そっ。蔦子さん、みんなの写真を手当たり次第に撮りまくるけれど、祐巳さんだけはいつも別格扱いなのよね」
 ほほぉ。蔦子さまが、祐巳さまを……
 ほほぉ……
 やっぱり、可南子さんと瞳子さんをたらし込んで両手に花を目論んでいるという最強伝説福沢は本当なのかしら。
「ん? 笙子ちゃん、なんか恐い顔になってるわよ」
 いえ、何でもありません、ごきげんよう。
 
 
「さあ、よくわからないわね」
 志摩子さまは真剣に考えて下さっているようだった。
「あ、そうそう、嫌いなものなら一つ」
 なんですか?
「銀杏が苦手みたいなの」
 それは、貴方に較べれば、苦手な人だらけだと思います。
「志摩子さんを変わり者だとぬかすのはこの口かーーーーーーーーー!!!!!!」
 痛い痛い痛い痛い。乃梨子さん、ほっぺた引っ張らないで。
 痛い痛い痛い痛い。ごめんなさいごめんなさい。
 
 
「どうして私にそんな質問を?」
 だって可南子さん、一年生の中では一番沢山写真を撮られているじゃありませんか。蔦子さまに。
「え? そうなの? 身に覚えはないけれど」
 だって、普通に一年の写真でしょう? それから、祐巳さまの後ろでひっそりと写っている……
 痛い痛い痛い痛い痛い。可南子さん、バスケットボールぶつけないで。
 嫌、嫌、嫌、持ち上げないで。ああ、高い、高すぎて恐い。
 駄目駄目駄目、写真取らないで、ネガまで持っていかないで。
 
 
「普通にチョコレートでいいんじゃないかしら?」
「そうね。どうしても蔦子さんに合わせたいのなら、カメラの形にするとか」
「お姉さま。それは大きすぎるような気が」
「そうかしら?」
「…私が新聞大のチョコレート持ってきたらどうします?」
「……う、それは困るわ」
「そうでしょう?」
「あ、でもお姉さまなら喜びそうな気がする」
「ああ、三奈子さまなら…あり得ますね」
 そうか。そうですね。
 ありがとうございます、日出実さん、真美さま。
 
 
 カメラの形のチョコレート、はさすがに大きすぎるので、カメラの形のチョコケーキにすることにした。
 これなら、大きさもちょうどいいし、実はケーキには自信がある。
 
 
 
 そして、ヴァレンタイン当日。
 笙子は自宅食堂で思わず叫んだ。
 その叫びを目の当たりにした姉、克美は寝ぼけ眼で手にしていたフォークをポトリと落としたという。
 ちなみに、克美の前にはチョコケーキ。
 克美曰く、
「え? テーブルに置いてあるから朝御飯だと思って……」
「お姉ちゃんの馬鹿ーーーーーーーーー!!!!!!!」
 
 
 そうして、笙子のヴァレンタインはフィルムのプレゼントになったそうな。
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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