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サンドウィッチ
 
 
 
「ツナサンド」
「ハムサンド」
「カツサンド」
「マスタードタラモサンド」
「うわ、それ、誰かが言うと思った」
「フルーツサンド」
「あ、それいいな。でも、どっちかって言うとデザートっぽいよね」
「玉子サンド」
 と、そこで瞳子は首を傾げる。
「玉子サンドって、何を挟んでるのかしら?」
 はい? と由乃さま。
「なにって、玉子に決まってるじゃない」
 それ以外にいったい何があるというの? と言う顔。
「いや、それはそうなんですけれど」
「玉子って、厚焼き玉子よね?」
 乃梨子ちゃんの言葉に菜々ちゃんが首を捻った。
「炒り卵じゃないんですか?」
「ゆで卵のスライスとか」
「だったら、ゆで卵を潰したのでもいいよ」
 どうも、玉子サンドは奥が深いらしい。
「玉子は色々あるんですね」
「だったら、カツサンドだって」
 由乃さまが手を挙げて指折り数える。
「チキンカツ、トンカツ、ハムカツ、変わったところだとエビカツだって」
「普通はカツサンドと言えばトンカツではありませんか?」
「だったら、玉子サンドの普通は何なのよ」
「う…」
 何故か勝ち誇った顔の由乃さま。
「ほら、瞳子ちゃん。普通なんて、言った者勝ちなのよ」
「そうだね。フルーツサンドだって、色々ありすぎるからね。玉子サンドだけの話じゃないね」
 由乃さまの味方をする気配のお姉さまに、瞳子は「お姉さまの裏切り者〜」と心の中で呪詛してみる。
 
 薔薇の館で各種サンドウィッチの名前を挙げているのは、別にお腹が空いているわけではない。
 今日の由乃さまのお弁当はお手製のサンドイッチ。バラエティ豊かにいろんな具材が挟まっている。それを見た皆が、今度いろんなサンドウィッチを持ち寄って一緒にお昼を食べようと企画しているだけのこと。
 誰がどんなサンドウィッチを持ってくるか、の話し合いがいつの間にかいろいろなサンドウィッチ紹介談義になっていたのだ。
「問題は、食べる私たち。だから、美味しければ何の問題もないの」
 いつものようににこにことうなずいている志摩子さまが、我が意を得たりと言わんばかりに声を上げた。
「そうね。美味しければいいの」
 さすがに銀杏サンドはないですよね、と瞳子は考える。
 いや、白薔薇さまの事だからそれくらいは作ってしまうかも知れない。でも、志摩子さまが作るなら逆に安心だ。きっと美味しいものなのだろうから。
「そうですよね」
 乃梨子さんは志摩子さまの言うことならなんでも賛成する。多分、「明日からリリアン征服を開始するわよ乃梨子」と言っても「ハイルトードー!」とか言って賛成するに違いない。
 瞳子は心からそう信じている。
「うん、美味しければ何の問題もないか」
 由乃さまは自分の前のサンドウィッチにひょいパクッと齧りつく。
「美味しい。さすが令ちゃん」
「え、由乃さん。それ、令さまが作ったの?」
「作ったというか、もらったというか……」
 朝出がけに、今日持ってくるはずの本を令さまに貸していたことに気付いた由乃さまは、勝手知ったる隣家へ本を取りに行った。すると、令さまがサンドウィッチを作っていたのだという。
「何人分か作ってたから、余っていたらちょうだいって言ったら、一人前くれたのよ」
 令さまのことだから、何とか一人前をひねり出したのではないかという気もする。
「うーん。由乃さんにしてはおとなしい入手方法だね」
「……祐巳さん? どういう意味かな?」
「……令さまから強奪したとか」
「しないしない」
 いくらなんでも令ちゃんが卒業してから無茶はしてないわよ。という由乃さまに、菜々ちゃんが溜息をついた。
「在校中はしてたんですね……」
「まだ入学する前の話なんだから菜々は気にしなくていいの」
「はぁ…」
 確かに。最近の由乃さまはかなり変わったと瞳子も思う。
 落ち着いたというか、大人びたというか。
 知らない人なら騙されるに違いない。と言ったら本人に怒られるので、瞳子は何も言わないけれど。
 考えている内に乃梨子さんがお茶の支度へ動いたのに気付き、瞳子も一緒に動き出す。少し遅れて菜々ちゃんも。
 菜々ちゃんがいるとはいえ、つぼみという意味では三人とも同じ立場。それに、お姉さまにお茶を煎れる権利は例え親友でも譲れない。
 
 お茶を煎れてふと気付くと、自然と三色の姉妹に別れて座っていた。 
 とりとめのない、校内の噂話やクラスの様子を話している内に瞳子は気付いた。
 お姉さまの視線が時々、菜々ちゃんの方へ向けられているのだ。
 一年生を見ている。ということは、やっぱり自分の妹のことを考えているのだろうか、瞳子は思う。
 今のところ、候補どころか妹のことは考えていない。しかし、早く決めた方がいいという意識はある。紅薔薇は、二期連続で決定が遅かったのだ。三期連続で夏休み以降というのは避けた方がいいかな、と考える。だけどその一方、そんな周りを気にした判断で決めてしまっていいのかという疑問もあるのだ。
「つぼみの妹は、やっぱり早く決めた方がいいんですか?」
 いきなりの問いにお姉さまは驚いて、そして瞳子の目をじっと見ると、ふと微笑んだ。
「瞳子がいいと決めた子がいるなら、私は早く会いたいな。だけど、無理に決めることはないと思う。私が会いたいのは、紅薔薇のつぼみの妹じゃなくて、松平瞳子の妹だよ」
 何も言えず、瞳子はうなずいた。
「妹ができたら、サンドウィッチだからね、瞳子は」
「え?」
「私がパンで、一年生もパンで、瞳子が間に挟まれるの」
「そ、それは」
 挟まれると言い切られると苦笑するしかない。
 ああ、お姉さまだって祥子さまと自分の間で……。そう思うと申し訳なさと恥ずかしさが押し寄せてくる。
「こうやってね」
 立ち上がり、瞳子の横に並ぶお姉さま。
「間に入れて、挟むの」
 ぎゅっと瞳子を抱きしめる。間に一年生が入っているつもりなのか、結構な力で瞳子を引き寄せている。
「お姉さま」
 驚いた瞳子だけれども、強い抵抗はせずになすがまま。
「あ、逃げないんだ」
 笑う乃梨子。
「乃梨子さん、何観察してるんですか」
「面白い話だなあと思って」
「乃梨子さんだって、妹ができれば志摩子さまと一年生の間に挟まれるんですからね」
「志摩子さんに挟まれるなら、私は本望だよ?」
「あ、言いましたね。だったら、私だって、お姉さまに挟まれて、そのうえ私が選びに選び抜いた妹に挟まれるんですから当然本望ですっ」
「そうなんだ? どんな妹選ぶんだろ」
「乃梨子さんこそ、実の妹なんて選びませんよね」
「どうして友梨子が出て来るのよ」
 
 そのやりとりを菜々はじっと見ている。
「……菜々?」
「なんですか、お姉さま」
「貴方も、挟まれてみたかった?」
 菜々はサンドウィッチを一つ手に取ると、パンを一枚剥がしてしまう。
「私は、オープンサンドが好きなんです」
 ん、と由乃はうなずいた。
「私も、三年生になってから好きになったの。どうしてだろ」
「さあ?」
 
 サンドウィッチを持ち寄る当日、何故か黄薔薇姉妹だけはオープンサンドを用意してきたのでした。
 
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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