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ブーケトス
 
 
 なのはとユーノの結婚が決まったという知らせは、元六課メンバーの間を瞬時に駆けめぐった。
 素直に祝福する者。これはスバルやティアナをはじめとする元六課メンバー。
 二人の関係を知らずに驚く者。これは元ナンバーズや、こういう事には疎いグリフィスたちである。
 そして、何故か臨戦態勢を取る者。
 ちなみに三番目のグループは、はやてを筆頭にヴォルケンリッター全員(リイン、アギト含む)とクロノである。
 
「ええな、皆わかってるな。注意する相手はただ一人」
「わかってるよ、はやて。なのはは絶対あたしが守ってやる」
「いや、この場合高町の身に危険はないだろう。あるとすればスクライア……か」
「……認めたくはないが、そうなるだろうな」
 クロノの悲痛な口調に、はやてもつい表情を曇らせる。
「クロノ君、ここまで来て何やけど、やっぱりフェイトちゃん……」
「兄である僕が断言する。フェイトはまだ、なのはを諦めていない!」
「くっ……。テスタロッサ、私というものがありながら……」
「ん。なんか言うたか、シグナム」
「い、いえ、なんでもありません、主はやて」
 はやては一同を見渡す。
「私も、幼なじみの親友が前科者になるのは見てられへん」
 よく考えると、フェイトもはやても前科者のようなものだったりする。恐るべし、時空管理局。
「フェイトちゃんは、結婚式までに必ずユーノ君を狙ってくるはずや。皆、気を抜かんように! フェイトちゃんは本気で強いで。近距離限定やったら、六課ではシグナムとツートップやったからな」
「ところで主。そのテスタロッサの現在位置はわかっているのですか? 私とシャマルが見張っていれば、そう簡単には動けないと思うのですが」
「それが、なのはちゃんの結婚発表の瞬間から行方不明なんや。ミッドどころか、海鳴にも顔出してへんみたいや。そやから、ザフィーラはユーノ君のボディガード頼むわ。ヴィヴィオも久しぶりで会いたがっとるみたいやし」
「わかりました」
「シャマルはご苦労やけど、広域探査続けてな。なんやったらリインとユニゾンしてもええし。ヴィータは私と一緒になのはちゃんのところ。シグナムはアギトと一緒におって、すぐユニゾンできる準備な」
「はい」
「はいですぅ」
「おう」
「承知しました」
「任せとけって」
 
 
 その夜、スバルやキャロ、ウェンディたちと結婚式後の二次会の手配をすませたティアナは帰途についていた。
(スバルやキャロはわかるけれど、ウェンディがあんなに喜んでいるとは知らなかったわ……)
「是非お祝いしたいっス。なのはさんには、いろいろとお世話になってますから」
「あ、私も、手伝いたい」
「ディエチも?」
「私も、なのはさんにはお世話になっているから」
 うなずくウェンディ。
「いまや、なのはさんはディエチの砲撃の師匠ッスからねぇ」
「あ、そうなんだ」
 恥ずかしそうにうなずくディエチ。
「いや、砲撃の師匠はいいとして、なんで頬を赤らめてるのよ」
「なのはさんの砲撃を受けたことあります?」
「あーーー。一応」
 ティアナにとっては思い出したくないトラウマものの過去である。
「あの砲撃、いいですよね」
「は?」
「なのはさんの魔力光に身体中が包まれて……なんか身体の奥からキュンってなって、まんべんなくダメージを与えられると今度は身体の奥がジュンって……」
「ごめん、わかんない。というか、わかりたくない」
 ティアナはそこまでのやりとりを思い出して慌てて首を振る。
 ディエチはそのままどこか遠くへ逝ってしまったのだ。
 とにかく、魔力ダメージをそんな風に感じるなんて普通ではない。よほどなのはさんに心底惚れ込んでいるのか、それとも洗脳されたか。
 少なくとも自分はそんなこと考えたことはない。上司として、魔道士としては当然尊敬しているがそれだけなのだ。ダメージを受けて恍惚とするなどあり得ない。
 まあ、同じディバインバスターでもスバルのバスターなら……。って、違う違う。
 慌ててティアナは妄想を打ち払った。
 セカンドバックから家の鍵を取り出したところで、とっさに振り向く。同時に起動させたデバイス、クロスミラージュを構え小さな声で、しかし鋭く誰何した。
「誰? 出てきなさい」
 返事はない。しかしティアナは自分の勘を信用していた。どこにいるかまではわからない。しかし確かに誰かがいる。
 クロスミラージュを構えたまま、油断なく四方に目を配る。
「完璧に気配を隠したつもりだったけれど……腕を上げたみたいだね」
 柱の影から姿を見せたのは間違いなく…
「フェイトさん?」
「久しぶりだね、ティアナ」
「どうしたんですか、いきなり」
「うん。ちょっとお願いがあってね」
「お願い、ですか」
「そう。ティアナの力を借りたいんだ」
 ティアナははやてからの連絡内容を思い出していた。フェイトを見つけたらすぐに連絡するようにと言われているのだ。
 しかし、この状況では密かに連絡することなどできない。念話でスバルに連絡、そこから余所に伝えてもらうこともできるだろうが、相手はフェイトだ。念話を使った瞬間に察知されるだろう。
「あの、とりあえず中に入りませんか? 詳しい話も聞かないと」
「ありがとう。だけど、その前に一つ言い忘れた事があるんだ」
「なん…」
 です、と聞こうとしてティアナは凍り付いた。いつの間にか、バルディッシュアサルト・ハーケンフォームがのど元に突きつけられている。
 ティアナは全く気づかなかったというのにだ。これが、フェイトの本気の早さなのか。
「詳しい話を聞こうと聞くまいと、ティアナに選択権はないんだよ。引き受けるしか、ないんだよ」
 
 
 結婚式当日まで、はやては拍子抜けの気分を味わっていた。
 行方不明だったフェイトがティアナの元へ現れたと聞いたときは、事件になると思った。しかし、結局フェイトの依頼は意外ではあったものの理解できる範囲だったのだ。
 ティアナにしても、「最初は驚いたけれど、フェイトさんの意外な一面を見られて面白い」とコメントしている。
「なのはの投げたブーケが欲しい。ブーケを取った人は次に結婚できるって聞いたから」
 それがフェイトの願いなのだ。
 たしかに、あまりにも普通の願いだった。
 シグナムに至っては、
「待ってください。ということは、テスタロッサには心に決めた相手がいて、その者と早く結ばれたいがためにブーケを欲しがっているというのですか」
 と、はやてに食ってかかりかねない勢いだったという。
 もっとも、ブーケを狙っているのはフェイトだけではない。
 花嫁のブーケを手にした者は次に結婚することができる。そのジンクスを狙う者はたくさんいる。
 はやて自身もその一人だ。ブーケを手にしたという既成事実を持ってゲンヤナカジマの元へ突撃する予定である。
 そしてアルフ、ギンガ、カリム、アルト、シャーリィ、キャロ、ルーテシア、シャマル。さらにはノーヴェやディエチ、ディードまで。
 ブーケの争奪戦は相当なものになると予想されている。
 しかし、フェイトにはティアナが着いている。幻術使いである。物品の争奪戦において、幻術使いが攪乱に出た場合はどうなるか、答えは言わずとも明らかだろう。
 触らない限り、本物のブーケはわからないのだ。そして、そこに現実のブーケがあると知っている人間はどれほど有利になるのか。
 さらに、フェイトは高速機動のプロフェッショナルである。他のメンバーに勝ち目があろうはずもなかった。
 辛うじて拮抗できる実力の持ち主……シグナムはブーケに興味などない。トーレとセッテはこの場にはいない。
 そして案の定、ブーケを手にしたのはフェイトだった。
「あー、フェイトさん、卑怯ですよぉ」
 キャロの半べその声にも、フェイトはたじろがない。
「ごめんね、キャロ。こればかりは譲れないから」
 そして、辺りを見回す。
「だけど、こんなにライバルがいたとは思わなかったよ。念のためティアナに協力してもらって正解だったね」
 負けた女性陣は、苦笑しながらお互いを見やる。
「それじゃあ、伝統に従って……」
 え? と一同はフェイトを見た。
 ブーケの伝統って、この場で何とかなるものだっけ?
 一同の前で、何故か真ソニックフォームになるフェイト。
「さあ、ユーノ、覚悟して」
「え? フェ、フェイト?」
 ここまで笑って騒動を眺めていたユーノだが、雲行きの怪しさに慌てて尋ねる。
「覚悟って何さ」
「貴方を倒して、私がなのはと次に結婚する!」
 
 ブーケを取った者は、投げた花嫁「の」次に結婚することができる。
 ブーケを取った者は、投げた花嫁「と」次に結婚することができる。
 
「うーん。日本語って、難しいんやなぁ」
「はやてちゃん、そんな暢気でいいの?」
「あー。この場やったら、なのはちゃんもおるし、フェイトちゃんも、なのはちゃんに頭冷やしてもろたほうが幸せやろ」
 
 リミットを外した砲撃に晒されるフェイトと、それを羨ましげに見ているディエチ。
 テスタロッサ……と呟きながら涙目でそれを見ている烈火の将。
 なんか嬉しそうに砲撃に参加しているヴィヴィオ。
 
 デタラメの波乱のすえ、結婚式は終わりを告げるのだった。
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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