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魔法少女リリカルなのはEaterS
「おにぎり」
 
 
 
「たまには、おにぎりも食べたいね」
 六課の食堂でいつものように大盛りパスタを平らげながら呟いた、スバルのその言葉が始まりだった。
「おにぎり……ですか?」
 始めて聞いた言葉に、エリオが首を傾げる。
「キャロは知ってる?」
 キャロも同じく首を振った。
 知らないの? と言いながら、スバルはティアナに話を振った。
「ティアは知ってるよね?」
「アンタが前に見せたじゃない。あの、黒くて妙なモノが巻いてある、ボールみたいな奴でしょう?」
 黒くて妙なモノ?
 ボール?
 エリオとキャロは顔を見合わせる。
 ……食べ物の話じゃなかったっけ?
「ひどいなぁ、あれは海苔を巻いてただけだよ」
 ……海苔?
 聞いたことあるようなないような。
「とっても美味しいのに」
「食べたことないものをいくら美味しいって言われてもね…」
「じゃあ、今度作ってもらうから」
 しかし、六課の食堂にはそもそも米がない。
 理由は単純。「需要がない」
 不思議な話だった。六課にはおにぎり世界(命名スバル)の出身者も少なくないというのに。
 というか、部隊長がそもそもおにぎり世界からやってきた人である。
 そしてなのはさんと、出身ではないものの、実家がおにぎり世界にあるフェイト執務官。
 さらには、一時期おにぎり世界に住んでいたというシグナム副隊長、ヴィータ副隊長、シャマル先生。
 隊長格のおにぎり世界率はただごとではない。これで食堂におにぎりがないのは理不尽と言えよう。
 とはいっても、米があればおにぎりは作れる。元々手軽なモノだ。
 そこでスバルは父親に連絡した。実家には米があるはずだ。
「すまん。ギンガが最後の一粒まで余すことなく食い尽くした」
 スバルは速攻で電話を切った。使えないオヤヂめ、と呟きながら。
 そこで、おにぎり世界出身者達に当たってみることにする。おにぎり世界の出身なのだから、米の一升や二升くらいは備蓄しているに違いない。
 ところが、よくよく考えてみると、おにぎり世界から来たのは皆上役なのだ。まさか「米寄こせ」と言うわけにはいかない。「打ち壊し・米騒動」など以ての外である。いくらスバルでもそれくらいはわかる。
「そういうときは搦め手を使うのよ」
 ティアナがニヤリと笑った。
「エリオに一肌脱いで貰いましょう」
「え? 僕ですか?」
「今度、こういう風にフェイトさんに言うのよ……」
 
 
「フェイトさんの作ったおにぎりが食べたい」
 エリオがそう言った翌日には、フェイトが米俵を背負って食堂に現れた。
 あんたどんだけエリオ可愛がるんだよ、と突っ込みたいのを堪える一同。キャロが少し黒化して「食べ物でエリオ君を釣るなんて…」と呟いているが、それは無視。
 妙なモノを背負って現れたフェイトに、JS事件終了後で暇を持て余している課員が集まってきていた。
「おにぎりを作ります」
 しかし、いわゆる炊飯器などは当然のようにない。
 鍋で炊けばいいのだけど、経験がない者にとっては火加減がわからない。
「大丈夫。管理外世界にいた頃、現地の中学校で飯盒炊爨をしたことがある」
「……フェイトちゃん、その日は私たち二人ともお休みして任務に……」
「大丈夫。アリサとすずかにちゃんと当日の様子を聞き出したから。なのはは黙ってて」
「フェイトちゃん、なんやったら、家から炊飯器取って来よか?」
「ごめん。はやても黙ってて。これは私の戦いだから」
「戦い!?」
 なんでそこまで拘るのか。
 訳がわからない、という顔のはやてをよそに、シグナムは感極まったように立ち上がっていた。
「そうか、テスタロッサ、それがお前の、戦士としての誇りということか……」
「……シグナム、何をどう理解したんや?」
「ならばこの私が協力しよう!」
「…フェイトちゃん絡みやったら、何でもええんやな……」
 既にあきらめ顔のはやて。そして頷くフェイト。
「ありがとうシグナム、貴方のその火力が必要なんだ」
「盛り上がってるとこ悪いけどフェイトちゃん、ヴォルケンリッターをコンロみたいに言わんといてんか」
「ヴォルケンリッターをコンロなんて思ってないよ。コンロはレヴァンティンだから」
「待たんかい」
「うむ。任せて貰おう。ヴォルケンリッター、烈火の将の名にかけて」
「かけるんかいっ!」
 はやてのツッコミも虚しく、準備は着々と進められていく。
 巨大鍋に大量にぶち込まれた水と白米。
「えーと、研がんでええの?」
「あ、それくらいならできますから、あたしも手伝います。その代わりおにぎり下さいね?」
 駆け寄るスバル。
「それじゃあ行きます」
 リボルバーナックルの手首部分、ナックルスピナーが高速回転を始める。
「あ、あの、スバル……?」
「大丈夫です、八神部隊長。ギン姉もこれでお米研いでました」
「タイプゼロの力でご飯炊いとったんかいっ!」
 今明かされるナカジマ家の秘密。
 一方では、シグナムがレヴァンティン火力調整の準備中だった。
「……始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな……テスタロッサ、赤子とは一体?」
「恐らく、赤い子です」
「つまり、ヴィータか」
 ジュースを飲みつつ騒ぎを見守っていたヴィータが叫ぶ。
「なんでだよ! あたしが泣くわけーだろっ!!!」
「泣かせればいい……なの」
「ちょ……なのはっ! なんでお前がっ!! や、やめろ、うわっ、その顔、その顔は!! 悪魔! 悪魔!」
「悪魔でいいよ。悪魔のやり方でご飯を炊くだけだから……」
 ヴィータの悲鳴を耳にして、はやてはぼんやりと考えていた。
 本当に、食べられるおにぎりが出来るんやろか……?
 
 ヴィータの貴い犠牲で、ご飯は見事に炊けた。因みに全員野外に移動している。
「結構、何とかなるもんやね」
 呆れ半分感心半分のはやて。
「じゃあ、おにぎり作ろう」
 フェイトが袖を捲る。
「あのー、私たちも少し分けてもらえると嬉しいかなあって…」
 おずおずと切り出したスバルに、首を傾げるフェイト。
「……そうね。流石にこれだけの量はエリオ一人じゃ食べきれないし」
 いっそ、いつの間にか集まっている皆で食べようと。
 JS事件が解決してからは、ハッキリ言って皆が暇なのだ。
「でも、そうするとフェイトちゃん一人で作るのは大変だよ」
 言いながら、なのはも袖を捲り上げる。
「私だって、おにぎりくらいなら」
「……料理と名の付くものなら、はやてちゃんが一番上手に決まってます!」
 シャマルの強い推薦で引きずり出されるはやて。
「うーん。ま、ええか。出身世界の料理を知ってもらうんも、楽しいしな。せっかくの炊きたてご飯やし」
 妙に盛り上がり始める一同。
「当然、部隊長でしょ。シャマル先生のお墨付きだよ?」
「いやいや、高町教官の実家は食い物屋らしいからなぁ?」
「自分で持ってきたんだから、執務官だって相当な自信だと思うぞ?」
「よぉし、賭けるか?」
「賭けますか?」
 誰のおにぎりが一番美味しいか、議論が始まっている。
 はやて、なのは、フェイトがおにぎりを作っているテーブルの前に並び始める一同。
 
「スバル、アンタどうするの? やっぱり、なのはさんのおにぎり狙い?」
「全部食べるよ?」
「あ、そ」
 
「エリオ君は、どうするの?」
「うん。やっぱり、フェイトさんのおにぎりかな」
「やっぱりそうかぁ」
 キャロは、それなりに手際よく握っている三人のほうをじっと見ている。
「おにぎりって、ああやって作るんだね」
「うん。始めて見たよ」
「手で直接握るんだ……」
「そうだね」
「汗とか、手の汚れとか付いちゃうんじゃないかなぁ?」
「うーん。でも、そもそもそういう料理らしいし…」
 そんなものかなぁ、と首を傾げるキャロ。その背後から聞こえる、男性課員達の話声。
「考えてみれば、このおにぎりって、なんかいいな」
「単純な料理じゃないか」
「おまえ、よく考えろよ。あの教導官が、執務官が、部隊長が…六課どころか管理局でも五本の指に入る三大美女が素手で握りしめたモノをそのまま食うんだぞ! あの三人の汗とか、手の汚れとか、一切合切俺の口の中にっ!! あああっ、辛抱たまらん!」
「変態がいる……」
 そこまで聞こえたところで、再びキャロはエリオを見た。
「……エリオ君、フェイトさんのおにぎりがいいの?」
「そうだけど?」
「……………ふーん…………………変態」
「え? キャロ、何か言った?」
「ううん、なんでもない」
 少しの沈黙の後、
「私もおにぎり作る」
「ええっ?」
 
 はやてに負けるのは仕方ない、となのはは思った。向こうはある意味主婦だ。ご飯のプロだ。夜天の王だ。「おにぎりの作り方」くらいはどこかで蒐集しているかもしれない。
 おにぎり希望列ははやて前がトップ、そしてフェイト前、大きく開いてなのは前の順だ。
 ちなみになのは列の先頭に立っているのは嬉しそうにワクテカしているスバル。その後でつまらなそうに立っているのはティアナだ。そして「つき合いだからなっ」と誰に怒っているのかわからないヴィータ。これでは身内票と言われても仕方ない。
 ちなみに影になっていて見えないが、ヴィータの後にはフェレットがいたりする。
 最下位だけど、見方を変えれば三位なの……と自分を慰めていると、突然発生する第四の列。
「なんなの?」
 フェイトとはやても驚いて列の先頭を見た。
 必死になっておにぎりを握っているのはキャロだった。
「うんしょ……熱っ……うううう、熱いよ……でも、頑張るよ、エリオ君……」
 必死の姿に、ガンバレとの声援までが。
 因みにキャロの列に並んでいるのは、普段から色々と疑惑の目に晒されている男性独身課員一同だったりする。
「リイン、あそこに並んでる連中、チェックしといてな。叩けば埃が出る連中やろ」
「はい……あの、はやてちゃん?」
「なんや?」
「全員です?」
「勿論やん」
「ザフィーラさんもいるです」
「………そか……ヴィヴィオのお守り、えらい熱心やと思とったけど。そーいうことかいな…」
「リィンも気を付けるです」
 
 なのはは焦っていた。第三位ではない、最下位である。キャロにも負けてしまうのか。
 こうなったら、奥の手しかない。全力全開、悪魔と言われても勝つ。エースofエースの名にかけて。
 自分があがれないのなら、相手を引きずり落とす。
 しかし、はやては無理。あのタヌキコダヌキに策略で勝てるとは思えない。
 かといって、キャロを引きずり落とせば、自分が悪者にされるだろう。
 ……ごめんね、フェイトちゃん。
 なのはは周りの様子を確かめると、まるで今し方気付いたばかりだというように目を丸くして、声を上げる。
「あれ? フェイトちゃん、さっきシグナムさんがご飯を炊いているとき席を外したよね?」
「え? 外したけれど……あれはなのはも一緒に…」
「あ、そうか。トイレに行ってたんだよね」
 にゃはははは、と笑い、そしてトドメ。
「そう言えばフェイトちゃん、手を洗い忘れてるよ?」
 勝った。となのはは確信した。食べ物である。しかもおにぎりである。手を洗っていないのは致命的。
これでフェイト前の列も……
 
 ……って、列が伸びたーーーーーーーーーーーーー!!!
 
「シグナム、どこ行くんや!」
「テスタロッサの列に並ぶのです!」
「なんやてーーーーー!」
 
 まさかこんなことになるなんて。
 なのははさらに焦った。
 どこに行くか迷っていたメンバーまでがフェイト前に並んでいる。ここまで六課が歪んでいたなんて……
 こうなったらキャロを引きずり落とすしかない。いや、それはまずい。
 だから、キャロの真似をする。
 キャロの幼女パワーを真似すればいいのだ。
「おにぎりにこれを付けるの」
 なのはの取りだした物にざわつく一同。
「ユーノ君秘蔵の隠し撮り写真、高町なのは九歳!」
 笑い出すフェイト。
「そのくらいならこっちにも! 義兄さん秘蔵の隠し撮り写真、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン九歳!」
「負けへんっ! グレアムおじさん秘蔵の隠し撮り写真、八神はやて九歳! あと、ザフィーラ秘蔵の隠し撮り写真、主九歳や!」
 3人娘の育ってきた環境は最悪だったらしい。あと、撮ってたのか、守護獣。
 
 結果。
 キャロ>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>>>その他
 
 なんのことはない。六課の大多数である女性陣の総スカンを食らってしまっては、勝てるわけがないのだ。
 結局女性票のほとんどが健気におにぎりを作るキャロに集まり、挙げ句の果てには皆でキャロを手伝い始めて、非常に微笑ましい風景が繰り広げられていたのだ。
 その一方で醜い争いが続いたことは言うまでもない。
 
「フェイトちゃんの手にはアルハザード経由の謎の病原菌が!」
「なのはの血塗られた手で握ったおにぎりなんてっ!」
「ヴィータ、シグナム、ええから二人のおひつ壊してまえ!」
 その争いをよそに……
 キャロの作ったおにぎりを頬張るエリオ。
「おにぎりって、美味しいね」
「いっぱいあるからね」
 スバルもニコニコと、そしてバクバクと頬張っている。
「アンタは少し空気読みなさい」
 ティアナに引きずられてどこかに連れて行かれるスバル。後に残ったのはキャロとエリオだけ。
「エリオ君が食べてくれるなら、私、また頑張るから。食べたいものがあったら言ってね」
 二人は平和だった。
 
 
 
 
 
     (オマケ)
 
「鯨肉って食べてみたいな」 
 再びのスバルの甘言に乗せられ、そう口走ってしまうエリオ。
 しかし、エリオのために捕鯨船に乗り組んだフェイトが怪我を負ってしまう。
 責任を感じ、ストラーダを銛に持ち替えて旅立つエリオ。
 しかし、鯨を追うエリオの前に立ちはだかるのは……
「鯨は賢いのよ!」
 鯨を守るためならテロも辞さない自称自然保護団体と、その尖兵となったキャロだった!
 怪しい液体の入った瓶を抱えたキャロの前に、エリオの捕鯨船はどうなるのか。
 
 次回、魔法少女リリカルなのはEaterS「鯨は貴重な蛋白源なの」
 魔法少女、よく食べます。
 
 (いや嘘だからw)  
   
 
 
あとがき
 
 
 
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