大空の死闘!
ソニックフォームvsライドインパルス
古来、自由に空を飛ぶのは人類共通の憧れでもあった。それは次元世界の中心地とも言えるここ、ミッドチルダでも例外ではない。
美貌と実力を兼ね備えた魔道師の一人、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンもまた、空駆ける戦女神として人々の尊敬と憧憬を一心に受けている。
例えばミッドチルダで発行されている大衆週刊誌を数冊選び、巻頭特集を覗いてみよう。
〈管理局、美人魔道師大特集〉
〈この夏、空駆ける貴方に彼氏も夢中?〉
〈初歩から始める飛行魔法〉
〈魔道師だって恋したい!〉
〈ちっちゃい上司に蹴られ隊〉
〈気になるあの人に念話でアタック!〉
〈空戦魔道師のスカート覗きマル秘スポット〉
〈本誌独占取材! 私はスカリエッティの秘書だった!〉
〈スクープ! 無限書庫の闇を追え〉
〈タヌキ、悪魔、露出狂、貴方はどのタイプ?〉
中には妙なものもあるが、グラビア系にすら特集があるのだ。
大空を自在に駆ける魔道師は、 人々の憧れの的なのだ。
「空を飛ぶのは大変だよ」
「わかっています、それでも、私は飛びたいんです」
私ことティアナ・ランスターは、六課解散後に久しぶりに会った二人の上司に誘われて、お茶を飲んでいた。
「痛いよ?」
「特訓は平気です」
「ううん。そうじゃなくて。飛ぶ事自体が痛いの」
「え?」
意味がわからない。
「痛いんだよ」
「あ、わかる。痛いよね、結構」
なのはさんも雑談に参加した。
「えっと、なのはさん、痛いって?」
「飛んでいるとね、空には結構障害物があるんだよ」
「避けて飛んでますよね?」
「建物とか、大きいものならね」
「え」
それ以外にどんな障害物があるのかと。
「鳥とか、結構ぶつかるんだよ」
「避けないんですか?」
「スピードが全然違うからね。ぶつかるというか巻き込むというか」
そういえば、航空機が鳥にぶつかるという話は聞いた事がある。空戦魔道師にも同じ悩みがあるのだろう。
しかし、航空機と鳥ならば、質量比を考えれば大したことにはならないと思える。人間と鳥では、質量比を考えると結構なダメージではないだろうか。
「一応、バリアジャケットもあるし、致命的な衝突にはならないんだけどね。まったく無痛というわけでもないから」
「大変ですね。そんなのは考えた事もありませんでした」
「ただ、もう少し上手くやらないと、歯の寿命が縮むような気がして。あと、場所によっては手間が大変だね」
「あー、やっぱりフェイトちゃんもそう思う?」
「なのはもなんだ」
突然意気投合する二人。私はやっぱり訳がわからない。
「アルトセイムのほうに行くと、小骨が多いんだ」
「工業地帯の近くはちょっと苦くて身体に悪そうだし」
「あのお二人ともごめんなさい、何の話ですか?」
「空を飛ぶ話だよ」
「鳥がぶつかってくるから」
「よくわかりません」
「食べるの」
「は?」
「貴重なタンパク源だからね」
「こう、口を開けて飛んで……」
「口の中に入ってくる鳥をがぶりと」
「はぁあああああ?!」
「慣れるまでは大変だったよ……」
遠い目のなのはさん。って、食べてるんですか、なのはさんも。
「うちは、母さんがあまりご飯をくれなかったから、本気で貴重なタンパク源だったよ」
どこか病んだ遠い目のフェイトさん。
食べてるんだ……二人とも、食べてるんだ……
そこへ、聞き覚えのある声が。
「偶然ッスね」
そこにはウェンディをはじめとするナカジマ家の元ナンバーズ組が。どうやら本部に出頭した帰りらしい。
「話は聞かせてもらったが、やはり空戦は皆苦労しているのだな」
チンクがしみじみと
「うちでも、当時はトーレが苦労していたな」
フェイトさんは、興味ありげに目を向けた。それはそうだろう。トーレと言えば、フェイトさんと直接死闘を繰り広げた相手である。
「トーレもやっぱり食べてたの」
「無論だ。空戦戦闘機人としては当然の礼儀だな」
当然の礼儀らしい。
鳥喰いが。
私は初めて、空を飛びたいという自分の気持ちに懐疑心を抱いた。というか、鳥食いは必須なんだろうか。嫌だな、それは。
「トーレは本当に苦労していた、なんと言っても、あいつは鳥が嫌いだったからな。生など論外だった」
「それは……空戦としては致命的な欠陥だね」
それが!? 鳥が嫌いなのが致命的って、空戦って一体……
「しかし、トーレはもう少しでそれを克服するところだったのだ。残念ながら、克服前に六課との本格的な戦いが始まってしまったのだが」
「どうやって、克服するつもりだったの?」
「ふっ……本来なら敵に話す事ではないのだが、もはやお前たちは敵でもないしな。いいだろう」
チンクは、一歩前に出る。姉の武勇伝を話すのがとても嬉しそうだ。
「トーレのIS、ライドインパルスは知っているな」
「知ってるよ。全身の加速機能と、四肢に発生するインパルスブレードによって可能となる超高速機動」
「そう。しかしトーレとドクターは、そこからさらに一段階上のISを準備していたのだ」
「一段階上?」
確か、ライドインパルスでフェイトさんの真ソニックフォームとは互角だったはず。つまり、ライドインパルスを越えるという事は真ソニックフォームを越えるという事でもあるのだ。
「興味有るね、チンク。それはどんなものだったの?」
フェイトさんの言葉には妙な迫力があった。
ライドインパルスの弱点、それはやはり空戦の弱点でもあった。
飛んでくる鳥の処理である。鶏肉を好まないトーレにとって、
それは致命的とも言える弱点だった。
しかしある日、夕食の席でディエチが気付いたのだ。
トーレが美味しそうに食べているのは…………フライドチキン!
「トーレ、それ、鶏肉だよ」
「なん……だと……」
自らが口に運んでいたものの正体に愕然とするトーレ。
「鶏肉がこれほどジューシーで旨いというのか……」
「わかった。トーレが食べているのはフライドチキンだから。空で食べているのは料理していないものだから」
「そうか……料理によってこれほど味が変わるというのか……なるほど」
そしてトーレは知ったのだ、苦手な鶏肉であろうと料理の仕方によって美味しく生まれ変わるのだと。
トーレにとってそれが「唐揚げ」なのだとっ!
トーレ・ミーツ・フライドチキン。それこそがトーレのライドインパルスの最大の力を発揮させるもの!
空中で激突する鳥が全てフライドチキンならば、トーレはなんの憂いもなく空戦機動を全開にできるのだ!
それが、トーレの真のライドインパルス!
名付けて、「フライドインパルス」 トーレ進行方向に力場を展開、近づく鳥を全てフライドチキンとして調理する!
そこまで聞いて、あたしは頭痛を覚えた。
ナンバーズって一体……
フェイトさんも呆れているんじゃないだろうかと思っていると……
「フライド……インパルス……」
なんで愕然としてますか? 真面目な顔で。
「そんな発展強化計画があったなんて」
なのはさんまで。
「危ないところだった。フライドインパルスが完成していれば、私はトーレに勝てなかったかも知れない……」
「勝負は時の運。我々に運がなかった、それだけの事だ」
チンク、何まとめようとしてますか?
かなりどうでも良くなってきたのだけれど。
なのはさんフェイトさん、ナンバーズは真面目の顔のままだ。
「大丈夫だよ、フェイトちゃんにだって、新しいフォームがあったじゃない」
「なんだって!?」
チンクが叫んでいた。
「トーレのフライドインパルスを越えるフォームがあるというのか!」
「あるよ。フェイトちゃんの隠しフォームが」
「しかし、フライドインパルスを越えるなどと!」
「フライドインパルスには大きな弱点がある!」
「……なん……だと……わずかこれだけでもう弱点を見つけたというのか!」
「ふふふふ。たしかにフライドインパルスは凄い。さすがトーレ、さすがドクターだと思う。だけど、肝心な事を忘れているわ」
とっても嬉しそうななのはさんと、悔しそうなチンク。
別にイイじゃない、フライドチキンくらい。
「フライドインパルスがどれほど完璧でも、フライドチキンが元来持つ弱点はどうしようもないの!」
「……くっ……さすがは高町なのは……すぐにその点に気付いたか……」
フライドチキンの弱点……それは、油分の取りすぎ。それによるカロリー過多。
うーん、スバルは気にしないような気がするけれど。
「しかし、フライドチキンによって鳥が食べやすくなるのは事実! そして、簡易な料理としてフライドチキンを越えるモノがあるというのか!」
「私たちを……いえ、フェイトちゃんを舐めないで」
「なのは……」
フェイトさん、感謝の気持ちはわかりますが、その眼差しはどう見ても性的です。色々拙いです。自重してください。
「フライドチキンをこえるもの、それは、鳥刺し!」
「鳥刺しだとっ!?」
つまり、鳥の刺身。ってフェイトさん、鳥の刺身って……要は生ですか。
「ソニックフォームを越えるフォーム、それが、フェイトちゃんの削ぎ肉フォーム!」
ああ、つまり、鳥の肉を削いで食べると。
単なる原始人のような気がしますが。
私は、疲れ果てて宿舎に戻った。
フライドインパルス……削ぎ肉フォーム……なんなんだあの人たちは……
「あ、お帰りティア。勝手に上がってるよ」
「スバル、どうしたの?」
ベタ降りだったテンションが、スバルで戻ってしまう私も大概かも知れない。
「ティアに見て欲しいモノがあって」
「なに?」
「あたしの新技だよ」
「開発したの?」
「うん。ウィングロードで地面すれすれに走ってね、あ、畑の近くだよ」
畑?
「振動破砕で地面を揺らして、野菜を収穫するの」
勝手に収穫……それって……
「名付けて、振動破砕ならぬ窃盗野菜」
「あんたもかーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「え、なに、なに、ティア、何で怒ってるの? ちょ、ちょっと、ダメ、ティア、あ、あ……そこは………ああああっ!」