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極限まで熱せられた鉄板
濃厚ソースの焦げるかぐわしき香り
青のりと鰹節はその役目を全うした
 そのとき、この手に握られるのはコテか、割り箸か
再び、私たちは考えなければならないのだ
マヨネーズはどうしよう……
 
魔法少女リリカルなのはEaterS
始まります
 
魔法少女リリカルなのはEaterS
2「お好み焼き」
 
 
 
 
   
 じゅうじゅうと音を立てて熱せられている鉄板を見つめる四対の目。
「これをどうするんですか?」
 エリオのもっともな問いに、スバルが重々しく頷いた。
「うん。それがね……実はよくわからない」
 何も知らされないまま、一緒に重い鉄板を運んできたティアナがとりあえずスバルを殴る。
「あんたね……わからないってどういう事よ。重い鉄板ここまで運んでこさせといてどういう事よ!」
「や、ティア、怒んないで。ちゃんと調べては来たんだよ」
 
 首を傾げるエリオ。いったい何なのだろう。
 調べたということは、ミッドチルダではあまり知られていない料理なのだろうか。
 エリオも鉄板関係の料理を知らないわけではない。六課の皆で出張したなのはさんの故郷海鳴市で鉄板焼きは見た。
 だから、鉄板焼きならわかる。肉や魚、野菜を焼いて食べる料理だ。野外だととっても美味しい。
 そして鉄板焼きの記憶はスーパー銭湯の記憶へと……
……フェイトさんやキャロや、フェイトさんやスバルさんや、フェイトさんやティアナさんや、フェイトさんや……
 ああ、それから忘れちゃいけないフェイトさん……
 エリオは必死で首を振って記憶を抹消する。いや、抹消するなと心の中の悪魔が囁きかける。
(いいじゃないか、それくらい。役得だろ? フェイトさんのヌードなんて、なかなか見られるもんじゃないぞ)
 どこかの提督のような黒ずくめの悪魔が囁く。
(駄目だよ、エリオ君)
 どこかの無限書庫長のような天使が反対側に現れた。
(そういうのはマナー違反だ。忘れるんだ。でも、キャロのヌードは忘れるな)
 どうやら天使はロリ趣味らしい。
 
 葛藤する、というより天使と悪魔に責め立てられているエリオを余所に、キャロは鉄板の横に準備されているものに気づいた。
 どうやらスバルが持ってきたらしいのだけど……このドロドロとしたものは一体なんだろう。
 ……パンケーキ!?
 そうだ。それなら辻褄は合う。キャベツやもやしの入ったパンケーキが実在するなら、だが。
 あと、イカや豚肉、エビも用意されている。
 そんな、肉やシーフードをふんだんに使ったパンケーキは嫌だ。
 キャロは頭を捻る。
 自然保護隊にいた経験から、野外料理はお手の物である。もしかすると料理の経験という意味ではスバルやティアナよりも上かもしれない。
 それでも、初めて見る食材にキャロは首をかしげるだけだった。
 
「大丈夫だって、無限書庫まで行って、ちゃんと第97管理外世界の本を調べて来たんだから」
 スバルがティアナに抗弁している。
「無限書庫って……よくアンタの個人的な調べものが許可されたわね」
 少し考えて、ティアナは思い当たる節にうなずく。
「あ、書庫長って高町教導官のお知り合いだものね。じゃあ、伝手はある訳か」
「うん。そのかわり、今度手伝って欲しいことがあるって言われたんだけどね。あたしのウィングロードだと、書庫の間を走り回るのに都合がいいって」
「確かに、都合が良さそうな魔法ね。ま、非番の時にならいいんじゃない?」
「うん。がんばろうね、ティア」
「……まさかアンタ、二人で手伝うなんて言ったの?」
「あはは……」
「……」
「……」
「ごめんね、ティア」
 大きくため息をつくティアナ。
「も、いいわよ。ホンット、好き放題なんだから。その代わり、その日はせいぜい美味しい晩ご飯期待するわよ」
「うん、おごる。おごるよ、ティア」
「ったく。で、この鉄板は結局どうするの?」
「ああ、これはね、えーっと確か……あ、そうだ。お好み焼きって言うんだよ」
 お好み焼きとは、このドロドロを焼いて、イカや豚肉、エビやもやしやキャベツを載せて食べるのだと、スバルは説明する。
 キャロは「パンケーキとピザの混ざったものだ」と納得した。
「種類も色々あって、広島焼きとか、阪神焼きとか」
「ヒロシマ? ハンシン?」
「第97管理外世界の、なのはさんが生まれた国の地名なんだって」
「なるほど、地方によっていろいろと違うのね」
「あ」
 エリオの声に三人が注目する。
「どうしたの、エリオ」
「もしかして、地方によって中に入れるものが違うんじゃないですか? それで、いろんな名前が」
「なるほど。それはあり得るわね」
「おお、エリオ、冴えてる」
「さすがエリオ君だね」
 
「あれ? もしかして、お好み焼きかな?」
 四人が食べていると、姿を現したのはフェイトとシグナムである。どうやら、ライトニング小隊の打ち合わせをしていたらしい。
 四人が立ち上がって挨拶しようとすると、二人はそのままでいいと手で合図する。そして挨拶を返しながら、
「海鳴にいた頃にはたまに食卓に上がっていたが、ミッドチルダにもあったのか」
「違いますよ、シグナム副隊長。これはスバルさんが本を読んで調べてきた、第97管理外世界の食べ物です」
「スバルが? お呼ばれしてもいいかな?」
 エリオとキャロはとっさにスバルを見る。ニッコリ笑ったスバルが断るわけもなく。
「もちろんですよ。材料もいっぱいありますから」
 エリオとキャロがフェイトの、ティアナがシグナムの席を用意する。
 置いてあったコテを見つけて、器用にテキパキと作り始めるフェイト。なかなかに堂に入ったコテ捌きである。
「え? フェイトさん?」
「向こうにいた頃は、よく食べていたの」
「ええっ、そうなんですか?」 
「母さんは、第97管理外世界の日本の文化が大好きだから」
「確かに、リンディ提督は見事に現地にとけこんでいらっしゃるからな」
「シグナムはどうなんですか? はやての出身は、お好み焼きの盛んな地域だと聞いてますよ?」
「うむ、我らは食する機会がほとんどなかった。主はやてはお好み焼きというより……」
 言いかけたシグナムの言葉が別の言葉で止まる。
「なに、この匂い?」
「ヴィータか」
「何やってんだよ、シグナム、そんなところで旨そうな匂いさせて」
「お好み焼き?」
 ヴィータの後ろにはなのはがいる。こちらも、スターズ小隊の打ち合わせをしていたらしい。
「懐かしいなあ、ミッドにはこういうのないんだよね」
「お好み焼き? って、シグナム、これ」
「気づいたか、ヴィータ」
「ああ、そっくりじゃねえか、これ!」
 そっくり、という言葉に顔を見合わせるティアナとスバル。
「なにか、ほかにあるの?」
「ううん。知らない」
 二人が顔を見合わせてから五分もしないうちに、今度ははやてが現れる。
「何しとるの? これ」
「あ、す、すいません、部隊長。これはあたしの独断で…」
「いや、別にそれはええんやけど……これ、あたしらの世界のお好み焼き?」
 はやての問いに、なのはとフェイトがうなずいた。
「ほほう、お好み焼きな……」
 不可解な笑みを浮かべる部隊長に、スバルとティアナは顔を見合わせた。
 とりあえず怒られているわけでないことはわかる。しかし、これはいったい。
「お好み焼きに目をつけたのはええ着眼点や。でも、まだまだやな」
 何が? とキョトンのフォワード四人。
「ヴィータ、ちょっとこっちおいで」
「ん〜。なんだよ、はやて」
 はやてに言われた言葉に、ヴィータの表情が少し曇る。
「えー、そんなこと、本当にするの?」
「美味しいものが食べられるで? あたしの作るごはん、ヴィータは食べたない?」
「そ、そんなことない。はやての飯はいっつもギガウマだもんな!」
「そしたら、頼むな、ヴィータ。あ、シグナムも手伝ってや」
「何をされるのです?」
「余ってる鉄板、立てかけて支えといてな」
「はあ…」
「じゃあ、頼むで、ヴィータ」
「わかった、はやて。シュワルベフリーゲン!」
 四つの玉が鉄板にぶつかり規則正しいへこみを作り上げる。
 シグナムは慌てて鉄板を持ち直していた。
「ヴィータ、次々お願いな」
「任せろ!」
 後から後から鉄板にぶつかり、半球状の凹みを作る魔法弾。
 規則的につけられた一つ一つの凹みが、綺麗に列になって並んでいる。
「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。お好み焼きより、もっとええもんがあるんよ?」
「いいもの……ですか?」
「その名は、たこ焼きや!」
「タコ!?」
「まあ、ミッドにタコはないみたいやから、変わり種たこ焼きやよ。そやけど、味は保証付きや」
「はやて、スバルはたこ焼きの材料なんて準備してないよ?」
 コテを握ったままフェイトははやてを見る。
「ここには、お好み焼きの材料しかないよ?」
「甘いなフェイトちゃん。たこ焼きもお好み焼きも、材料は同じ。味付けと作り方、出汁と粉の割合だけ変えたら完璧や」
 どのみち、ミッドに「お好み焼き用粉」「たこ焼き用粉」などという便利なものは存在しない。粉と出汁から作るしかないのだ。
 いつの間にかシャマルが、はやての元にボウルを運んでいる。
「はい、はやてちゃん」
 シャマルから受け取ったボウルに、スバルの持ってきた粉と出汁を入れて混ぜ始めるはやて。
「さ、焼こか」
 フェイトのコテ捌きにも負けない手つきで、たこ焼きを作り始めた。
 お好み焼きに続いて香ばしい匂いが辺りに立ちこめていく。
「うわあ、こっちはこっちで美味しそう」
「うんうん。迷っちゃうなぁ」
「迷うことあらへんよ、二人とも。たこやきのほうが美味しいんよ? ほら、エリオとキャロも」
 焼きたてを二人の口に放り込むはやて。
 熱っ、と顔をしかめてすぐに、二人は笑顔で食べ始める。
「美味しいです」
「美味しいですよ、部隊長」
「そやろ? そしたらたこ焼きを」
 フェイトが即座にはやてとエリオの間に入った。
「エリオとキャロはお好み焼きを食べるからいいよ」
「遠慮ならいらんよ?」
「そうじゃなくて、二人はたこ焼きよりもお好み焼きの方がいいから」
「……あたしのたこ焼きよりフェイトちゃんのお好み焼きがええの」
「あの、部隊長、そういうわけでは……」
「スバルとティアナは食べてくれてるのになぁ」
「はやて、そういう無理強いは良くないよ」
「無理強いしてるわけかないよ? フェイトちゃんこそ、二人に無理強いしてへん?」
「私が? してないよ?」
「エリオとキャロに、無理強いしてない?」
「してないよ。ねえ、エリオ、キャロ」
 フェイトが振り向くと、熱々のお好み焼きを頬張っていた二人が慌てて返事する。
「は、はい」
「おやぁ? 今のは無理強いと違うのかなぁ?」
「はやて、怒るよ?」
「フェイトちゃんのお好み焼きより、あたしのたこ焼きのほうが絶対に美味しいよ?」
「そもそも、たこ焼きなんて、エリオやスバルには小さすぎるんじゃない? 二人はたくさん食べたいでしょう?」
 ふらふらっ、とフェイトのほうに近づくスバル。
「あ、スバル、なにふらふらしてるの」
「だってティア。たこ焼きは一個一個が小さいからさぁ」
 単純といえば単純な答えに、頭を抱えるティアナ。とはいえ、大食漢のスバルにとって量の差はやはり大きい。
「そうか。大きさか。それはどうしようもないなぁ。そっか、大きさかあ」
「はやては何が言いたいのかな?」
「なんにもないよ、フェイトちゃん」
「なんだか、スバルが味じゃなくて大きさで決めたって言っているみたいだけど?」
「エリオもスバルと同じくらい、仰山食べるよ?」
「そういう問題じゃないよね? はやて」
「フェイトちゃんこそ何が言いたいんやろか?」
「私が言いたいことは、至ってシンプルだよ。たこ焼きより、お好み焼きのほうが美味しいって言うこと。お好み焼きはごはんの代わりになるけれど、たこ焼きはせいぜいおやつだもの」
「フェイトちゃん、たこ焼きを舐めたらあかんで」
「舐めないよ、そんな熱いもの」
「面白いこと言うなぁ、フェイトちゃんは」
「事実だよ。お好み焼きのほうが美味しいんだから」
「そこまで言うんやったら、勝負する?」
「勝負?」
「フェイトちゃんのお好み焼きと私のたこ焼き。どっちが美味しいか、みんなに選んでもらうんよ」
「そうだね。望むところだよ、はやて」
 
 お好み焼きとたこ焼きの熱い戦いが今、六課食堂内にて始まろうとしていた。
 コテを握るフェイト、千枚通しを構えるはやて。
「はやて、本気で行くよ」
「望むところや」
 
 
 
 二時間後。
 
 燃え尽きたはやてとフェイトが食堂の片隅で口から魂を吐いている。
「そ、そんな……そんなことが……」
「ひどいよ……なのは……」
 二人の視線の先。皆がわいわいと集まっているところ。
 なのはがクレープを焼いていたりする。
「なのはちゃんのパティシエの腕ってプロ仕込みやん……」
「忘れてたね……」
 
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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