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ルーのサンタ
 
 
「みんな、ごめんなさい」
 なのはの謝罪も耳に入らないように、一同はテキパキと動く。
 謝罪を聞いている暇があれば身体を動かして一刻も早く準備を整えたい。それが全員の本音なのだ。
「シグナム! そっちは」
「完了しました。あとはシャマルの結果待ちです」
「私は大丈夫よ。はやてちゃんはどうですか?」
「任せとき、準備はバッチリやで。いつでもいける。それよりエリオとキャロは?」
「はい。大丈夫です!」
「間に合うと思います!」
 元気よく答える二人とは別の、駆け込んでくる二人。
「はやてさん、遅くなりました!」
「手伝います! 何がありますか?」
 その二人の姿を確認したはやてはニッコリと笑う。
「ティアナ、スバル。来てくれたんか」
「当たり前じゃないですか」
「あたしたちだって、こう見えても元六課ですよ」
「おおきにや。そしたら、エリオとキャロのフォローよろしく」
「はいっ!」×2
 テキパキと働く一同。その一方で、
「あ、あの……」
 誰にも謝罪を受け入れてもらえないなのはは、途方に暮れて立ちつくしていた。
「なのは」
 そんななのはに声をかけるのはフェイト。
「フェイトちゃん」
「なのはがそんなに気を落とす事、無いよ」
「でも、みんな、忙しいのに私のために」
「それは違うよ。なのは」
「え?」
 フェイトは温かい目でエねリオとキャロのほうを見やる。
「みんなが動いているのはなのはのためじゃない。これは、あの子のためなんだから」
 
 事の起こりは三日前。
 メガーヌ・アルピーノは娘であるルーテシアの様子に気付く。
 なにやら物思いにふけっている。そして、明らかに気落ちした様子。
「ルーテシア? なにかあったの?」
 母親の問いにルーテシアは首を振って何も応えない。
 メガーヌはとりあえず、普段から娘の近くにいる頼れる召喚蟲ガリューに尋ねることにした。
「ガリュー、何か知ってる?」
「いえ、私にもさっぱりです」
 もちろん、ガリューがこのように話したわけではない。元々の召喚主であるメガーヌならば、この程度の細かい意思疎通までが可能なのだ。
「なにか、心当たりはある?」
「さあ……。ただ、お嬢さまがあのように心を痛めておられるのは先日の朝からであったと思いますが」
「朝?」
 具体的な開始時間の指定にメガーヌは首を傾げる。
「朝なの?」
 一体、寝起きに何があったというのか。
「正確には、起きられてから数分後でしょうか? あの日、起きられてすぐにお嬢さまは枕元で何かを探しておられる様子でした」
「夜の内に何か置いておいたのかしら?」
「いえ。夜の見回りでも特に気付いたことはありませんでしたが」
 頷いて、メガーヌは顔をしかめる。
「ガリュー? 貴方、夜中にルーの寝室に入っているの?」
「はい。私は殆ど寝る必要がありませんので、基本的には不寝番をしております」
「いつから?」
「ゼスト殿と別れてからはほとんど毎晩ですが」
 メガーヌは少し渋い顔になるが……
「まあ、いいわ。貴方が蟲族でなかったら、今すぐに吹き飛ばしているところだけど」
「なにか、ご無礼をしてしまいましたか?」
「いいえ、気にしないで。貴方の忠誠は希なるもの、何物にも代え難いルーテシアの宝だわ」
「身に余るお言葉です」
 
 その、少し後……
「私、まだ悪い子……」
 ルーテシアは、ぽつんと一人、玄関横の大木の麓に座っている。
「悪い子だから……来てくれないんだ」
 込み上げるものを隠すように俯く。
「良い子にしてるよ……もう、悪いことなんてしないよ……」
 それでも、数粒の涙が地面に落ちる。
「ごめんね、キャロ。ごめんね、エリオ。ごめんね、ヴィヴィオ。ごめんね、なのはさん、フェイトさん、はやてさん、スバルさん、ティアナさん」
 六課の、いや、当時戦った相手の名前を一人一人挙げては、誰もいない空間に向かって謝っているルーテシア。
 ちなみに直接相対した某ヘリパイ兼狙撃手の名前は最後まで出なかった。素で忘れているらしい。
「ごめんね、ごめんね、みんな……」
 その姿を、メガーヌは見つけた。しかし、話しかけることはできない。
 自分がいなかった頃のルーテシア。その体験が娘に何を与えたのか。
 それは決して理解できることなどないだろう。
 しかし、一つだけは言えた。
 スカリエッティラボから救出された自分。その自分のリハビリのため、あるいは事情聴取のために姿を見せた六課メンバー。彼女たちは信用できるとメガーヌは感じていた。
 その彼女たちが原因だとは思えない。彼女たちは、すでにルーテシアとは交友関係と言っていいものを築き上げている。ルーテシアが彼女たちに対して必要以上の罪悪感を抱くことなど無いはずなのだ。
 メガーヌは一つ決意すると、通信装置に手を伸ばした。
 
 珍しい物を見た。とはやては思う。
 泣く子も黙る、というか、泣く大人も砲撃する、敵無し容赦無し浮いた話無しの三無教導官、高町なのはの土下座である。
 正確には土下座ではなく、限りなく土下座に近い最陳謝なのだけれど。
「なのはちゃん。何やったんかな?」
「なのは。何をしたの?」
 状況はなのはにとって最悪だった。
 そして、メガーヌからの通信はたまたま三人一緒にいるときに送られてきた。
 まず、六課時代の話と言うことで、はやての目が厳しい。ルーテシア……というよりも子供が絡んでいると言うことで、フェイトの目も厳しい。
 とは言っても、さすがに二人もなのはがルーテシアを苛めたという結論には達していない。
「えっと……何をしたというか、話したというか……」
「思い当たる節があるんやね?」
「なのは。お話しようか?」
 二人の重圧に耐えかね、なのはは言う。
「……多分……サンタさん」
「は?」
「え?」
 ナンバーズとルーテシアの矯正施設での生活。そこには、六課のメンバーも入れ替わり立ち替わり訪れていた。
 ただ訪れるだけでなく、色々と話をすることもあったのだが……
「良い子のところにはサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれるの」
 なのはは確かにそう言ったのだ。
 ちなみに、チンクとウェンディとルーテシアが目を輝かせていたらしい。
 チンクとウェンディはナカジマ家に引き取られたときにその誤解を正された。
 ルーテシアの誤解を解く者は誰もいなかった。
 そして、ルーテシアは考えた。
 良い子の所にサンタさんが来る。
 悪い子のところにはサンタは来ない。
 サンタさんが来ないルーテシアは悪い子。
 事件が終わって一年経ってもやっぱり来ない。
 サンタさんはルーテシアを許さない。
 
「なのはちゃんが悪い」
「それは……なのはが悪いよ」
 親友二人から下されたのは有罪判決。
「ど、どうしよう」
 なのはにしてみても、今のルーテシアの反応は不本意以外のなにものでもない。
 いや、メガーヌにサンタの話を教えておけば問題はなかったのだ。
「だって、ガリューだって聞いていたのに! 何とかすると思ってたのに……」
「召喚蟲にそこまで期待する方がおかしいよ」
 言いながらフェイトは、やや逆ギレ気味のなのはが地球出身であることを再認識する。
「だって、使い魔ってアルフやザフィーラみたいな人ばっかりかと……」
「アルフは特別だよ」
「なのはちゃん、ザフィーラは使い魔ちゃう。ヴォルケンリッターや」
「ザフィーラさんは別としても、ガリューはアルフよりもフリードのタイプに近いからね」
「うう……どうしよう。ちゃんと謝らないと」
「それはそうだけど……」
 この期に及んで謝って済むだろうか、とふとフェイトは考える。
 悪気がないとはいえ、ルーテシアを傷つけてしまったことは確かなのだ。
「しゃーないなぁ。サンタさん、呼ぼか」
 はやての言葉に、フェイトは驚く。
「え、もしかして、本当にいるの!?」
「いやいや」
 はやては苦笑しながら、フェイトが地球外出身だと再認識する。
「私らが、サンタになる。時期はずれやけど、プレゼント付きクリスマスパーティーや!」
 早速準備やで、とはやては拳を握り、早速リインが伝令に飛び回る。
「リイン、頼むで」
「はい、任せてくださいです!」
 
 
 
 ある年からルーテシアは、サンタを待つことを止めました。
 サンタはもう、来なくてもいいのです。サンタがいるかいないかなんて、どうでもいいのです。
 だって、サンタよりももっと楽しい、もっともっと素敵な、もっともっともっと会いたい人たちがいるのだから。
 
 
 だから、ルーテシアはこれまでも、これからも、良い子です。
 
 
 
 
あとがき
 
 
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