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シグナムはテスタロッサに秘密を作りました
 
 
 
 フェイトの突進を寸前になってかわすシグナム。
 そして追いかけるような形でレヴァンティンを振るうが、それを予期していたフェイトが振り向きざまにザンバーで刀身を弾く。
 もちろんフェイトとて、むやみに突進をかけたわけではない。あわよくば振り向きざまの一撃がカウンターになればと思ったのだが、シグナムの防御は想像以上に堅い。
 そして、このまま止まるならば第二第三の追撃を。
 しかし、それは二人の戦いではあり得ない。
 少なくとも、足を止めたクロスレンジのつばぜり合いをシグナム相手に望むほどフェイトは戦闘狂ではないし、勝てるとも思っていない。
 距離を置こうとするフェイトを追うシグナム。単純な直線距離の早さではフェイトに分がある。それはシグナムにもわかっているのでこの追撃は執拗なものではない。ただ、隙を見せれば炎の一撃がフェイトを包み込むだろう。
 互いの微妙な差は、絶妙な緊張感とバランスを戦いの中に生み出していた。
 フェイトの一撃がもう少し重ければ、
 シグナムの直線機動がもう少し早ければ、
 フェイトの回避がコンマ一秒遅れれば、
 シグナムの防御に一瞬でも隙があれば、
 どの条件が発生しても即座に勝負はつくだろう。
 だからこそ、二人はこの模擬戦を、この相手と行う模擬戦を心から楽しみ、そして愛していた。
 総合の勝率では未だ勝っているとはいえ、シグナム自身には、自分の勝利は薄氷のものだとしか思えないでいる。
 そして成長の伸びしろは、認めたくはないがフェイトの方が上なのだろう。
 自分がフェイトに抜かれるのは時間の問題かもしれない、シグナムは妙に冴えた頭の一部でそう考えていた。しかし、烈火の将としての意地もある。そう簡単に抜かれるわけにはいかない。
 少なくとも今しばらく。主が自分の助けなど必要ないほどの力を手にするまでは、自分は、自分たちは強くあり続けなければならない。
 いや、それはただの言い訳なのかもしれない。単なる戦いを、テスタロッサとの戦いを楽しんでいる自分への。
 心躍るのだ。この戦いは。
 テスタロッサとの戦いは。
 その心の命ずるまま、シグナムはフェイトとの間を詰める。
 距離を取ろうとするフェイトを追い、カートリッジを装填。レヴァンティンをシュランゲフォルムへと形態変化させる。
 それを見て取ったフェイトが小さな弧を描いて再びシグナムに向き合い、バルディッシュをハーケンモードに変更する。
 この形態によるシグナムの中距離攻撃ならば、この距離は射程内。背を向けるのは愚作である。単純な撃ち合いになれば、フェイトに分がある。もちろん、シグナムがその愚を犯すとはフェイトも思ってはいないのだが、何かを仕掛けてくることは間違いないとも判断していた。
「飛竜一閃!」
 レヴァンティンの連結刀身が伸び、フェイトを襲う。
 それをフェイトがよけるのは容易い。しかし、それはシグナムの側もわかっているはず。なら、よけた後が真の目的。
 それでも、フェイトはあえてシグナムに向かう。
 罠があるなら、それをあえて受け、避けた上で一撃をたたき込む。搦め手を続けて勝てるような相手ではないのだ。
 攻撃をさけ、懐に入りながらフェイトの視線はシグナムの左手に向けられていた。
 レヴァンティンをかいくぐれば、シグナムの手にデバイスはない。否、後一つ。
 瞬時、シグナムの左手が何かを虚空から掴みだした。
 レヴァンティンの鞘である。単体でも、フェイトの攻撃を受け止めることのできる強度を誇る鞘。
 鞘で攻撃を受け流し、その隙にレヴァンティンをシュベルトフォルムに戻す。接近しすぎたフェイトはそのまま烈火の一撃を受ける。それがシグナムのシナリオだと、フェイトは判断。
 フェイトの攻撃を受け止める鞘に逆らわず、フェイトは力を逃がした。
 と、妙な感触。
 あまりにも、鞘への手応えが無さ過ぎる。
 戻ってくるはずのレヴァンティンは等身を伸ばしたまま。
 異変に気付いたフェイトはレヴァンティンに向けていた注意をシグナムに戻す。
「甘いな、テスタロッサ」
 シグナムが不敵に笑う。
 レヴァンティン、そして鞘までもがフェイク。この瞬間にフェイトを無防備にし、バルディッシュの自動防御すら無効になるように鞘を会わせた結果。今のフェイトとシグナムの間には何もない。
 もう、シグナムを守るデバイスはないはず。
 言いかけたフェイトは、脇腹に加わった衝撃に顔をしかめ、肺の中の空気を全て絞り出されたように喘ぐ。
 それは、単純な打撃だった。
 徒手空拳となったシグナムの、ただの拳。しかし、そこには充分な魔力が込められている。
「ザフィーラ直伝だ。痛いが、我慢しろ」
 充分な体重と魔力を込めた拳が、フェイトの腹にめり込んでいた。
「シグ…ナム……これは……」
「デバイスなしでも高威力の攻撃はできる。アルフの主ともあろうお前が、それを忘れていたか」
 
 
「いい勝負だった」
 シグナムは独りごちていた。
「まさか奥の手を出さざるを得ないとはな」
 その横には、フェイトが寝ころんでいる。というより、疲れきった二人が一緒に寝ころんで空を見上げているのだ。
「しかしろねテスタロッサのいつもながらの思い切りの良さは見事だったな。ザフィーラに拳撃を教授されていなければ、敗れていたのは間違いなく私だろう」
 そこでようやく、シグナムは返事がないことに気付く。いつものフェイトならば、仮に自分の興味がない話題でも相づちの一つは打ってくるはずだ。
 横を向くと、フェイトの目は閉じていた。そして、規則正しい寝息が聞こえる。
 模擬戦のダメージか大きすぎたのかとも一瞬思ったが、それはない。拳のダメージはほとんどが魔力ダメージのはず。もちろん純粋な物理ダメージもゼロではなかっただろうが、ここまで回復に時間がかかるようなものではない。
 ただ単純に、疲れて眠っているのだろう。
「無防備すぎるぞ、テスタロッサ」
 ……シグナムがそこにいるからですよ。
 そう言われたような気がして、シグナムは照れ隠しのように首を振る。
「お前は無茶をしすぎる。確かに平均を遙かに凌駕した魔力と戦闘センスの持ち主たということは認める。だが、それは無茶ができるという意味ではない。生身の身体である限り、傷も負うし疲労もする。昔とは違うといえ、元々プログラムである私たちとは違うのだからな」
 もちろん、フェイトの答えがあるわけもない。静かに寝息を立てている姿に必死で訴えている自分に気づき、シグナムはさすがに苦笑する。
 疲れているのは理解していた。このまま寝かせておいてやるのに否はない。
 ……それにしても……
 シグナムはまじまじとフェイトの寝顔を見ていた。
 寝顔はまだまだ子供だ。ヴィータという戦友を持つ自分が言うのもおかしいが、こんな子供があれだけの力を持っているのか、としみじみ嘆息したくもなる。
 さらには、執務官になるための勉強もしていると聞く。いったいこの華奢な身体のどこに、それだけのバイタリティを秘めているのか。
 いつの間にか、シグナムはフェイトの顔を見つめていた。さっきまでの、苦笑気味の表情は消えている。
 妙に艶めかしく、何かを求める、あるいは望むような視線。
 あることに気付き、狼狽するシグナム。
 自分はいつの間にか、フェイトの寝顔に見とれていなかっただろうか?
 まさか、とは思うが、予想以上の時間見つめていたのは事実だろう。
「テスタロッサ、まだ寝ているつもりか?」
 呼びかける声は、自分で思っていたよりも小さい。まるで、起こす気がないかのように。
 シグナムは、自分の視線が固定されつつあることに気付いていた。寝顔を見ている、というよりも、ある一点を中心に視線が揺れているといった方がいい。
 唇を、シグナムは見つめていた。
「テスタロッサ、いい加減に起きたらどうだ?」
 囁くような声。目覚めを求めていない声。
「起きないのか?」
 シグナムが囁きながら顔を近づける。
 フェイトとの距離が0に近づいて……
 
 
「どうしたの、フェイトちゃん」
 なのはが尋ねると、フェイトはなんでもない、というように首を振る。
「なんでもないよ、なのは」
「そっか。でも残念だったなぁ」
 なのはは大袈裟に息を吐くと、フェイトと並んであるく先の空を見た。
「もう少し早く行けば、シグナムさんとフェイトちゃんの模擬戦が見られたんだよね」
 フェイトを迎えに来たなのはは、シグナムに見守られて昼寝しているフェイトの姿を見つけたのだ。
「そうだね。でも、そんなに、見てて面白いものじゃないよ。それとも、なのはも一緒に模擬戦をやる?」
「う。にゃはははっ、私はいいよ。シグナムさんは嫌いじゃないけれど、模擬戦の相手としては苦手だし」
「苦手な相手だから、練習になるんだよ?」
「フェイトちゃん、真面目すぎるよぉ」
「そうかな」
 言いながら再びフェイトは、先ほどなのはに見とがめられたおかしな顔になる。
「どうしたの?」
「なんだかさっきからお話しするたびに……」
 フェイトは自分の唇に舌を当てる。
「唇が甘いの」
「え?」
 まるで何かを唇に塗ったかのように。
「気のせいかな」
 立ち止まって少し考えるとフェイトは再び、なのはと共に歩き出すのだった。
 
 
 
あとがき
 
 
 
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