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ごめんね
 
 
 いつものお気に入り。管理局近くのカフェで、三人はお茶を飲んでいた。
 フェイトとなのははしばらく話し合っていたが、やがて、フェイトの怒ったような問いに対して、
「それは、フェイトちゃんの勘違いだよ」
 なのはが間髪入れずそう答える。
「確かに、ユーノ君は良いお友達だけど。なんて言うのかな……うん、お友達だし、魔法の師匠だし。たくさんたくさんお世話になってるしね、地球でのこととか、ヴィヴィオのこととか」
 だけど、それを言うのなら、フェイトも同じ。
 エリオやキャロのことでは、たくさんお世話になっている。
 それに、ハラオウン家に養子に行ってからも、直接間接を問わずに色々とユーノはフェイトの助けになっているのだ。
 実際、クロノからもフェイトに関する相談は受けていたのだ。
 なにしろ、本人たちこそ決して認めないだろうが、ユーノはクロノの親友である。
「本当に? なのは」
「本当だよ。私がフェイトちゃんにこんな嘘をつくと思う?」
「それは……思わないけれど」
「だったら、これで解決だよ」
「でも、本当に良いの?」
「良いも何も」
 なのはは呆れたように苦笑する。
「私は別に、ユーノ君に対して特別な恋愛感情は持ってないもの」
「でも」
「それとも、フェイトちゃんは、私とユーノ君がラブラブな方が良いの?」
「え」
 フェイトの顔色がやや変わる。
「そ、それは」
「ふふふ。だったら、フェイトちゃんからユーノ君取っちゃおうかな。親友からの略奪愛ってやつだね」
「駄目だよっ! なのは」
 勢いある言葉を浴びせられたなのはは一瞬きょとんとして、そして笑い出す。
「ほら、フェイトちゃん。最初からそうやって正直に言わないと」
 立ち上がっていたフェイトは迫力の持っていきどころを失い、真っ赤な顔で座り直す。
「なのはの意地悪」
「フェイトちゃんが素直に言わないのが悪いんですぅ〜だ」
「もうっ」
 拗ねるように横を向いたフェイト。その機嫌を取るように、なのははニッコリ微笑む。
「ほら、フェイトちゃん。良い事教えてあげる。今日のユーノ君は非番だよ」
「え。どうして知ってるの?」
「今日、会う予定だったんだ」
「ええっ、やっぱり……」
 慌ててなのはは、顔の前で手を振った。
「違う違う。ヴィヴィオのことで相談があったんだ。だけど、私はそれほど急ぎの用じゃないし、メールでも済むような内容だから、今日はフェイトちゃんに譲ってあげる」
「なのは……」
「フェイトちゃんのことだから、まだユーノ君にちゃんと気持ちを伝えてないんでしょ?」
「う、うん……で、でも、ユーノだってきっと私の気持ちは……」
「そう。だから、行ってきて」
「本当に……いいの?」
「しつこい子は、嫌われるぞ?」
「うん。行ってくる」
「あ、それからユーノ君に、今日の約束、ヴィヴィオの話のこと、今度メールするって伝えてくれるかな」
「私が?」
「話し掛ける切欠だよ」
 人差し指を建てて、イタズラっぽくチッチッチッと振ってみせるなのは。
「フェイトちゃんのことだから、またそういう事で悩むんでしょう」
「ありがとう、なのは」
「にゃははは、行ってらっしゃい。頑張ってね、フェイトちゃん」
 駆けだしていく親友の後ろ姿を見つめるなのは。
「頑張ってね、フェイトちゃん」
 呟いて、腰を下ろす。
 そして、視線を感じて三人目に目を向ける。
「はやてちゃん、何か?」
「気分悪っ」
 第三者。今まで何も言わずにじっとコーヒーを飲んでいた一人がようやく声を上げた。
「ホンマ、気分悪いわ」
「ごめんね」
「自分が何をしたか、わかってるんやね、なのはちゃんは」
「わかってるよ」
「いいや、わかってへん。なのはちゃんはなんにもわかってへん」
「わかってるよ」
「いいや」
「わかってるよ!」
「わかってへん、言うてんねんっ!」
「わかってないのは、はやてちゃんだよ!」
「わかりとうもないわっ! 好きな人諦めて親友に差し出すモンの気持ちなんか!」
 詰め寄るはやてに、なのはは一歩下がる。
「それがなのはちゃんの本当の気持ちなんか? 本当にユーノ君はただのお友達なんか!? そんなん嘘や、嘘に決まってるやろ! フェイトちゃんかて、ホンマの所はわかってるわ!」
「今のは私の……本当の気持ちだよ」
「ホンマに、ええんやな」
「何が?」
「言わせる気かい」
「はやてちゃんの言いたいことが、私にはわからないの」
「ユーノ君のこと、ホンマに諦めるんやな」
「諦めるも何も、私はユーノ君のことをそんな風に見たことはないよ」
 はやてが歯を食いしばるようにして、なのはを睨みつけていた。
「……わからずや」
「わかってないのは、はやてちゃんだよ」
 視線を逸らそうともせずに、なのはは言う。
「……なのはちゃんは大馬鹿や」
「うん」
「大馬鹿や」
「うん」
 はやてにもわかっていた。
 なのはもフェイトも、きっと同じくらいユーノが好きなのだと。いや、人を好きになる度合いに比べようなどない。
 二人とも、ユーノが好きなのだ。
 ただ、一つの違い。
 なのはとフェイトの違い。
 なのはには、ユーノがいる。
 フェイトには、ユーノしかいない。ユーノなら、フェイトのことを知っている。クローンであろうと、プレシアの娘であろうと自分には関係ないことだと言うだろう。
 もしかすると、クロノがいたのかも知れない。だけどクロノは義兄であり、さらにエイミィがいる。
 だから、なのはは言う。
 ユーノに対する恋愛感情はない、と。 
 睨むはやて。その視線を甘んじて受け止めるなのは。
 やがて、視線を逸らしたのははやてだった。
「なのはちゃんは、アホや」
 弱々しく呟くと、はやてはその場を立ち去る。なのはは座ったまま、フェイトを送ったときと同じようにその後ろ姿を見送っていた。
 ただ、その手は微かに震えている。
 数分して、なのはも立ち上がった。
 三つにわけてあった伝票の内二つは既に持ち去られている。残った一つを手に取り、チップの小銭と料金分の紙幣を置いて出て行く。
 家に帰ると、ヴィヴィオがいた。
 夕食を作り、学校での出来事を聞き、お風呂に一緒に入る。
「おやすみ、ヴィヴィオ」
「おやすみなさい、ママ」
 電気を消す直前になのはは、今日来るはずだったユーノのことを、ヴィヴィオに説明していない事に気付いた。
 ヴィヴィオは何も言わなかった。
 気にしていないのか。忘れているのか。それとも、何かに気付いているのか。
「ヴィヴィオ……?」
「なぁに、ママ」
「今日は、ユーノ君が来るはずだったよね」
「フェイトママから電話があったの」
「え」
「ユーノ君からの伝言で、行けなくなって御免だって」
 思わず、なのははヴィヴィオを抱きしめていた。
「ごめんね、ごめんね」
「どうしたの? ママ」
「ごめんね」
 なのはは泣いていた。
 諦めることができたはずだった。
 恨むことはないはずだった。
 自分にはヴィヴィオがいる、と思っていた。
 だけど、ヴィヴィオにもフェイトがいた。
 ヴィヴィオにもユーノがいた。
 自分は、二人をヴィヴィオから奪ってしまったのかも知れない。
「ごめんね」
 どうして泣いているの?
 何処か冷静な自分が、泣いている自分に尋ねている。
 ああ。
 なのはは気付いた。
 違う。
「ごめんね」
 私は、ヴィヴィオに謝っていたわけじゃない。私に謝っているんだ。
 ごめんね、なのは。
 私は、貴方からユーノを奪ってしまった。
 ごめんね。
 私は、貴方からフェイトを奪ってしまった。
 ごめんね。
 許すなんて、言えないよね。
 ごめんね。
 許さないよ。
 自分で自分を許さない。そして、そんな自分に謝る自分。
 ああ、なんて滑稽なんだろう。
 いっそ惨めなほど、滑稽だ。
 笑いが込み上げてくる。
 だけど、なのはは泣いていた。  
 
 
 
あとがき
 
 
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