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貴方が知りたい
 
 
 
 特に用事もなく、なつきと静留は歩いていた。
 学校からも、二人の自宅からも近いとは言えないこの辺りには、二人が目的地にするようなものは何もない。
 でも、二人は一緒に歩いていた。
 強いて言うのなら夕飯の買い物に出かけてきたのだけれど、二人がかりで行くような買い物ではないし、実際の所は二人きりの散歩を楽しむのが主だった。
 興に乗って歩いていると、いつの間にかこんな所まで来ていたのだ。
「こないなところがあったんやね」
「ああ。歩いてみるもんだな。いつもバイクや電車だったからな」
「ウチは、バイクでなつきにしっかり掴まってるんも好きやけど」
「静留……前から言おうと思っていたんだが、バイクに乗せると明らかに違うところを掴んでないか?」
「それは、なつきの気のせいどす」
「……気のせい…なのか?」
「ウチはちゃーんと、なつきの腰に手を回してます」
「嘘だ…時々、胸元に手が来てるじゃないか」
「それは……」
 静留は堂々と言う。
「ウチの手が滑ったんどす」
「あのなぁ」
「そしたら次からは、上やのうて下に手を滑らすことにしますけど?」
「待て待て!!」
 他愛のない冗談を交わしながら歩いてると、なつきが突然立ち止まった。
 角を曲がったところからこちらに歩いてくる人影になつきは目を止める。
「あ」
 なつきがそう口にするのと、ばったりと出会った相手がそう口にするのはほとんど同時だった。
 そして二人同時に嫌な顔。
(なんでこんなところで……)
 それを知ってか知らずか、静留がにこやかに会釈した。
「結城はん、こないなところで、奇遇やね」
「あ、ああ」
 気まずい様子で返事を返す奈緒。
 フフン、と鼻で笑うなつき。
「なんだ奈緒、挨拶もちゃんとできないのか」
「人のことは言えないんじゃない? 最初に挨拶をしたのは藤乃だと思うけど?」
「静留は私の分も挨拶をしてくれたんだ」
「なにそれ。そんな理屈が通ると思ってるの?」
「通るとも。静留と私は一心同体だからな」
 その言葉に小躍りするように喜ぶ静留。奈緒は本気で呆れた顔になっている。
「はあ? やだやだ。これだからマヨ女は。馬鹿なのは舌だけかと思ってたら、馬鹿なことまで言い始めちゃって」
 肩をすくめてニヤニヤと笑う奈緒に、なつきは猛然と食ってかかる。
「喧しい! キサマみたいな口だけ女よりよっぽどマシだ!」
「何言ってんのよ。アンタ、人のことは言えないでしょ? 口ばっかりってのはまさにアンタのことじゃない。いつもいつも立派なことを言う割りには失敗ばっかり。言っておくけど、アタシは自分で言ったことはちゃんと実行してるわよ? 誰かと違って」
「キサマはロクなことをやってないだろうがっ!」
 しばらく傍観していた静留が、苦笑気味に間に入る。
「まあまあ、なつき。そないにかっかしてたら、綺麗な顔が台無しなりますえ?」
「し、静留」
 なつきを手で制すると、静留は今度は奈緒に向き直った。
「結城はんも、そろそろお終いにしとき? 結城はんの口の悪さ、ウチはかいらしい思いますけど、物事には、程がありますからなぁ」
 かいらしい(可愛らしい)と言われて、絶句する奈緒。
「……藤乃、アンタそうやっていっつもはぐらかして…。そもそも、アンタが玖我を甘やかしすぎなんだよ」
「あら? もしかして、結城はんもウチに甘えたいんどすか? 結城はんやったら、ウチはいつでも大歓迎どすえ?」
「ば、馬鹿ッ!」
 舌鋒の向けどころを失って、奈緒は捨てぜりふを残してその場から離れていく。
「…しかし、アイツも本当に飽きないな」
 私にいったい何の恨みがあるんだ、等とブツブツ言いながらなつきは再び歩き始めた。
 その横に並ぶ静留は優しく笑っている。
「そやかて、結城はんらしいやないの。憎まれ口は結城はんの魅力の一つやと、ウチは思いますけどな」
「魅力? あれが?」
「なつきとはまた違って、結城はんは結城はんでかいらしおなごはんやもの」
 静留の二度目の「結城はんはかいらし」発言に、なつきは少々面白くない。
「静留、やけに奈緒のことを庇うんだな?」
「ウチも人のことは言えませんけれど、前に比べたら結城はんも丸うなったんやないの? 前は前で別のかいらしさがあったけど、今の結城はんのほうがウチは好きどす」
 好き、と言う言葉に、なつきは目の前が一瞬真っ赤に染まったような気がした。
「これも、ウチが言うんがおかしいんかも知れませんけれど……結城はんもお母はんのことが順調に進むようになってからは明るうなりましたもんな。もうすぐ退院や言う話も聞きますし……」
「なんでそんなに詳しいんだ、静留?」
「そうやろか?」
 元生徒会長の人脈で、嫌でも情報が入ってくる、と言いかけて、静留はハッと気付いた。
 見ると、なつきの顔は明らかに不機嫌なものになっている。
 まさか……
「なつき……もしかして、妬いてるん?」
 立ち止まるなつき。静留もつられて立ち止まる。
「ち、違うぞ、静留。どうして私が奈緒なんかに焼き餅を妬かなきゃいけないんだ! 私はただ、静留があんまり奈緒のことを庇うから…その……」
 静留はぽかんとした顔の後、笑い出す。
「なつき、それを焼き餅言いますんや」
 大きな声でこそないけれど、静留の笑いはしばらく止まらなかった。
「心配せんでもええよ、なつき」
「心配なんて…」
「確かに、ウチは結城はんのことも知りたいと思うたけど…」
 それは裏を返せば、奈緒のことを何も知らないと言うことだから。
「なつきのことなら、今のウチはようさん知ってますやろ?」
 意味深な、そして妖艶な笑み。
「なつきがどこをどうすれば歓ぶ、とか?」
 静留の腕がなつきの手に絡む。
「な? なつき」
 なつきは真っ赤になって、しかし腕を振り解こうとはしない。
「そしたら、そろそろ帰りましょうか?」
「なあ、静留?」
 帰途について少ししたところで、なつきがぶっきらぼうに突然言った。
「なんどす?」
「私だって、静留のことはたくさん知っているぞ」
「ほんまに?」
「当たり前だっ」
 だから、となつきは頬の赤いまま続ける。
「私たちはお互いのことをよく知っているんだからな」
 なつきが何を言いたいのかわからず、それでも静留はうんうんと頷いていた。
「だから、奈緒とは違うんだ、奈緒とは!」
 きょとんとした静留の顔を見てどう判断したのか、なつきは言葉を続ける。
「私は奈緒のことを知りたいと思ったけれど、それよりももっと静留のことを知りたいし、知っているんだからなっ」
 真っ赤な顔をさらに赤らめながら、なつきは一気呵成に言ってのける。
 少しの間、静留は呆けたようになつきを見つめていた。そして、笑う。
「そやね。ウチも一緒ですえ。なつきのこと、もっと知りたいし、今でもようさん知ってますもん」
 こんなところに黒子があることも。と言いつつ静留は、なつきの背筋に指を這わせる。
 馬鹿、と一言呟いて黙ってしまったなつきを、静留はクスクス笑いながら見つめていた。
 
 
あとがき
 
 
 
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