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添い寝
 
 
 いつものように舞衣と命は学食のテラス側でお弁当を広げていた。今日はたまたま、あおいと千絵はいない。
 二人きりのテーブルは何となく寂しくて、舞衣は相席の申し出を快く受け入れた。
「済まないな。今日はいつもより混んでいるらしい」
「あら、なつき。藤乃さん」
「なんだ。気付いてなかったのか」
「だって、相手を見て相席を断ったり受け入れたりしている訳じゃないもの」
「それは、鴇羽はんらしいなぁ。あら? また席にあぶれた人がいはるみたいやけど…。呼んでもええやろか、鴇羽はん?」
 静留の言葉に、これもまた快く頷く舞衣。
「ええ。お二人さえよければ、私と命は構いません」
「お、おい、静留…」
 なつきの慌て方に舞衣が眉をひそめていると…
「感謝します。今日の学生食堂の利用者は平均の二倍を上回っているようです」
「…こんにちは。鴇羽舞衣、美袋命、玖我なつき、藤乃静留」
 深優とアリッサだった。
 
「ふーん。そんなに美味しいのか?」
 命の目が輝いていた。
 アリッサは、やや苦笑気味に頷いている。
「うん。深優の作るシチューはとっても美味しいの」
「そんなに美味しいのか……それなら、私も食べてみたいな…」
「命、アンタ何でもかんでも食べたがるんじゃないの。アリッサちゃんも困ってるじゃない」
 舞衣がすかさず命を制止する。まったく、これでは命とアリッサ、どちらが子供かわかったものではない。
「でも、舞衣。アリッサがあんまり美味しい美味しいって言うから。誰だって食べたくなるぞ。な、なつき、静留?」
 あー、はいはい。と返事を誤魔化すなつき。そうしていると、アリッサが突然言った。
「…食べに来ますか?」
「え?」
「構いませんか? 深優」
 見上げるアリッサを、深優は微笑んで迎えた。
「ええ。私は構いません。作る量が増えるだけですから。それに、シチューの類は大量に作った方が美味しくなります」
「本当にいいのか?」
 命の目がさらに輝いた。
「お嬢様がこう仰っているのですから、私に異論はありません」
「それじゃあ、舞衣も…」
「こらっ、命、調子に乗らないの」
「ううん。大丈夫…だと思う。ねえ、深優?」
「はい。お嬢様。もしよろしければ、お二人も」
 深優の指名に慌てるなつき。静留のほうを見ると、
「まあ。そしたらせっかくやさかい、お呼ばれされなあきませんなぁ。なぁ、なつき?」
「あ、ああ、そうだな」
 
 
 
 
 雷音が轟いた。
 思わず、おお、と呟いて、奈緒は窓の外を見る。
 夜になってから降り出した雨は激しくなるばかりだ。傘を差して帰ったとしても濡れ鼠は避けられないだろう。
 半分は雨宿りのつもりで教会に立ち寄ったのに、これではもう外に出ることすら億劫になってしまう。
「今夜は、ここで寝るか……」
 現状で、奈緒の寝床は二カ所ある。
 一つは、前と同じく寮の部屋。現在では事実上瀬能あおいの一人部屋となっているが、名目としては未だに奈緒との相部屋と言うことになっている。奈緒が訪れればいつでもベッドは空くだろう。
 そしてもう一つはここ、教会のシスター部屋。
 シスター部屋は二つあり、シスター紫子がここに住んでいない今は、奈緒と深優がそれぞれ使っている。本来なら、深優はグリーア神父の使っていた部屋を与えられるのだが、シスター部屋より一回り広いそこは、深優がアリッサの部屋だと決めてしまった。
 とりあえず異存は誰にもなかったため、三人はそれぞれの部屋を専有している。
「…寝るとなれば、夕食をどうするか…」
 台所はあるはずだった。
 とは言っても、ここで常時生活しているのは深優とアリッサだけ。食料とは言っても、アリッサ一人に必要な分が置いてあるだけだろう。それに、朝と昼は学食が使えるのだ。食べるものがそれほど保存してあるとは思えない。
「…それにしても、カップラーメンの一つくらい…」
 奈緒は、溜息をついた。
 考えてみれば、あの深優がアリッサにカップラーメンを食べさせる? ない。絶対にあり得ないと断言できる。
 どうしようとか迷っていると、深優が部屋から出てくるところに行き当たった。
「深優。ちょっと聞きたいんだけど」
「結城奈緒、来ていたんですか。ちょうどいい。お嬢様を頼みます」
「ふーん。珍しいね。アンタがアリッサを置いて出て行くなんて」
「先ほどの落雷ですが、学園の山側に落ちたらしい。周囲に被害がないか調べて欲しいと、理事長からの電話がありました」
 確かに、深優ならこの雨の中でも平気だろう。何かあった場合でもすぐに対処できる。
「ついでに今夜はこの雨だから、こっちの部屋を使わせて貰うよ」
「了解しました」
「ああ、それから、何か食べるものはない?」
「厨房にシチューがあります。パンや米はありませんが、パスタがあります。自分で茹でてください」
「贅沢は言わないよ。上等上等」
「それでは、くれぐれもお嬢様のことをお忘れ無く」
「ん〜」
 奈緒は気軽に返事をした。
 アリッサなら面倒を起こすことはない。正直、時々舞衣に頼まれる命のお守りよりも数倍楽だ。言ってしまえば、何もしなくていいのだから。放っておけばアリッサは一人でじっとしていて、それは彼女には苦でないのだ。
「では」
「はい、ご苦労さん」
 一応、教会の扉まで深優を送ると、奈緒は早速厨房に入った。
 料理は苦手中の苦手だが、いくらなんでもパスタを茹でるくらいはできる。パスタソースはないけれど、茹で上がったパスタをシチューに入れればそれで充分だ。
 鍋を探して驚いた。そこにあるのは鍋というより寸胴だ。中を覗くと、驚くほど大量のシチューが当たり前のように入っていた。どう見てもアリッサ一人のための量ではない。
 かといって、ここで食事をするのはアリッサだけだ。カレーやシチューの類は大量に作るほど美味しくなるという話を聞いたことはあるが、だとしてもこれは一人用には多すぎる。異常と言っていいほどの量だ。
 首を傾げながらも、奈緒はシチューを温める。残っている量が多いので寸胴を火にかけるのは論外。一人前だけをレンジで温める。
 いい匂いがし始めるまでに、またもや落雷。それも一回や二回ではない。立て続けに数回、それもかなり大きい、あるいは近いのか。
 落雷の直撃を受けるとさすがの深優も拙いのではないだろうか。親しいというわけでないが、一応恩のある相手だ。最後の戦いに深優が参戦していなければどうなっていたことか。
 雷の轟音に少し不安になり始めたところに、アリッサが姿を見せる。
「…深優なら、用事で外に出たよ?」
 パジャマ姿のアリッサは何も言わず、半身をドアの陰から覗かせて、奈緒をじっと見ている。
「……アンタも食べる?」
 もともとはアリッサの食事だけど。
 アリッサは首を振る。そしてその位置からは動かない。
 なんだろう。奈緒は心の中で首を傾げた。自分がここにいることを今さら不思議がっているはずはない。夜になって突然部屋を使いに来るのは、今までにも良くあったことなのだ。
「……アンタ一体さぁ…」
 そこで雷の音が響き、奈緒は理解した。
 身を潜めて、ぎゅっと耳を押さえるアリッサ。どう見ても、雷を怖がっている。
 おいおい。と奈緒は心の中で突っ込んだ。
 アンタのチャイルドは衛星軌道上から「黄金の雷」を放つんだよ? 
 それを操るアンタがどうして雷が怖いのさ?
 アタシが蜘蛛を怖がったり、玖我が犬を怖がるようなものじゃない。それってあり得ないでしょ?
 それでも、事実アリッサはしゃがみ込んでいる。
 フォークを置くと、奈緒は席を立ってアリッサに近づいた。
「深優は、知らなかったの?」
 深優が知っていたなら、アリッサを置いて出ようとしないだろう。
 案の定、アリッサは首を振った。
「深優がいれば…怖くないもの…」
 ああ、なるほど。奈緒は頷いた。
 深優がいれば怖くない。ということは、深優はアリッサの脅える姿を知らないのだ。雷が怖いという事を知らないのだ。
 それにチャイルドのことを考えれば、アリッサが雷を怖がっていることなど想像もできないだろう。
「ほら、一緒に来な」
 テーブルに椅子を二つ並べなおして、隣に座るように促す。
「アタシが食べ終わったら、部屋まで送ってあげるから。ここでおとなしく、ミルクでも飲んでなさい」
「…うん」
 レンジで暖めたミルクから、加熱でできた膜を取り除いてテーブルに置くと、アリッサは奈緒を見上げて微笑む。
「ありがとう、シスター奈緒」
「……アタシは別に……」
 言いかけて奈緒は口を閉じた。別に、お礼に反論することもないのだ。
「ゆっくり飲みな」
 中断していた食事を再開する。
 食事を終えると、それを見計らうかのようにアリッサがホットミルクを飲み干したので、奈緒は思わず笑ってしまった。
「よし。それじゃあ、行こうか」
「うん」
 立ち上がり、食器を厨房のシンクに沈めると、アリッサの部屋へ向かう。
 洗面所の前を通りかかったところで、アリッサが奈緒のシャツの裾を引いた。
「なに? トイレ?」
 奈緒が立ち止まると、困ったような顔でアリッサが言う。
「寝る前には磨きをしないと、深優に怒られるの」
 ただ甘いだけではなく、躾に関しては深優もちゃんとやっているらしい。
「そう。それじゃあ待っていてあげるから、早く磨いてきな」
「シスター奈緒は?」
「あ…。そうか、そうだね」
 二人で並んで洗面所。
 何をしているんだろう、アタシは…。奈緒は深く考えないことにした。
 歯を磨いて、口をゆすいで。コップの水をガラガラ…ペッ。
 今度こそ部屋へ。アリッサの部屋へ。
 雷の音が聞こえるたびに、アリッサは奈緒のシャツをギュッと握りしめる。
「ほらほら。怖くないから。そんなに強く握ると歩きづらいから」
「ごめんなさい…」
「あ、いや、別にね。握るのはいいんだけど…。あんまり強く握るとね…うん」
 なんだかやりにくいことこの上ない奈緒。それでも、よたよたとアリッサの部屋までたどり着く。
「さあ、ついたよ。部屋までは雷も来ないからね。お休み」
 離さない。
「アリッサ?」
 アリッサは奈緒を離さない。
「……アリッサ?」
 アリッサは、無言で奈緒を見上げている。潤んだ涙目に、奈緒は思わず鼓動が早くなった。
「……怖いの……雷」
 奈緒はしゃがみ込むと、アリッサの頭に手を乗せる。
「大丈夫。アンタは強い子だもの。雷なんて、向こうからに逃げていくよ」
「でも……」
 泣きそうなアリッサの顔に、奈緒は心の中で大きな溜息をついた。
 自分の柄じゃない。それは判っているけれど。
 子供の泣き顔というのは、見たくない。
「…それじゃあ、一緒に寝る?」
 奈緒としては、ここまで言えばアリッサも諦めるだろうと思ったのだけれど。
 アリッサは、無言で頷いた。心無しか頬が赤い。といってもこれは照れていると言うよりも、恐がりの自分を恥ずかしがっているのだろうけど。
 奈緒は少し慌てたけれど、言ってしまったものは仕方がない。
 まさか、一度は敵として戦った子と添い寝することになるなんて。
 それはまあ、深優と一緒にシスターをやったり、教会に居着いてみたりはしていたけれど。だけど、ここまで仲が良くなるとは思ってなかった。
 それが悪いこととは思えない。だから、それでいいと思う。
「わかった。それじゃあ、一緒に寝ようか」
 アリッサの背中を押すようにして、部屋に入る。思った通りの簡素な部屋。
 アリッサはそそくさとベッドに入って、奈緒の方を見つめている。
「うん、わかってる。逃げやしないよ」
 雷が鳴って、アリッサは目を閉じた。
「ほら、もう大丈夫」
 奈緒がアリッサの肩に手を置いて、横になった。
「ここにいてあげるから、安心して寝ていいよ」
 ふと、疑問が。
「深優も、こうやって添い寝するの?」
「ううん。深優はいつもそこに座っているの」
 アリッサの指さす方向に首を向けると、ベッドの脇に椅子が一つ置いてある。
「深優は、アリッサが眠ってしまうまでずっとそこにいてくれるの」
「あ、それじゃあ、アタシもその方がいいね」
 起きあがろうとする奈緒を小さな手が止めた。
「いいの。シスター奈緒、ここにいて」
 そう言われても。どうしても深優に遠慮してしまう。
「お願い」
 潤んだ目で言われては、仕方がない。奈緒は自分にそう言い聞かせると、体勢を変えた。横になったまま、アリッサと向かい合う姿勢。
「わかった。ここにいてあげるから」
「うん」
 雷の音で、アリッサは奈緒にしがみつく。
「大丈夫大丈夫。怖くないよ」
「うん……」
 それでも、アリッサのしがみつく力は弱くならない。
「大丈夫だよ…」
 奈緒は、アリッサの頬に手を置く。
「安心して、寝なさい」
 
 
 
 奈緒は殺気で目が覚めた。
 目の前にはアリッサ。問題ない。
 そして、殺気の元は……
「何をしているのですか。結城奈緒…」
 深優がいる。心なしか、語尾が震えているような気がする。
「何って。アリッサに添い寝……。まさかアンタ、妬いてるの?」
「いいから早くお嬢様のベッドから出なさい!」
 嫉妬だ。紛れもない嫉妬だ。
「わかったわよ。そんなに急かさないで」
「早く出なさい。部屋からも」
 はいはい、と言いかけて奈緒はギョッとした。
 深優の左腕がブレードに変化している。
「……あの…深優? それって…」
「早く出なさい。お嬢様の部屋を汚すわけにはいきません」
 何をする気だ。
「…深優。何か誤解してない?」
「いいから早く。お嬢様と同衾の罪、万死に値します」
「あの、アタシはアリッサが雷を怖がるから……」
「私だって、まだなのに……」
「深優? 何か言った?」
「何も言っていません。いいから早く外に出なさい」
「外に出たら殺されそうな気がするんだけど?」
「良い勘ですね、結城奈緒」
「そんなの褒められても嬉しくないわよっ!」
 その時、礼拝堂の方から声が聞こえた。
「おはようっ。深優さん、アリッサちゃん?」
「おーい、深優!」
 深優の注意が逸れた隙に走り出す奈緒。とりあえず声の主の所まで行けば何とかなる。
「鴇羽! 命!」
「あれ? 奈緒ちゃん?」
「おお、奈緒もいたのか」
「何だか知らないけど助けて!」
「はいっ?」
 驚く舞衣。命は何事かを察知したようで、背負っていた竹刀を構える。因みにこの竹刀は、ミロクを失ってから手元の寂しい命がようやく見つけた逸品だ。ただの竹刀ではない。
 奈緒を追っていた深優が、二人の姿を認めて立ち止まる。
「鴇羽舞衣、美袋命。今朝の所は引き取ってほしい。申し訳ありませんが、急用が生じてしまいました」
 舞衣と命、二人から少し離れて付いてきていた二人組が、何事かと急ぎ足に近づいてきた。
「なんや、朝も早うから騒がしいどすなぁ」
「朝っぱらから何ドタバタやってるんだ? 奈緒」
「藤乃? 玖我? あー、悔しいけど、アンタらに会えて嬉しいと思ったのは初めてだよ…」
「藤乃静留、玖我なつき。貴方達もです。今朝はお引き取り下さい」
「どしたん? 深優はん、いけずやわぁ。せっかく、アリッサちゃんにお呼ばれしてきたいうのに…」
「お呼ばれ?」
 奈緒は命を見た。そして、思い出す。異常と言っていいほど大量にあったシチューのことを
「そうだ。アリッサが、深優の作るシチューは美味しいと言っていたぞ。だから私は楽しみだったんだ」
「命、だからって昨日の晩御飯まで抜くのはやりすぎだと思うわよ」
 舞衣が呆れたように笑っている。
 奈緒は悟った。厨房の大量のシチューは、今朝の朝食でここにいるメンバーを招くためのものだったのだ。
 奈緒は手早く、自分でも凄いと思う早口で状況を説明する。何しろ背後では深優がいつブレードを展開させるか判らないのだ。今は客の手前、隠してはいるけれど。
「つまり、結城はんが深優はんから、アリッサちゃんを寝取りはったんやね?」
「違うっ! アンタは耳までぶぶ漬けか!」
「えーと、藤乃さん、それじゃあまとまる話もまとまらなくなるような…」
「まあ、別にいいんじゃないか? 深優」
 なつきが珍しく奈緒に助け船を出す。
「添い寝くらいなら。別に何かしでかした訳じゃなし。そもそもアリッサがせがんだんだろう? 添い寝くらいいいじゃないか」
「そうだそうだ。私だって、舞衣と一緒に寝ることが多いぞ」
「アンタの場合は、勝手に私の布団に入ってくるんでしょうが」
「だって、舞衣のはフカフカして気持ちいいもの」
「少しは自重しなさい」
 命と舞衣のやりとりを眺めながら、なつきが続ける。
「そもそも深優なら、アリッサと添い寝くらいは普段しているんだろう?」
 深優が一歩下がる。
 おや? と何故か一歩進む静留。この手の話には異常に食い付きがいい。
「深優はん。添い寝もしてはらへんの?」
 さらに一歩下がる深優。
「わ、私は…」
 はあ、とわざとらしい溜息の静留。
「アリッサちゃんも可哀相やわ…添い寝もしてもらえへんなんて……」
「どういう意味ですか、藤乃静留」
「愛しい人…大好きな人に添い寝したい、いつも一緒におりたいいうんは自然なことと違います? ましてや、アリッサちゃんはまだ小さいお子やもの。深優はんにえろう甘えたい思うても、誰にも咎められまへんえ?」
「…そういうものなのですか?」
 やや狼狽しているようにも見える深優に、一同は頷いた。
「うーん。そうよね。なんだかんだ言っても、アリッサちゃんはまだまだ小学生だものねぇ。確かに、中学生にもなってこうだとちょっと疑問だけど…」
 舞衣が言うと、命があることに気付いた。
「ま、舞衣。どうして私を指さしているんだっ!」
「ふむ、それは言われても仕方ないだろう」
「なつきまで!」
 ぷーっと膨れる命に、クスクス笑う静留。
「そないに気にすることはありませんえ。ウチかてまだまだお子様やさかい、なつきとは添い寝しとりますもの」
「添い寝……アレは添い寝だったのか…」
 何かを忘れようとするように首を振るなつき。奈緒はそれを遠い眼差しで見ている。
「朝っぱらから何言い出すんだよ、アンタら」
「あー、相変わらずなのね、なつきと藤乃さん…」
「舞衣、その可哀相な者を見る目はなんだ。どうしてそんな目で私を見ているんだ!」
 がやがやと騒ぎ始める一同を尻目に、深優は沈思黙考を始めていた。
「添い寝……添い寝……。添い寝か…」
 深優は拳を握りしめていた。
「そうか。私はお嬢様に添い寝をしてもいいんですね」
 一同の視線が深優に集まった。
「……深優?」
「添い寝というのは、どうすればいいのですか?」
 深優は真顔だった。
「いや、どうするも何も…。横で一緒に寝るだけのことじゃない」
「それだけなのですか?」
 嘘だと思うならここにいる他の連中に聞いてみな、と言いかけて奈緒は絶句する。
 鴇羽の添い寝……命に抱きつかれる。というか胸を枕にされている。
 命の添い寝……鴇羽の胸を枕にしている。というか思いっきり乳にしがみついている。
 玖我の添い寝……つーか被害者。
 藤乃の添い寝……論外。犯罪。
 ごめんなさい。まともに添い寝のできる人がここにはいないような気がします。
「……ああ。一緒に寝るだけでいいんだよ」
 間違ってもここにいる連中に詳細を聞こうとしないように。
「簡単なことのように聞こえますね」
 そうか。簡単なことなんだ。普通は。
「簡単なことだよ」
「どうしたの?」
 深優が一番最初に、遅れて残りの者が声の主に目を向ける。
「…おはようございます」
 アリッサが起きてきたのだ。
「お嬢様。お目覚めになりましたか」
「うん。あ、そうか。今日は皆で朝御飯を食べるのね」
「はい。そうですよ、お嬢様」
 深優はアリッサの手を取った。
「あ、そうだ、アリッサ」
 奈緒は、深優とは反対側のアリッサの横に回りこむ。
「今日のお昼寝の時間だけど…」
「うん」
「深優が一緒にお昼寝したいって」
 アリッサが驚いた表情で深優を見上げた。
「シスター奈緒っ」
 慌てる深優に、奈緒はニヤリと笑ってみせる。
「アリッサはどう思う?」
「うん……アリッサ、嬉しい」
 アリッサの頬が、赤く染まっていく。
「それじゃあ、お昼寝は深優と添い寝ね」
「はい、お嬢様」
 立ち止まってしまった深優。奈緒はアリッサを連れて奥へと入っていく。
 深優は振り向いた。
 ニヤニヤと笑っている四人の姿がある。
「良かったわねぇ、深優」
「アリッサは深優のことが好きなんだな」
「お似合いどすな、お二人さん」
「おめでとう。と言ったほうがいいのか?」
 何も言えず、深優はアリッサと奈緒の後を追う。そして、礼拝堂から中へ入るドアの前で立ち止まり、
「…シチューを温めます。貴方たちは朝食を食べに来たのでしょう?」
「勿論」
 四人の返事と笑い声が重なった。
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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