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POWERPUFFGIRLS
with
RAINBOWDRAGON
 
 
 
 
 朝からのあいにくの雨もようやくやみ、ポーキーオークス幼稚園ではお庭で遊ぶ時間。
 ふとバブルスが空を見上げると、雲が笑っていた。
「うふふ。こんにちは、雲さん」
 バブルスはにっこりと微笑みを返す。それに気づいたブロッサムも空を見上げる。
「面白い形の雲ね」
 珍しく、バターカップもその横に並んだ。
「なんか龍の顔みたいだ」
「龍が笑ってるのよ」二人を見比べてくすくす笑うバブルス。
「あのね、バブルス。龍って言うのは想像上の動物で、本当にはいないのよ」
 ふふん、と得意げなブロッサム。
「いるもん。もぉ、ブロッサムはいつもそんなことばっかり」
「本当、アンタってば夢がない」ここぞとばかりにバターカップはブロッサムに突っかかる。
「だって動物図鑑には載ってないもの」お澄まし顔のブロッサム。
「なにさ、モジョだって、アメーバボーイズだってファジーだって“カレ”だって、図鑑には載ってないわよ」
「ついでに私たちも載ってないよ」
「ああ、あのねバブルス。だって私たちは、パワーパフガールズ。世界で私たちだけだもの」
「ほらみなよ。図鑑だって完璧じゃないんだから」
 空の様子に気づくバブルス。きょとんとした顔でじっと空を見つめている。
 その顔が徐々に大きく笑み崩れていく。
「どうしたの? バブルス」
 その様子に気づいた二人がバブルスの視線を追い、
「うわぉおおお!!」大喜びのバターカップ。
「えええええ!!!」驚愕のブロッサム。
 龍の形をした雲が急降下してきた。いや、雲の形の龍ではない。紛れもなく本物の龍だ。
「きゃあああ」
 文字通り飛び上がるバブルス。
 龍は、まるでバブルスを待ち受けるかのように羽ばたいて滞空する。
「こんにちは、龍さん。私バブルス。貴方は?」
 唸る龍。唸りは凶暴なものではない。それはすぐにわかった。
「言葉が喋れないのね。じゃあ貴方の名前は…」
 太陽をバックにした龍の姿に目を細めるバブルス。雨上がりの空には虹が出ていて、龍を囲んでいるようにも見える。
「貴方の名前はレインボウよ」
 喜んで唸る龍。
 
 レインボウはどうもこの世界の生き物ではないようだった。
 レインボウは伝説の龍と同じように羽ばたいて空を飛ぶ。
 唸りをあげる。
 炎を吐く(バターカップの髪の毛がちょっと焦げた)。
 レインボウはずっとこの世界にいるわけではなかった。
 虹のような光を放ち、レインボウは消える。
 虹のような光が現れると、レインボウがそこにいる。
 ユートニウム博士の観測によると、どうやら虹のような光は別世界との扉になっているらしい。
 しかし、それはガールズたちにとってはどうでもいいことだった。
 大事なことは一つ。とても大事なこともただ一つ。
 大事なこと「レインボウのお家は別の世界にある」
 とても大事なこと「レインボウはお友達」
 それで充分。
 ブロッサムと空を駆けめぐるレインボウ。
 バターカップと取っ組み合うレインボウ。
 バブルスを乗せて羽ばたくレインボウ。
 ガールズは毎日のようにレインボウと遊んでいた。
 夜になると、次元の扉から自分の世界へと帰っていくレインボウ。
 タウンズヴィルの住人たちも、レインボウの姿に徐々に慣れていった。一週間もしない内に、大空でガールズたちと戯れるレインボウの姿は当たり前のものとなった。
 ある日、いつものようにレインボウが大空に現れた。
 次元の裂け目が発生したとき、運悪くその近くに飛行機が飛んでいた。
 飛行機はすんでの所でガールズに救われて墜落を免れた。ガールズは、パイロットに事態を説明するとレインボウの代わりに謝罪した。
 だが、それがいけなかった。
 墜落しそうになった飛行機は、別名“エアフォースワン”。大統領専用機である。
 そして、大統領は、レインボウの作る次元の裂け目が危険なものだと判断してしまった。
 
 調査は迅速に終わった。
 事件の裂け目を作っているのはレインボウ自身。つまり、危険なのはレインボウ。
 結論もすぐに出た。
 排除せよ。
 
 いつものように元気よく幼稚園へ向かおうとするガールズ。
 しかし、三人の足がぴたりと止まる。
 呆然とするブロッサム。
 バブルスとバターカップもその両隣で呆然と空を見上げている。
「何……これ?」
「警察…じゃないよね」
「軍隊?」
 空には攻撃ヘリ、戦闘機、爆撃機、攻撃機、哨戒機の編隊。
 地上には戦車、対空車両、自走砲、装甲車、兵員輸送車、歩兵、工兵、戦車兵、狙撃兵、機甲兵、砲兵、ミサイル部隊の群れ。
 海には戦艦、駆逐艦、ミサイル艦、イージス艦、潜水艦、護衛艦、掃討艇、輸送艦、空母、揚襲艦が所狭しと。
「君たちがパワーパフガールズだね」
 代表者らしき将軍が、つかつかと三人に歩み寄ってくる。
「君たちに危害を加えるつもりはない。少し離れたところにいるといい。なんなら、装甲車の中に入ってもらっていてもいいよ」
「将軍さん。いったい何が起こるんですか?」
「悪い奴らなら、アタシたちがビシバシッとやっつけちゃうよ」
「ねえねえ。私、おっきなお船に乗りたいの」
「いいから少し離れていなさい」
 三人は追い出されるようにその場を後にした。
「何があるんだろうね」
「練習かな」
「ピクニックよ、みんなで」
「ピクニックに戦車なんて乗ってこないわよ。演習よ、演習」
「それじゃあ演習の後にピクニックするのよ」
 結論が出るわけもなく、三人は幼稚園に入り、いつものように授業が始まった。
 お昼の前、ランチタイムの前に悲鳴が聞こえた。
 他の誰でもない、レインボウの悲鳴だ。
 慌てて飛び出す三人。
 声のするほうへ全速力で飛んでいく。
 悲鳴の原因を発見して息をのむ三人。
「なに、これ!」
 朝見かけた軍隊が、レインボウを攻撃している!
「やめろーーーー!」
「逃げてー、レインボウ」
「自分の世界に戻るのよ!」
 三人の姿を見て唸るレインボウ。
「駄目」バブルスがその唸りを理解した。
「怪我してるから次元の扉が開けないって言ってる」
「こうなったら突撃だよ!」
 バブルスとバターカップが飛び込んでいく。
 辺りを見回したブロッサムは、今朝話した将軍を見つけて飛んでいく。
「将軍さん、攻撃をやめさせて」
「やあ、ガールズ。なんだって?」
「どうしてレインボウを攻撃するの?」
「危険だからだよ。さあ、あの二人にもすぐにどくように言っておくれ」
「レインボウは何も悪いことはしてないわ!」
「次元の裂け目は危険なんだ。エアフォースワンが墜落しそうになったことは君たちも知っているだろう。大統領はお怒りだよ」
「レインボウはわざとやった訳じゃないわ!」
「それでも危険なものは危険なんだ。さあ、早くあの二人…バブルスとバターカップたったかな。あの二人を避難させるんだ。危ないよ」
 将軍をキッとにらむと、ブロッサムは二人を追って飛んでいく。
 バターカップは、近づく戦闘機を捕まえては振り回している。
 バブルスは、超音波で戦闘ヘリを牽制していた。
「二人とも、軍隊の人に怪我させちゃ駄目よ」
「わかってるよ、ブロッサム。でも、きりがないよ、これじゃあ」
「ミサイルが来るよ!」
 バブルスの悲鳴に、三人はミサイルを弾いたり受け止めたり破壊したりする。人が乗っていないものなら、壊すのは簡単だ。
 しかし、その隙に再びヘリコプター部隊が接近してくる。
 レインボウは身を固く縮めるだけで反撃は全くしていない。
「ああ、もう! うっとうしい!」
「駄目よ、バターカップ。やけにならないで」
「ええい。もぉ、どうすりゃいいのさっ!」
「仕方ないわ。一旦逃げましょ」
 三人はレインボウを庇いながら猛スピードで逃げ出した。
 
「とりあえずここまで来れば一休みできそうね」
 タウンズヴィルの南、山の麓の大洞窟。
「これからどうするの?」
「決まってんじゃない! レインボウをいじめるヤツは片っ端からぶっ飛ばしてやるのよ!」
「相手は大統領よ、バターカップ。それに、悪人でもない普通の人たちと戦うなんて私たちにはできないわ」
「でもブロッサム。あの人たちはレインボウをいじめる悪い人よ」
「それはそうなんだけど……」
 軍人は命令を守っているだけで、別に自分の意志でレインボウを攻撃しているわけではない。ブロッサムはそういった意味のことを言いたいのだが、二人にうまく説明できる言葉が見つからない。
「でも、あの人たちを傷つけたりしちゃ駄目よ」
 戦闘機からパイロットを引きずり出すことはできる。
 戦車から乗組員を引きずり出すこともできる。
 潜水艦を持ち上げて、中身を振り落とすこともできる。
 しかしそれも、一つ一つバラバラになっていればの話だ。同時にたくさんの相手にそんなことをすることはできない。レインボウを守りながらだとなおさらだ。
「ブロッサム、外にいっぱい飛行機や戦車が来てるよ」
「ええ。どうしてばれちゃったの?」
 ガールズの飛んでいった方向と地形を照らし合わせ、レインボウが隠れることのできる場所を探した結果、軍はこの辺りの地形を割り出したのだが、今のガールズにはそれがわからない。
「いいかな」
 声が聞こえた。
 あの将軍のものだ。
「君たちが無闇に暴力をふるったりしないと言うのは博士から聞いている。だから話し合いがしたい」
 姿が見え始めた。たった一人でこちらに近づいてきている。
「どうしてレインボウをいじめるの?」
 バブルスの問いに将軍は首を振る。
「いじめている訳じゃない。その龍はその…危険なんだ。龍の作る次元の扉は危険すぎる」
「でも…」
「万が一、普通の旅客機が巻き込まれたらどうするかな? それこそ大変なことにになってしまう」
「私たちが助けます」
「いつも間に合うとは限らない」
「でも、レインボウはわざとやっている訳じゃないんです」
「そうかもしれない。だが危険に代わりはない。それに、私たちは大統領から特別命令を受けているんだ」
「そんな…」
「だから、ここから早く出るんだ。君たちを巻き込みたくはない。いいか、巻き込みたくないと言うのは、巻き込むことができないという意味ではないぞ」
 このままだと、ガールズも一緒に攻撃されるという意味だ。
「三人で話し合ってもいいですか?」
「五分だ。それだけは待ってあげよう」
 
 レインボウの傷はそう簡単には治らない。今のままでは元の世界に帰ることすらできない。しかし、ここにいればこのまま攻撃を待つだけだ。
 バターカップが叫んだ。
「もういい。ブロッサム、もういいわよ。バットマンだって、スーパーマンだって、キャップ(キャプテンアメリカ)も、X−MENも、それにアンタの大好きなワンダーウーマンだって、相手が悪いことしたときは、偉い人相手でも戦うのよ!」
「でも大統領と戦ったヒーローなんていないよ」
「でも、そうなると私たちが悪人になっちゃうわよ」
 それだけは嫌だ。
 生まれたばかりの頃の嫌な思い出が頭をよぎる。 
 タウンズヴィルのみんなに疎んじられて、誤解とはいえ悪党扱いされた日々。(映画版参照)
「だからってレインボウ見捨てることなんてアタシにはできないっ! あたし一人でもレインボウを守るからねっ!」
「バターカップの言うとおり。私だってレインボウ攻撃する人なんか許さない!」
「私たちが悪い子になっちゃったら、博士が悲しむもの」
「聞こえるかい、ガールズ」
 予想もしなかった声に振り返るブロッサム。
「博士?」
 洞窟の入り口のほうから、兵士に伴われた博士が歩いてくる。
「君たちの説得を頼まれてね。事情は全て聞かされたよ」
 かちゃり、と金属音。よくみると博士は手錠をはめられている。
 顔を見合わせるバブルスとバターカップ。
「ガールズ。僕はうれしいよ」
 突然、ユートニウムは早口でしゃべり出した。
「いいか、ガールズ。僕が悲しむのは、君たちがレインボウのために戦うことじゃない。僕が悲しむとすれば、それは君たちが大事な友達を見捨てようとするときだ。僕のことは気にするな。君たちは君たちの信じる…おい、こら何をする。離せ…」
 とぎれる声。兵士がユートニウムを押さえつけている。
「博士ーーーっ!」
 入れ替わるように再び姿を現す将軍。
「結論は出たかな」
「博士に何をしたの!」
「何もしていないよ。今のところは…」
 将軍は言いながら息苦しさを覚えていた。
「私に命令を遂行させて欲しい。頼むよ、ガールズ」
「絶対嫌!」
「レインボウは大切なお友達よ!」
「次元の扉のことなら、きっと博士が解決してくれます!」
 ユートニウムがもがくと、一瞬、口元が自由になる。
「将軍! 貴方は子供を泣かすために軍人になったんですか!」
 銃を突きつけられたかのようにぎくりと硬直する将軍。
 その目が、もう一度、今初めて見る相手のようにガールズを見る。
 泣いているバブルス。
 ブロッサムとバターカップは自分をにらみつけている。しかし、二人とも涙目で今にも泣き出しそうだ。
 ユートニウムの言葉が、背中に突き刺さったナイフのように響く。
 …私は、なんで将軍になったんだっけ? 
 …大統領の命令を守るため?
 いいや。違う。確かに違う。
 …軍隊ってのは、悪いヤツから国を守るためのもんだ。
 なんでこんな簡単なことを忘れてしまっていたのだろう?
 思い出しさえすれば、あとは簡単な話だ。
 しかし、大統領命令が……。
 レインボウがかすかに唸った。
「ねえねえ。レインボウがもうお家に帰れるって言っているよ」
「今日は早く帰った方がいいよ。後はアタシたちがなんとか…」
 バターカップの言葉を遮る将軍。
「待ってくれ」
「将軍! まだレインボウを…」
「待ってくれガールズ。大人は君たちと違って時々、ひどく簡単なことを何故だが間違える。だが、その埋め合わせをする機会を私に与えてくれないか?」
 なにを今更、と食ってかかろうとするバターカップを宥めるブロッサム。
 軽く頭を下げる将軍。
「私たちには大統領からの直属命令が下っている。それを無視することはできない。だが、次元の裂け目さえなくなれば、なんとかいいわけはできるし、嘘の報告もできるだろう。その龍…レインボウは、この洞窟の中に裂け目を作って出入りすることはできんのかね?」
 レインボウは唸った。
「できるかもしれないけど、やったことがないからわからないって言ってるよ」
 バブルスの通訳にうなずく将軍。
「もしそれができるなら、話は解決だ」
「できなかったら駄目なの?」
 不安そうなブロッサム。
「多分大丈夫」
 兵士から解き放たれたユートニウムが、将軍の前に立つ。
「タイムゲートの応用で何とかなると思うよ。ただ、かなり大きな扉を作らなきゃならないけど……手伝ってもらえます?」
 将軍(そして後ろの兵士たちも)は喜んでうなずいた。
 
「将軍…大統領は龍を始末した証拠をほしがっていると思いますよ?」
 洞窟からやや離れたところで将軍の秘書は心配そうに言った。
「逃がしたと報告するさ。もう二度とこっちの世界にはこないと言えば、向こうの世界まで追いかける根性は彼にはないだろうさ」
「しかし」
「もっとも…」将軍はレインボウと一緒に喜んでいるガールズを指で示した。
「彼女たちの泣き顔がもう一度見たいというのなら、話は別だが」
「将軍」秘書は心外そうに言った。
「私が何年貴方の秘書をやっていると?」
 
 
 
 
 最初の頃と違って毎日ということはなくなったが、今でもレインボウは遊びに来る。
 ガールズの新しい、そして大切な友人。
 さらに時々、レインボウには身体の大きな老人が乗っているときがある。
 彼もまた、ガールズの新しい友人だ。
 彼は辞表を出すまでは、将軍とも呼ばれていた。
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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