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雛苺の恩返し
 
 
 
「のりはいつも美味しいご飯を作ってくれるの。だからヒナもお返しするの!」
「それはいい心がけね、雛苺」
 真紅の言葉にえへんと胸を張る雛苺。翠星石はいつものように鼻で笑っている。
「チビチビの勝手にするですよ。翠星石には関係のないことですぅ」
「関係ないということはないと思うのだけど。貴方だって、のりの作ったご飯を食べているのではなくて? 翠星石」
「そ、それじゃあ、真紅だって一緒ですよ? のりの作ったご飯を食べているです。真紅もチビチビと一緒にお返しするですか?」
「あら、これは雛苺の言い出した事だわ。私が手を貸すようなことではないわ? それに、のりはジュンの関係者で、ジュンは私の下僕だもの。私の世話をするのは当然よ」
「…面倒くさがっているですね?」
「さあ、急がないとくんくん探偵が始まってしまうわ。こんな時にジュンはどこに行ってしまったのかしら?」
「誤魔化しやがったですね?」
 ジュンの名前を呼びながら真紅はそそくさと行ってしまう。後には、まだ胸を張り続けている雛苺と、ジト目の翠星石だけが残された。
「…チビチビはいつまで胸を張っているですか」
「ヒナ、えらいの! のりにお返しするの!」
「はぁ、好きにするです。翠星石はこれ以上つきあってられねぇです。チビいちごはせいぜい頑張るですよ」
「うん、がんばるのっ!」
 翠星石も行ってしまい、雛苺一人がジュンの部屋に残される。
「ヒナ、頑張るの」
 辺りをキョロキョロと伺い、誰もいないことを確認すると、ジュンの机に近づく。
「うふふ、こうすると、きっとのりは喜ぶの」
 机の引き出しを開ける。
「ここがぁ、ジュンの隠し場所なの。ヒナは知っているの」
 別に隠し場所ではない。単に小物を入れてあるだけ。そもそも、ドール達が勝手に弄くり回すので隠し場所などあり得ない。
 
 くんくんがトリックを暴くと、喝采が巻き起こる。
「さすがだわ、くんくん」
「うん。これは思いつかなかった。まさか、こんなどんでん返しだとは」
「ジュン君、残念。外れちゃったわね」
「チビ人間の考えることなんて、その程度ですぅ。翠星石には最初からちゃーんとわかっていたですよ」
「嘘つけ!」
「翠星石を嘘つき呼ばわりするですか! チビ人間の分際で!」
「だいたい、わかってたんなら、先に言えよ!」
「ふ、ふん。先に言ったらおめえ達の楽しみが無くなってしまうから、優しい翠星石は黙っていてやったのですよ!」
「まだ言うか」
「あれ、そういえば、ヒナちゃんは?」
「あ、そういえば、いないな。お前ら、一緒にいたんじゃなかったのか?」
「雛苺なら、部屋にいるはずだわ」
「なんで…、あ、またお前が苛めたんだろ」
 ジュンの視線に気付いた翠星石が飛び上がる。
「なーんで翠星石のせいにするですぅ!」
「うるさい。お前は蒼星石の爪の垢でも煎じて飲んでろ!」
「ドールには垢なんてバッチイものはないのです!」
 二人の言い争いを余所に、のりは真紅に雛苺不在の理由をそっと尋ねた。
 真紅は、雛苺の言葉を正直に伝える。隠してもあまり意味はない。のりなら、隠しても隠さなくても同じくらいに喜ぶだろうと思ったからだ。
「まあ、ヒナちゃんが? うふっ、楽しみだわ」
 
 夕食の時間に、事件は起こった。
 とてとてと走ってくる雛苺の姿に、真紅が驚いて椅子から飛び降りる。
「雛苺、どうしたの? その恰好は?」
「チビ苺がどうかしたですか?」
 上半身だけで振り向いた翠星石も、雛苺の姿を見て固まってしまう。
「どうしたですか、チビチビ?」
「あらっ。本当だ。ヒナちゃん、どうしたの?」
 三人の言葉に、ジュンも目をやる。ところがジュンには、特に変化があるようには見えない。
「別に何も変わってないじゃないか」
「よく見なさい、ジュン」
「こんな簡単なことにも気がつかないとは、さすがはチビ人間、鈍感ですぅ」
「なにがだよっ! 第一、どう見ても…」
 そこでようやくジュンは雛苺の異変に気付いた。
「素足?」
 いつもなら見えているはずのドロワーズの裾が見えない。
 素足、というか球体関節が見えている。
「うわーっ!」
 そのとき、二階からの突然の悲鳴。
「今の声は?」
「蒼星石ですぅ!」
 ドタバタと、彼女にしてはとても珍しい効果音と共に、階段を駆け下りて現れる蒼星石。
「ジュン君! これは一体どういうことっ!?」
 蒼星石が握りしめているのは、どうみても雛苺のドロワーズ。
「なんでこんな物が、ジュン君の机の中にあったのさ!」
 ジュンの部屋の開きっぱなしだった窓から入った蒼星石は、机の引き出しからはみだしている妙な布きれを見つけた。それが雛苺のドロワーズだったのだ。
「どういうこと?」
 全員の目がジュンに集中した瞬間、雛苺が嬉しそうに叫んだ。
「ジュンが盗ったのぉ!」
 その瞬間、空気が凍りついた。
「………なんで、僕が…」
「そう、ジュンが…」
「待て、真紅。僕は知らないぞ」
「チビ人間、やっちまったですか…」
「翠星石! 僕は無実だ!」
「ジュン君……見損なったよ…」
「誤解だ、蒼星石!」
「ジュン君、お姉ちゃんは嬉しいの」
「え? 今、のりはなんと言ったの?」
「のりもおかしいですぅ」
「うふふ、のりも喜んでくれたのぉ!」
 あら? と言う顔で雛苺を見つめる真紅。
「雛苺、貴方もしかして…」
 
「のりがね、心配してたの」
 真紅は雛苺を物置まで連れて行くと、ゆっくりと話を聞いていた。
「ジュン君、お年頃になってもお姉ちゃんの下着を盗ったりしないし、心配だわ」
 いつかの、のりの言葉を雛苺がしっかり聞いていたのだ。
 下着を盗らないジュンが心配 → 下着を盗ったら心配じゃない → ジュンが下着を盗ったらのりが喜ぶ
 雛苺はそう考えたらしい。
「……今回ばかりは、のりも悪いような気がするわ…」
 
「見損なったですよ! チビ人間」
「だから僕は無実だぁ!!!」
「よりによってチビ苺の下着なんて……下着ぐらい……そんなものぐらい、一言言えば翠星石だって……」
「す、翠星石?」
「今なら可愛い妹のもつけるですぅ!」
「翠星石! 僕の下着を勝手につけないで!」
「だから人形の下着なんていらねえっ!!!」
「そうね、ジュン君、雛苺ちゃんはダメよ。どうしても我慢できなくなったらお姉ちゃんのをあげるから」
「そーいう問題じゃねえーーーーー!!!!」
「しゃ、しゃーねーです、こーなったら特別に翠星石がチビ人間に施してやるですよ。喜びやがれですぅ」
「翠星石、ショックなのはわかるけれど、気を確かに持つんだ!」
「いらん。だから脱ぐなーーーーー!!!!!!!」
 
「騒がしいわね…」
 四人の騒動を余所に、真紅はソファに座り込む。
「雛苺、紅茶を煎れなさい」
「ハイなのぉ!」
 この後、真紅が一同に真相を開陳するまで紅茶三杯を要したという。
 
あとがき
 
 
 
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