<うつつ>
志摩子は、そっとその入れ物を撫でた。
ぽたり、ぽたりと滴が落ちる。染みがついてしまうかもしれない、だが、構わない。
そうすることで、自分は救われるのだ。自分の存在を、押し付けているという気分になって。
「お姉さま…」
呟く声。志摩子は自分の声が、あまりにも掠れていることに少し驚いた。
ぽん、と肩に手が置かれた。
振り返れば、そこには、二つ上のあの人がいる。
「まだ、お姉さまと呼んであげているのね」
「私のお姉さまは、佐藤聖さま唯一人です。それは生涯変わることはありません。 …蓉子さま」
水野蓉子さまが、そこにいた。
落ち着き払っている様子が、あまりにも堂々としていたが、目が赤いことに志摩子は気付いていた。先ほど執り行われた式でも、そのことに気付いたのは彼女だけだった。
「どうしようも、ないわ」
「はい。どうしようもありません」
でも、それは。
事実の確認でしかない。
――そう。ヒトはいつか死ぬ、なんて。
「でも。悲しいというのは変わらないではないですか」
「そうね。分かっていても、割り切れないわよね」
話しているうちに、また視界が滲みはじめている。
蓉子さまも、声がぐずつきはじめていた。
そして、心残りを吐き出すかのように、二人で泣いた。
背中合わせで。
祈りながら。
ああ、天にまします我らが神よ。
たとえ死を迎えても、佐藤聖の魂に安らぎがあらんことを。
十字は切らない。
ただ、祈った。
それが、彼女のためだと思って。