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お父様の秘密
 
 
 瞳子は呆然とその場に立ちつくしていた。
 そんな…………
 呻きにも似た軋んだ思いが脳裏を埋め尽くす。
 信じたくない。信じられるわけがない。しかし、そう考えれば全てのつじつまが合うというのもまた事実だった。
 お父様が……そんな……
 意気消沈した瞳子をさらに打ちのめすような暗い空の色の下、瞳子は今にも落ちてきそうなほど暗くなってきた空を見上げる。
 落ちてきた……水滴が。
 それは、瞳子の涙雨なのかも知れない。
 
 
 降り始めた雨を眺めながら、柏木は唇を噛みしめていた。
 ……瞳子に、ついに知られてしまったのだよ。
 ……私が、不注意だったんだ。
 困惑した瞳子の父親の言葉が耳に蘇る。
 ……ああ
 柏木は、年齢に相応しくない大きな溜息をついた。
 瞳子を守りたいと思った心に偽りはない。しかし、現実という大きなものから瞳子を守れるだけの力が自分にあるのだろうか。
 ない。
 年齢という、どうしようもない現実が柏木を包んでいた。
 現実という魔物から瞳子を守る方法など、本当にあるのだろうか。よしんばあるとしても、今の自分にそれは実行できるのだろうか。実行できない方法など、存在しないに等しいではないか。
 護りたい。
 瞳子を護ってあげたい。
 妹を護ってあげたい。
 柏木は、懸命に考えていた。
 
 
「え? 瞳子ちゃんが?」
 祥子がその話を聞いたのは、柏木が瞳子の父親から聞かされた直後だった。
「そう。知ってしまったのね」
「そういえば、祥子さんはいつ頃から知っていたかしら?」
 母親の問いに、祥子は軽く首を傾げた。
「そうですね……多分、一年生の頃には知っていたと思います」
「すごいわね。私は、瞳子ちゃんが三歳くらいの時に初めて知ったのよ」
「え?」
 祥子の目が厳しくなる。時々、祥子はこういう目になるのだ。
 信じられないものを見たとき。あるいは、自分と全く相容れないことを言う人を見たとき。
「遅すぎます」
「そうかしら? 知らなくても別に困ったことなんてなかったわよ?」
 母親の言葉に祥子はハッと気付いた。
 確かに、困ることなど何もない。瞳子が例えそれを知らなかったままでも、何の支障があるというのか。
 いや、あえて考えるならば、知らないままのほうが幸せではないだろうか。
「だけど、瞳子ちゃんや祥子さんのような人は、いずれは疑問に思って、調べたくなるのね」
 あくまでも優しい母親の言葉に、祥子は自分がとても小さく思えていた。
「せめて、自分で調べてわかったことなら良かったのに。不注意で知られてしまうなんて」
 祥子は考えていた。
 そして、想像した。瞳子の受けたであろう衝撃を。
 わからない。いくら想像してもそれを知ることはできない。ただ、大きなショックを受けたであろう事は容易に想像できる。
 なんとか瞳子を救う方法はないのだろうか、と祥子は考えていた。
 
 
 そして柏木は祥子に、祥子は柏木に声をかける。
「優さん」
 祥子は、頼れる幼なじみであり許嫁でもある柏木に。
「さっちゃん」
 柏木は、瞳子と一番親しく、気持ちもわかるであろう祥子に。
 二人は一緒に考えた。
 そこで出た結論に祥子は難色を示す。
 それでも柏木の決意は翻らない。
「これはきっと、僕にしかできない。いや、僕がやるべき事だから」
「危険ですわ」
「構わないよ。瞳子のためなんだからね」
 祥子はほんの少し、瞳子に嫉妬した。
 
 
 
 
 そして○年後。
 
 
「サンタっていつ頃まで信じてた?」
 乃梨子の問いに、可南子は即座に答えた。
「すぐに気付いたわよ、お父さんだって。なにしろ、お人形をお願いしたのにバスケットボールが枕元にあったんだから」
「あ、ごめん」
「喜んで部屋に飾ったけど」
「……見事なばかりにファザコン」
「うるさい」
 瞳子は? と尋ねると、何故か遠くを見る目。
「初等部の頃、お父様がサンタの正体だとクラスメートに言われたときはショックでしたわ」
「まあね」
「だけど、そのクリスマスに本当の正体がわかりました」
「はい?」
「夜中に忍び込んできたサンタの正体は、優お兄様でした」
「なんかそれ、いろいろとおかしくない?」
「いいんです。瞳子のサンタは優お兄様で」
 瞳子は、誇らしげに微笑んでいた。
 
 
 
 
 
あとがき
 
 
 
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